2013年8月14日水曜日

測色017-MIKIMOTO GINZA2のメタリック塗装

測色から随分と時間が空いてしまいました(…6月29日)。
7月は合計14日間、海外で現地調査をしたり、MATECOや会員となっているNPOの活動等、様々な企画の調整事項に追われ、気が付けばあっという間に8月という状況です。

色々と優先事項を付けて行くと、日々の記録がどうしても後回しになります。その間、何かと比較したり関連する案件等をメモしたりしながら、忘れている訳では無いのですが、時間のおかげで普段自分が考えている色々なことが繋がって行くような感覚もあります。

今回測ったのは建築家の伊東豊雄氏が設計し、2005年に竣工したMIKIMOTO GINZA2です。
ファサードに継ぎ目がなく、構造に大変特徴のあるビルです。2枚の鋼板の間にコンクリートを充てんし、20センチという壁の厚さそのものが構造体になっている、のだそうです。

と、ここまでの情報はこちらの記事を参考にしました。この中に記載されている『鋼板の溶接は手で行っている』という部分に、興味を惹かれました。新しい技術は人の手によって(原始的な方法で)実現されており、そのようにして完成したなめらかな壁面に均質な塗装が一段と映えているのだ、と感じます。

壁面の色は5RP 7.8/2.5程度。RPはレッドパープルですから、赤みに寄った紫系統の色、ということになります。日塗工の色見本帳がもしお手元にあれば近似色を見て頂きたいのですが、このRP系の彩度2.5という色は色見本帳で見たときに随分と色味を感じる色だと思います。特に建築の基調色に、と考えると尚更です。

彩度2.5、がにわかに信じられず、しっかり近寄って計測しました。
この鋼板に施された塗装を近づいてよく見ると、自動車等に見られるような金属調であることがわかります。金属の粒子が外部からの光を受けて輝き、見る角度によって見え方が変化します。もしかするとパールの光り方、がイメージされたのかも知れません。

外観を見上げるとその特徴が顕著に表れます。正面から対峙するように壁を見ると、確かに彩度があり、かなりピンキッシュな色であるという印象を受けます。ところが、視点を変えてファサードを見上げてみると、建物上部の方は白っぽく(色味が飛んで)見えます。下の写真でもその様子を捉えることができていると思います。

視点により色の見え方が変化するファサード。
最近、○○調・○○風、という新建材に辟易してしまう部分があるのですが、人工的な建材の場合、もう少し色そのもので勝負すべきなのではないか、と感じることが多くあります。

この鋼板のメタリック塗装は地が金属ですから、金属×金属塗装は当然基材との一体感があるというか、壁自体の量感やともすると巨大な印象を与えてしまいがちなフラットな壁面の見え方がとてもうまくコントロールされている、と思いました。

ミキモトというブランド、銀座という立地。淡くピンキッシュな色調は、当然店舗を訪れたり街をゆく洗練された女性たち、のイメージもあったことと推測します。金属・鋼板そのものは硬質でシャープなイメージを持っていますが、こうしたやわらかな色も馴染む(形態や規模によるものの)のだ、ということがとても新鮮に感じられる一例だと思います。

逆の例でいくと、地方の歩道橋等にこうした色(やわらかなパステルカラー)が展開されいていることが多くあります。そういう例を見ると『金属に軽い色は馴染みにくいな』とずっと思っていたのですが、光沢感等も含めた塗料の質、も大きく影響しているのだと考えるようになりました。

ちなみに、このメタリックカラー。特別な建築でなくても、私達も普段からよく使っています。色見本の作成を指示する場合はオートカラーという自動車補修用の色見本帳を活用しています。これは一般にも市販されていて、光沢感等がリアルに再現されたカラーチップと共に、自動車メーカー・車種・塗色名・塗色番号等が掲載されています。

例えば集合住宅やオフィスのエレベーターの鋼製扉。仕様はステンレスエッチングで入っていて、でもどうもその質感ではインテリアに馴染まない、などということがよくあります。かといってべたっとした塗装だと傷やほこりの吸着が目立ちやすく、面積的にも色の印象が強調され過ぎてしまいあまり好ましくありません。

こういう時、メタリック(焼き付け)塗装は、色と質感の両方の側面から、とても重宝します。インテリアの場合は照明の効果を生かし、なめらかな金属の質感を品よく浮かび上がらせることも可能です。

オートカラーの面白い所は、車種別に色見本が配列されているところです。眺めていると、欧州車には深くて鮮やかな緑や赤などが数多くあることが印象的ですし、国産車の白系統のバリエーションにも目を見張るものがあります。

この色見本帳はまた、年1回更新されるため数年前の見本帳と比較し、自動車の色の時代による変化を見ることもできます。自動車やファッション等はまちを彩る動く色、にあたります。時代と共にまちの色も変化していると考えるとき、建築物だけではなくこうした要素も含めて考えてみると、その変化が見えるまでの時間の差違も含め、中々面白い分析が出来るのでは、と思っています。


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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂