2017年11月23日木曜日

色彩を体験するための「装置」について

ちょうど昨年の今頃のことですが、母校、武蔵野美術大学基礎デザイン学科の50周年記念展【デザインの理念と形成:デザイン学の50年】に出展した作品を+ticの鈴木陽一郎さんに撮影して頂きました。

この展示に合わせ、解説書として作成した色彩の手帳にとても大きな反響を頂き、当初まったく予想していませんでしたが、増刷して販売するという展開になり、一年という時間の長さと速さを改めて噛みしめています。

Ⓒyoichirosuzuki
Ⓒyoichirosuzuki
おまけにGIFまでつくって頂きました。 Ⓒyoichirosuzuki

東京ミッドタウンのデザインハブで展示という機会は、自身にとっては一生に一度かも知れないなあなどと思いつつ、空間構成の特徴(500㎜×500㎜の展示台・高さは900㎜と500㎜の2種。この展示台が卒業生の数だけ並びました)を生かし、かつ特徴ある展示を行うためにはどういったものが良いだろうと考えた結果、構成の段階から+ticのお二人に協力を仰ぐこととなりました。

色彩は体験が重要なので、ただ見るだけの作品ではなく、来場された方が触ったり動かしたりできるものが良いと考えました。「配色の効果を体験できるカード等を展示台の上で組合せる」というとこからスタートし、さて何で(どうやって)カード等を自立させるか、という議論を進める中、台を「まち」に見立ててはどうか、というアイデアが生まれました。

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色彩の手帳の定位置、ぴったりにあつらえました。 Ⓒyoichirosuzuki

Ⓒyoichirosuzuki

25色はすべて一つの色相(10YR)です。 Ⓒyoichirosuzuki

どう組み合わせてもまとまる、色相調和の原理を表現しています。 Ⓒyoichirosuzuki

色彩の対比、同化、そして調和。色は2色以上が組み合わされ初めて、色彩として様々な効果を生みます。単色では暗く見えていた色が、組み合わせにより明るさを増したり、さらに沈んで見えたり。その感覚を手のひらサイズのカードによって、体感してもらえるようにと考えました。

自身は美術大学の演習で、学生に「台は大事だよ(ダジャレ込み)!」と常日頃言っていることもあり、この台座づくりにはかなりの神経を使いました。完成した姿を見た時、もやは台自体が単体で立派な作品となっていて、ああこれは大丈夫だな、とほっとしたことを思い出します。

全体の構想がまとまると、後は細かな調整です。カラーカードは何種類かの材料を試した結果、溝切などの加工がしやすく適度な重みのあるMDFにしたのですが、塗装してみるとかなり表面にざらつきがあることがわかり、25枚のカードに夜な夜なヤスリをかけ続けあわや塗装が間に合わないかも、というところまで追い込まれた、というのも今となっては楽しい記憶です。

最初に造ったモデル。角材に溝を掘り、自立させるまでは良かったのですが、角材をどう固定するか、長さは、全て直行で良いのかなど、角材であることの必然性に甘さが目立ちました。

10YR系の低彩度色、25色は自身で調色・塗装しました。

実は50周年なので、50枚を目指していたのですが、やすりがけが限界でした。

自身にとっては、自分の手でモノをつくることで生じる、各種の作業に宿る独特の感覚(微細な寸法や下地の調整、搬入・設置を含めた段取り等々…)が大きな刺激となり、大変ながらも約一か月半の日々は、とても充実した毎日でした。

一年が経ち、改めて作品の特徴をしっかりと捉えて頂き、こうして見直すことによりまた新たなアイデアが浮かびます。

近頃よく考えていることのひとつに、何をそうやって「伝えるか」ということよりも「どう伝わるのか・伝わったのか」ということが重要なのかもしれない、ということがあります。もちろん伝えたいことが的確に伝わるよう、様々な工夫は必要ですし、このBlogもその一環です。

長く(苦戦しながら)伝えることについて考えているうち、伝えたい・わかって欲しいという気持ちはさておき、私が考え・実践してきたことが何がしかの結果に繋がり、ごく自然なこととして良い方に伝わる(理解してもらえる)経験が増えてきました。

「ああ、伝わったんだなあ…」という感覚と同時に、こちらにも先方の意志や意識の変化が「伝わってくる」と感じることが多くあります。
あらゆる関係は、相互作用によって成り立っている、ということなのかも知れません。

こうしてプロセスをまとめられたこともまた、ひとつの結果として。何が・どう伝わったのか、周囲の方々の反応がとても興味深く、大きな刺激になります。

展示企画・制作協力:
 鈴木陽一郎・鈴木知悠/+tic
 磯部雄一/CORNEL FURNITURE

2017年9月27日水曜日

色彩計画において、複数案を提示する理由

長く色彩計画に携わってきた中で、よく尋ねられたり要望されたりすることの多いこととして、「デザインなのになぜ幾つもの案を出すのか」「今回時間も予算も少ないから、1案だけでやって欲しい」等のことがあります。

私自身は、学生時代から今の会社でアルバイトをしていたので、実はさほどそのことを疑問に思ったことはありませんでした。確かに常にベストだと考える計画案を提示していますが、それはあくまで考え方(或いは方向性)であり、色彩は「絶対に」この色でなければならないということは考えにくいためです。

建築や土木の設計と大きく異なる部分はそこだと考えていて、例えば建築でどういう構造で・どういう設計にするかによっては、人の生命に係わる場合もあります。その判断を専門家以外に委ねるということはあり得ず、高度な技術や知識を必要とする専門的な業務だからこそ、資格を持った建築士や設計者が検証と選択・決定を重ねていくのだ、ということが言えるでしょう。

私はその点、むしろ色彩の「大らかさ」を利点と考えている部分があります。例えば同じ仕様(条件)の場合、塗装色を変えても機能やコストには(建築の構造や意匠ほどには)殆ど影響がありません。色彩の「バリエーションがつくりやすい」、という特性を生かし、検討や成果の検証に地域の方々を巻き込むことで、その後の「まちや人の育成」に係わっていくことができないだろうか、ということは私達が長く取り組んできたテーマのひとつです。

先日、CLIMATが改修計画に携わっている東京都下の団地でのイベントで、色彩計画案の人気投票をやってくれないかという依頼を受けました。今まで自治会や組合単位での説明会などの経験はありましたが、広く地域の方々にというのは初めての経験でしたので、パネルの構成や解説など色々な工夫を凝らし、先週末、実施に至りました。

2日目の日曜日には多くのご家族が投票に参加して下さいました。
“投票所”はランドスケープ事務所、stgk の熊谷玄さんが作成したワゴンをお借りして。
屋根のイエローに合わせ、投票シールもイエローでコーディネートしました。
今回初めて挑戦した、チョークボード。
スタッフ小林が眠っていた?才能を発揮してくれました。
お祭りではダンスやパフォーマンス等、盛りだくさんのプログラムが。
ケヤキの精とヒツジと子供たちが、大きなケヤキの下で輪になって踊る一幕も。
依頼主である分譲団地の自治会としては、投票で最終案を決めるわけではないけれど、実施が迫り、住民同士の意見も多様にある中で、ここはひとつ団地の住民以外の方にも意見を聞いてみよう、という趣旨でした。

提案を作成した私達としては、最終的にどの案が選ばれても「環境として成り立つ」考え方を提示していますので、どの案がというよりも「この案だと団地のこういう特性が強化される」とか、「この案だと長く見慣れてきた環境に近いので、違和感は最も少ない(でもちょっと物足りないかも知れない…)。」等の差違を見極めています。

案毎に異なるのは「最も強調(継承、育成)したい点のベクトル」であり、優劣の差ではありません。その観点を意識しながら解説をしていくと、多くの方が「どの案が良いか・好きか」という直感的な視点から「こういう見え方は今より変化があって良いかも」や「今までよりだいぶ落ち着いていて、緑が映えそう」等の意見に変化して行きました(もちろん、印象だけで判断される方や、お一方だけ「今のままが良い」という方もいらっしゃいました)。

今回の計画は分譲団地ですから、最終的には「専門家が決めた・良いと言ったから」ではなく「自分たちが長く暮らし、これからは若い人たちにも入居して欲しい、だからこういう刷新性を(或いは継続性を)選択した」と言えることが望ましいのではないか、と考えています。

本件は施工業者が決まり、間もなく改修に向けての準備が始まるそうです。来年の新緑の頃には、新しい団地が誕生するそうですよ、という一言に、地域の多くの方々が期待を持ち、どのような景色が「よりふさわしいか」と評価をして下さった結果が、実施計画案の決定に繋がるのか…。楽しみに待ちたいと思います。
(もちろん、決定案の現場監理はしっかり行います。)

2017年6月26日月曜日

同じ(ような)色でも評価の異なる理由について

「色は(検討・選定に関して)パラメータが多すぎる。」
とある照明デザイナーの方に(…何度も)言われた言葉です。パラメータとはコンピュータ―用語で「プログラムの動作条件を与えるための情報」などと言われ、なるほど、情報がデジタルに変換される照明の世界においては、正確に光を制御したり演出したりするために情報を緻密にコントロールすることが不可欠なのだと感じます。

昨晩、NHKスペシャルで「人工知能 天使か悪魔か2017」という番組が放映されました。最近、金融関係の方にこの分野の応用が最も進んでいるのは金融業界という話を聞いていたので、最先端に対する理解が深まった一方、この分野の進化はいったいどこまで検討・選定を必要とする(される)領域に変化や改革をもたらすのか、といったことを考えています。
(※既にある領域においては相当な改革をもたらしていることを大前提として)

話を環境色彩デザインに戻しまして。
先日、弊社所長のFacebookへの投稿により隅田川に掛かる蔵前橋の塗装が完了したことを知りました。墨田区の景観アドバイザー会議でも検討・審議がなされ、かなり彩度の高かった黄色が穏やかなクリーム色に変わったそうです(色の系統は現行のものを継承し、全体に彩度を下げる、色数を減らし統一感を出す等の、隅田川にかかる橋梁全体の検証・検討がなされています)。

※蔵前橋の色についてはこちらに詳細の記載あり。

なぜその色なのかということを考える時、特に公共施設・設備については何かのイメージを当てはめられたり、無難そうだからといった理由で決められているものが少なくありません。(前述の蔵前橋は「川沿いに建ち並んでいた米蔵→稲穂の色」からの連想だとか。)

蔵前橋・2014年2月撮影。
写真は再塗装を施す前の蔵前橋です。彩度は12程度(2.5Y系・JISでは最高彩度が14なのでほぼ純色)ありました。「鮮やかな色は活気があっていい」「東京は既にごちゃごちゃ、周囲の屋外広告物の方がひどい」などの意見があることは百も承知の上で書きますが。
やはり「派手な黄色がとにかくダメ」なのではなく、

①舗装の色(相)やパターンとの色彩的な不調和感。
②周囲の建築物等(特に右手にあるR系の外装色)との色彩的な不調和感。
③鮮やかな色が持つ印象と工作物の相性(他に類を見ない派手さ・物質の持つ素材感や橋梁としての量感を打ち消す無機質さ)。
が問題なのではないか、と考えています。

そういう解き方(視点)で考えると、「あの派手な黄色は良好な景色になりにくいが、この鮮やかな黄色は良い(雰囲気だと感じる)のは何故か」が証明できるのではないか、というのが自身にとってのひとつの仮設であり、評価や判断の指針です。

小布施町にて。2013年10月。
写真は長野県の小布施町で見かけたカフェテラスの一画です。こちらも景色の一部に鮮やかな黄色が見えていますが、同じ(ような)色でも随分と印象が異なるのではないでしょうか。
これを先の解き方で考えてみると。

①舗装の色が低彩度でまとめられており、建築外装と一体的に「地」がつくり出されている。
②周囲の建築物や樹木(幹)等は暖色系の低彩度色に納まっている。
③鮮やかな色が持つ印象と対象物の相性(テントの柔らかな素材感(布)、開閉が想像されるので定位した塊ではなく、色の存在が現象として認識できる…等)。

を基準に、評価や判断をすることができるのではないかと仮説を立てています。

この仮説が完璧で、どのような人にも通じるという自信がある訳ではありませんが。歴史や文化、デザインの質や個人の嗜好などを超えて共通の認識を(もちろん完全にではなく)どう持てるか(持つことが可能か)、ということをいつも考えています。

冒頭のAIに話を戻しますと。いずれこうした判断を客観的に人工知能が示してくれる時代が来るのかも知れません(技術的には充分可能だと思います)。根拠を持たないその場限りの印象論(鮮やかな色は活気があって良い・東京には既に秩序はない…等々)を、人の心理や感情を省いた人工知能に支配される環境が理想だとは到底思えませんが、都度理詰めで解説することにいささか疲れを感じてしまうこともあります。

そんな時、支えになるのは所長がよく言っていた「何を・どうするか、すべきか、最後は自分に聞け」という言葉です(あれ?最近言われなくなったなあ…)。
今のところは周囲の人たちの心理や感情をくみ取りながら、最適解を導き出していくといった地道なやり方に、可能性を感じていることも確かな事実です。

パラメータが多すぎると言われようが、(環境色彩計画によって)まちに活気がなくなると言われようが。それもそうかも知れませんけど、こういう見方もありますよねー、ということを体感によって証明し続けていくしかない、というのが(今のところ)自身の答えではあります。

…わかっているなら黙ってやれ、ということですね。

2017年3月3日金曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑱-かたちや空間に色を与える意味とは?

たまには、いきなり結論から参ります。
かたちや空間に色を与えることは、空間や環境認知の手がかりをつくるためではないか、と思うのです。

とあるプロジェクトの会議の際、設計者の方から「そういえば、東雲にカラフルな天井ありましたよね」と言われ、確か写真を撮っていたなと思い探したところ、ありました、ちゃんと。

東雲キャナルコートCODAN・3街区

東雲キャナルコートCODAN、ご存知の方も多いことでしょう。平成15年~17年にかけて竣工とありますから、かれこれ1214年が経過しています。

「住むことをデザインする」をコンセプトにつくられた新しい都市型住宅には、様々なアイデアや実験的な試みが盛り込まれています。

建築的なあれこれは、専門の方にお譲りするとして…。
主に素材(色)がファサードの構成要素となっている中、この街区を歩いているとそこかしこにカラフルな色が見え隠れしていることに気が付きます。中でも自身が最も印象的だったのは3街区(基本設計:隈研吾建築都市設計事務所、実施設計・施工:アール・アイ・エー、前田・間・長谷工建設工事 共同企業体)の「ヴォイド」と呼ばれるコモンスペース(共用空間)の配色です。

例えば、エントランス部分、吹抜け空間にはモザイクパターンが展開され、壁や天井に多色が配されています。光と風をふんだんに取り込むためのヴォイド/吹抜け空間の演出ということを考える時、この配色が奥へ向かうほど暗さを増していくさま(奥行感)が色彩により強調されていたり、庇を通して差し込む陽射しにより色の濃淡が変化し、より印象的なコントラストを生みだしたりしている様子が見て取れます。
(…2009年時には分析する力が乏しく、とてもこういう表現はできなかったなあ、と思いつつ。)

モザイクパターンと影のパターンが重なりあい、多様な景色が描かれています。

もちろん、白一色の空間でも同じような効果は体験できるはずです。でも色彩があることで強調されたり、より印象に感じられたりする―。

かたちや空間と色彩が合いまる(=互いに効果を与え合う)ことで、かたちや空間の特性がより明確に=認知のための手がかりとなるのではないかということを考えながら、検証と実践を繰り返して行きたいと考えています。

もちろん、その手掛かりが余計なお世話、になる可能性にも充分配慮しながら。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂