基調色については以前にもいくつか記載していますが、まずは周辺との明るさの対比について、改めて解いてみました。
ある単色が私たちの眼前を覆いつくすという現象は日常生活の中ではほぼありません(白一色に覆われ方向感覚を失ってしまうホワイト・アウト等がそれに当たります)。ある色を見ているとき、必ず隣り合う何かや背景と共に認識をしており、それは背景や周囲から影響を受け、また同様に影響を与えるという相互の関係性にあります。
背景(地)の違いによる対象物(図)の見え方の変化① |
背景(地)の違いによる対象物(図)の見え方の変化② |
模式的に少し極端な見え方を示しました。明るい白系統を基調とした街並みと、深い緑に覆われた木立の中。中央の図は白から黒へのグラデーションを5段階で示したものです。
周囲が明るい場合、高明度色は馴染んで見え低明度色は対比的に感じられます。逆に周辺が暗い場合は、高明度色は一層際立ち、低明度色が馴染んでいるように感じられます。その色自体が持っている明るい・暗いという印象は最終的には周辺との関係性によって決定付けられるということを考えると、同じ白でもその環境にふさわしい白さがある、と言えるのではないでしょうか。
色彩設計を考えるとき、常にこの環境における図と地の関係性、ということを意識しています。そこには様々なスケールの横断があり、上図のように遠景レベルでの見え方の他、隣り合う他の要素や個々の形態が認識できる中景レベルでの見え方、そして対象物に近接した時のアイレベルにおける見え方を行き来しながら『対比の程度』をコントロールして行きます。
図と地はまた、ともすると逆転して見える可能性を持っています。昼と夜など時間の変化にも影響を受けますし、類似の形態が近接すること等により、地が図としてのまとまりを持つ場合もあります(ゲシュタルト心理学の近接や類似の要因、に拠る。これはこれでまた別項目をつくりたいと思います)。
意図しない見え方をする可能性を理解しつつ、だからこそこの図と地問題は周辺との関係性の中で、丁寧に見極める必要があるのではないか、と考えています。
素材や色を選定する際、何を手掛かりにするかということについては様々な要素や切り口がありますが、まずは基調となる色が環境の中で『どのような見え方をするか』ということを分析してみると、おのずとふさわしさが見えてくるのではないか、と思うのです。
白く際立たせたい、でも周辺の環境にも配慮が求められるという時など、その見え方は周辺との関係性によって決定づけられるということを意識するだけで、微細な調整も『当たり』をつけやすくなるはずです。
まずは遠景にもっとも大きな影響を与える明度(明るさ)の見え方を例に環境における図と地の関係性という考え方を示しましたが、次回は図と地の適切な面積比や割合について、彩度(鮮やかさ)の側面から、自然界の色彩構造を例に解いてみたいと思います。
例えば落葉樹に囲まれた森の中等では、背景の色が大きく変わることにより、対象物の色彩が変化するかの如く、季節によって見え方が変化するという場合があります。よくそのことについて『だから色選びは難しい』と言われますが、周囲の変化が前提で変化のおおよその様子を把握しておけば、そんなに怖がることでもないのになあ、というのがこの仕事を続けて来ての実感です。
次回はこの動く色・動かない色の関係性、がテーマです。