建築や土木の設計においてはその専門性に即した色彩学、が必要ですしあるべきだと考えています。自身が曲がりなりにも20年と少し、そのような対象と向き合ってきた経験から、何か役に立つことをコンパクトにまとめることが出来れば良いなと思い、本Blogを書き始めました。
今後は『特に重要!』という内容には、このタイトルを使って行きたいと思います。
色の数は(物理的な意味で)無限にあります。
種類が豊富であるということは、選択の自由さや多様性の象徴ですが、時としてその“お腹一杯”な具合に辟易してしまう場面も増えつつあるように感じています。
今海外のとあるプロジェクトで、2000色の塗料から建築設計に使いやすい200色を抽出し、カラーシステムを構築するという作業に携わっています。
2000色という色数、例えば日本で最も汎用性のある日本塗料工業会の色見本帳は632色(2011年度版)と比べるとその充実ぶりが伺えますが、中には区別のしずらい、誤差の範囲とも取れるような差異のものも見られます。色数の豊富さをむやみに競うより、使いやすくこなれた色群をまとめる編集力が高められ、“適切な”数量を賢く使いこなす方向へシフトして行くとよいな、と考えています。
ごく簡単ではありますが、入手しやすい市販の色見本帳の特徴と利点、扱う際の留意事項をまとめてみました。
他にも多々ありますが、価格があまりに高価で、学生や若い方が気軽に入手できるものではありませんし、自身も持っていませんのでここでの紹介は省きます。(ご興味のあります方はこちら。)
想像力を膨らませたり、既にある素材(天然石や木材等)の近似色を選定する際には出来るだけ色数が多い方が良いかも知れませんが、その際使用する色見本に汎用性が無いと、指定や指示の際には問題が生じます。
設計の実務においてはこの『指定・指示にかかる時間』を考慮しなくてはなりません。製品の色見本を製作するのにメーカーに依頼した場合、塗料等は大体一週間、タイルは2週間前後、金属の焼付塗装等は2週間~1ヶ月…と製造のプロセスによって見本の仕上がりには時差があります。
目的に合ったツールを使う。環境色彩デザインにおいても、道具選びは重要です。
●日本塗料工業会 標準色見本帳(通称日塗工・全632色)
2年毎に改訂され、持ち歩きしやすいポケット版とミシン目があり切り取りが可能なワイド晩の2種があります。
建築・土木などによく使われる暖色系の低彩度色が充実しており、ポケット板が一冊あれば簡易な調査から計画・指定まで、『とりあえず』は事足ります。
使い慣れてくると『この色の彩度をもう少し下げたい』など、欲求が出てきますが、例えば『19-60B(10YR 6.0/1.0)とN60の中間』と指示をすれば、彩度を0.5程度下げた色、10YR 6.0/0.5程度を指定することも可能です。
(全ての建材で同様の指示が通るとか限らず、現場やメーカーの営業や工場の方とのコミュニケーションが必要になります。)
ポケット板は現在、Amazonでも購入可能になり、その手軽さと利便性、普及率が最も高いツールと言えるでしょう。
●日本ペイント エクステリアカラー(全340色)
塗料工業会の標準色見本帳に比べると高価ですが、何より『エクステリア』用と謳われているだけあって、マンセル表色系の分類法に従い系統的に分類され、色相・トーンが揃っている点が大変優れていると思います。
販売元のHPにはカット式の色見本帳の掲載しか見当たりませんが、CLIMATには全体のシステムがわかる蛇腹式のチャートがあり、色相・明度・彩度が整い、いわゆる『コーディネートのしやすさ』という点でとても使いやすい製品です。
常々、“色は構造”であるということを意識していますが、その構造をひと目で・一覧に表記している建築・土木等設計用の色見本帳というのはあまり見かけることがありません。
日塗工の632色がこのようなチャートになっていると大変便利だと思うのですが。…ちょっと作ってみようかとも目論んでいます。
かれこれ10年くらい使っているのでボロボロですが…。背面に領布価格は2000円と記載がありました。 |
ちなみにサンプルなどで指定の色をつくってもらうには番号やマンセル値の指示よりも、色見本(色票やタイルであればタイル現品)を渡し、その見本に色を合わせてもらうのが最も確実だと思います。依頼と指示・指定、それぞれにふさわしい方法がいくつかありそうです。
●クロマリズム(全1280色)
主に内装用として開発された色見本帳。マンセル値が記載されており、色相配列になっているので大変見やすい見本帳の一つです。クロマリズムはこの本体(…ポケット、と呼ぶにはいささかサイズが大きく重いので、持ち歩きはしづらいです)のみで、カット出来るチップがありません。
しかし、色相配列の色見本帳は検討用には便利で、例えば日塗工の見本に無い色をこちらで探して、その色を元に色票を作成し現場へ手渡しする、といった使い方が可能です。
その他、PANTONEやDICの色見本帳は色数が豊富で文具・画材店等でも扱いがあり、デザイン科の学生はこちらの方が親しみがあると思います。しかしこれらの色見本は多色の使用を必要とするグラフィックやプロダクト製品等のデザインのために開発されたものであり、その豊富な色の中からグラフィックデザイン等とは目的の異なる建築や土木、ランドスケープデザイン等において『使えない色』が多すぎるように感じます。
『使いたい色』を抽出するために、検討の対象や目的毎に、色見本帳を使い分けることが望ましい、と思っています。
余談ですが、日本ペイントの色彩ツールの中に、日建設計基準色2010(47色)というものがありました。竹中工務店の色見本帳というものもあり、これは以前設計の方に譲って頂いたことがありますが、こちらも47色でした。
自身の経験からすると『う~んここまで絞るのか』と唸ってしまうほど、ニュートラル系の低彩度色を中心とした構成でした。(もちろん、業務によって色々な使い分けがなされていることと思います。)
色彩検討のために必要な色の幅、選定のために必要なツール、指定・管理のために求められる汎用性。これらの段階をしっかり意識しつつ、適切な使い分けをしていけば、色に対する苦手意識はきっと払拭できると思っています。
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