2012年8月29日水曜日

配慮が感じられる、ということ-京都市内の屋外広告物

8月、お盆の時期に急に中国山東省へ調査に行くことになり、どうやらまとまった夏休みが取れそうに無かったのですが、先週末土日と月曜一日だけ休みを取って、京都へ行ってきました。

…この暑い時期に、何と物好きなと思いつつ。実は過去二度、ホテルや新幹線の予約まで済ませながら、同じく急な中国出張でキャンセル、という事態があり、半ば意地もあって強行してきました。

色々な人に驚かれましたが、京都訪問は実は中学の修学旅行以来でした。
見たい場所やお店は本当に満載だったのですが、今回は庭園と屋外広告物に的を絞って、市内の各所を巡ってきました。

三日間晴天に恵まれ、夏の濃い緑がつくる木陰には涼やかな風が吹き渡っていました。嵐山電車のホームを始め、市内の各所には風鈴が飾られており、その音色にも随分と救われました。

素晴らしい景色もいずれご紹介するとして、まずは最も印象的だった屋外広告物の事例をいくつかご紹介したいと思います。

重森三玲庭園美術館へ向かう道すがら見かけた貸駐車場の看板。のぼり旗も敷地をはみ出ていません。
龍安寺の近くの住宅街。同じ会社の市外地にある物はブルー系でした。
表示の面積が既定されているため、地の部分が多くあります。派手な高彩度色でなくても視認性があります。
河原町(中心市街地)でも表示部分の面積既定によりCIカラーはグッと控えめです。
パッと見ただけで、『色を抑えている』とわかる事例がいくつもありました。
京都市では景観法の施行以後、建築物の高さやデザインの規制と合わせて、屋外広告物の制度についても大幅に見直しを行い、歴史あるまちにふさわしい良好な景観の形成が図られています。

内容を見てみると他の都市に比べ、屋上広告の設置禁止など、かなり厳しい基準となっていることがわかります。もちろん地域別に細かく規制の強度が使い分けられており、一律に、というわけではありません。既に設置の許可を得ている広告物に対しては平成26年8月末まで経過措置制度が設けられており、駅前などを見てみると屋上広告物については移行期間であることを伺い知ることが出来ます。

京都駅前。突き出し看板も殆ど無く、シンプルな切文字でとてもすっきりとした印象でした。
同じく京都駅前。基調色に合わせたニュートラル系の表記。
屋外広告物の他にも、嵐山等の観光地では趣きあるまちなみに馴染むよう、工夫がなされている事例が多くありました。

桂川・渡月橋付近のお土産物屋さん。自販機の彩度はもう少し抑えたい感じです。奥のゴミ箱ももう一息。
一観光客として、ゆっくり景色や食を楽しむはずが、いつもの調査のようにカメラを手放すことが出来ず何とも慌しい3日間でした。まずはよい事例を中心にご紹介しましたが、もちろんまだまだだなあ、と思う部分も沢山ありました。でも、数値規制に出来ることとその成果を実際に目の当たりにし、色彩を抑えることによって『見えてくる景色』があることを確認することができました。

環境の中で、それが歴史あるまちであろうと、様々な機能が集積して出来た“景観資源という視点に欠ける特徴の無いまち” であろうと、まだまだ出来ること・やるべきことがあるように感じます。

ほんの少しでも主張を控えることによって、周辺環境やそのまちが築いてきた時間と良好な関係性を築くことが出来るということを考えると、色彩の果たす役割にもまだ様々な期待が持てる、と自身を励ましたくなりました。

2012年8月17日金曜日

カラーシミュレーションの活用について

カラーシミュレーション。検証やプレゼンテーションに有効なツールの一つです。特にPCの普及・発展により、色や質感を豊富な選択肢の中から様々に変えてみるということがとても簡易になりました。

一方、そうした検証もPCソフト等を操作する側の意思が働くため、色彩選定の知識がなければ『どうすればいいのかわからない』状態を生みやすく、ハウスメーカーのサイト等では結局のところ好き・嫌い、という嗜好性に偏ってしまう場合も多いように感じています。

私自身はカラーシミュレーションは単なる検証、とは考えていません。
具体的に言うと『何色にするか』を選ぶためのツールではなく、『選定した色が周辺との関係においてどのように見えるか』を検証するためのツールである、と思っています。

例えばこんな具合です。

昨年訪れた野沢温泉村でみかけた風景。冬枯れの景色の中で、人工的な青が目立っていました。

カラーシミュレーションにより青いシートを穏やかなYR(ワイアール)製品に変えた場合。

その場の状況を整えたい、あるいは『こういう見え方が望ましい』という指針や目標があって始めて、色彩の善し悪しは決定付けられます。

個人の趣味やその日の気分でファッションやプロダクト製品を選ぶとのは異なり、何色にしようかなという検証を闇雲に建築物や工作物で行うことには抵抗がありますし、対象物によって色(や素材)を選ぶということの役割や目的には大きな違いがあると感じています。

また一方では、そうした自由に色を変えられる、という特性を積極的に生かす場合もあります。住民参加によるワークショップなどの場合にはまず好きな色を選んでもらい、それを建築物等に展開した場合、どのような見え方をするか(大抵の場合、そんなつもりではなかった、ということになりますが)を実際にみてもらい、まちの色がどの程度のものであるかということを体感してもらいます。

百聞は一見にしかず。
まさにこの言葉の通りですが、環境色彩デザインにおいては、その選定した色(いくつかの候補はもちろんあれど)が『まちなみ形成においてどれほど効果的であるか』という点を示すことが出来るか、ということに力を注いでいます。

(本項のカラーシミュレーションは山田敬太さんが作成しました。山田さんが執筆を担当したMATECOレポートはこちら。)

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂