2013年12月29日日曜日

見本帳に無い色を指定するにはどうすればいいのか?問題

2013年も残りわずかとなりました。
今年は一層、様々な調整に関わる機会が多く、その度に『根拠のある選定の理由』をきちんと説明すること、そして時間の経過を見据えて判断をすること、を心がけてきました。

まだ解決には至らないことも多くありますが、その中でも次年へ引き続きの課題として何か良好な策を生み出し、実現に向けて動いて行きたいと考えている事案があります。その件については、年末年始、様々な情報や事例を整理した上でここに記載したいと思っています。

下の写真は日本塗料工業会が発行している塗料用色見本帳の2013年度版に掲載されている632色マンセル色度図にプロットしたものです。上段の彩度のグラフを見ると、特に寒色系は彩度3・5が無く、上下(2または4)いずれかに割り振られていることがわかります。

2013年度版の632色をマンセル色度図にプロットしたもの。彩度の偏りが一目でわかります。
明度と組み合わせて考えても、例えば落ち着きのある『5PB 3/3』『5PB 4/3』等の色番がありません。もちろん実際には存在しますし、塗装見本などをその数値狙いで指示をし、作成することは可能です。色は物理的には無限ですから、632色という色数でも足りないと思う場面が多くありますし、建築や環境・景観という側面に限定すればもう少し低彩度色が充実しても良いように思います。

この色とこの色の間、という指定も可能ですが、そうした中間色や見本帳に無い色の指示は(自身の分野においては)ほとんどの場合通用しなくなってきました。番号に無い色は再現・管理できないというのは思い込みにすぎませんが、やはり手間はかかりますし、場合によってはコストが高くなることもあります。こうした事情を鑑みると、これだけ一般に流通している色見本帳が果たす役割は大きく、その質が日本のまちなみ(の一定の部分を)担っている、と言えるのかも知れません。

2013年度版には屋根用塗料カラーパレット、中国建築用塗料カラーパレットなどが解説と共に掲載されていますが、これをもっと『日本の』建築用に編集し、豊かな低彩度のグラデーションを見やすくしたり、間違いのない色合わせが自然に出来るような構成(配列を変えるだけでも更に見やすくなる)を検討してみたいと思っています。

もちろん、こうした色見本帳に頼らず、独自に調合をし何度も色見本で検証し、素晴らしい色彩空間をつくりだしている建築家も数多くいらっしゃいます。施主と直接話をする、或は現場を監理する立場であればそのようなやり方は可能ですし、私達も事情が許せば、あるいはどうしても見本帳の色番では不具合が大きく、また他への影響が大きすぎると懸念される場合は、そのような方法をとっています。

今年最も印象的だった身近な方の言葉に『どこまで本気か』という一言があるのですが、そこはまさに、『本気さが問われる』ということになるでしょう。

しかし日常の不具合はアドバイスの場面や(間に様々な人や部署が介在する)、既に大方の要素が決まってしまった段階で、部分的な調整に携わらなくてはならない場合等に生じます。常に自身が全ての決定・管理に携われるわけではないということを考えると、広く流通しているシステムを有効に活用することに(まずは)ベストを尽くすべきだと思っています。

色は無限とわかっていながら、632色の中から選定しなくてはならないという現実。色見本帳に掲載する色を選定している側に訴えかける、等の方法があるかも知れません。

一方、自身はコンクリート打ち放し色の測色等を続けていますが、実務に携わる立場からそうした現代の建築と相性の良い色やスケールや距離の変化に応じられる色等、『勝手に推奨色セット』をつくってみてはどうかと考えています。色々な建築家の方に『よく使う色』を伺ってみるのも面白そうです(日○工の色見本帳なんか使うかっ!って怒られたりして…)。

2014年も自分に出来ること・自分ならではのやり方を考えながら、素材と色彩・まちとまちなみについて、色々なチャレンジをして行こうと思います。

皆さま、どうか良いお年を。

2013年12月10日火曜日

マテリアルが持つ時間について


学生に課題の撮影には携帯を使わないよう言っていますが、自身のiPhoneの画像フォルダには気が付けばこのような写真が溜まっていきます。どこへ出かけても気になるのは、表情豊かなマテリアル。スケール感、重量感、テクスチャー、色合い、色むら。周辺の空気感もふくめあらゆる事象と渾然一体となり、でもその場で凛とした存在感を放っている。
そんなマテリアルに強く惹かれます。

グレイ×せっき質タイル=温かみ

紅葉した葉がそのまま壁になったよう @上野

それは単にタイルや煉瓦が好き、ということとも少し異なるかなと考えていて、惹かれる理由を何とか言葉にしたい、といつも苦心しています。マテリアルにはふさわしい『居場所』がありますから、いつどのような計画でもタイルや煉瓦を使おうということではもちろんなく、でもこうした素材の持つ表情の豊かさが身近にあって欲しいと思っています。

その居場所とは構造がつくるものです。そのことに気が付いてしまった昨年、必死で建築の構造のことを考えています。自身が違和を感じる建築物は、構造と素材が馴染んでいないためなのではないか等、構造と素材というテーマはそれが景色となって表れることの効果や影響を説く一つの切り口になるかも知れません。

私はまじまじとマテリアルを見るとき、そこにどのくらいの時間(情報)を読み取れるか、ということを考えます。これまで・いま・これから。タイル一つをとってもこの一枚がこうして壁面の一部になるまでには膨大な時間と多くの人の手を介していますし、原料である土を考えるとそれこそ私たちが産まれる前からこの世にあるものであり、素材一つが数十年・数百年という単位の情報を持っているのだと感じます。

それは現代の建築や工作物が持つ寿命をはるかに超えることすらあり、マテリアルが持つ強度はこれからのまちなみにどう影響して行くのだろうかということに思いが募ります。

森鴎外記念館。表面が削り取られ、なめらかな手触り。

床にも同じ煉瓦が使われています。

先日、今年最大の目標でもあった上州富岡駅の煉瓦積現場見学会を実施することができました(こちらのまとめは別途作業中です)。コンペの一等案により生まれ変わる新しい駅舎に対し、煉瓦という『素材としては比較的ありふれた』材料が用いられています。

設計の思想に基づき選定された煉瓦のサイズや色合い、それを監理するメーカー・現場、そして実際に積み上げる職人の技術と知識。初めて煉瓦が積まれる様を体感し、煉瓦というありふれた素材がとんでもなく未知の可能性を秘めているマテリアルだということを実感しました。建設中の上州富岡駅では煉瓦の『新しい使い方』が検討・実証されつつあり、見学会を開催・参加した立場として竣工後にも是非再訪したい施設です。

一方これは素材が泣いている、と感じる場面もあります。
今日見たとある現場(自身の仕事には関係のない)では、素材の良さを台無しにしてしまうような『ある工夫』が施されていました。勿体ない、の一言に尽きます。

この一年の間に煉瓦職人や煉瓦を製造するメーカーの方の話を聞いたり、様々な施工例を見たりする中で、タイルや煉瓦それぞれの表情を生かす目地の扱いや積み方に対する理解や興味が益々深まっています。でも自身がそれを形にする機会は、まだもう少し先でいい。もう少し時間をかけて、マテリアルが持つ膨大な情報量と向き合っていきたいと思っています。


自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂