2013年11月12日火曜日

地の色が整うことで、見えてくる個性

10月末、次回(2013年11月17日・日)のMATECO連続セミナーのための取材という名目で、長野県の小布施町でのんびりしてきました。このまちの色彩がもたらす魅力は一体何なのか、ということずっと考えています。

今回、2008年の年明け早々に初めて訪問して以来の再訪でした。前回は測色を行っていませんでしたので、まちの雰囲気を思い出しながらささっと測色のデータを集めて来よう、くらいの気持ちだったのですが、着いた途端、そんなお気楽な気持は吹っ飛んでしまいました。

栗の木のブロックが敷かれた舗装
この5年の間に、自身の色の見方も随分変わったな、と思います。視点は相変わらず、周辺や場との関係性に置いていますが、より微細に、変化や対比により一層敏感になったように感じます(オタクぶりに磨きがかかった?)。

老舗菓子店の軒先にあった、ブラウンのゴムホース
改めて、『修景』ということの重みを感じながら、小布施のまちを歩きました。ここでは住民の多くが何か新しいものをつくったり取り入れたりする際、『それがこのまちの景観にふさわしいか、否か』という判断基準が持ち出されるそうです。

この水やりのゴムホースを見かけた時、思わずシャッターを切りましたが、まあそんな観光客は私くらいのものでしょう…。

色を整えると工作物もしっかり景色になるのでは、と思います
色を統一する・調和を図る、ということについては、その一律さがもたらす単調さへの懸念や創造に対する思考停止のように思われる方も多く、様々な経験を重ねてきた専門家との議論になるとよく『茶色で統一する傾向は良くない』『周りが良くないのになぜ合せなければならないのか』と言われます。

先日もとある建築家の方が『自治体が決めた赤系の舗装に合せるのはどうなのか、都市的なまちに合わない、どこかで縁を切って良いものに変えていってもいいのでは』という趣旨の発言をされていて、思わず納得したものの、その一方では『長くそこにあるもの(の色を)尊重する、という判断は本当に検討に値しないものなのか?』とも考えてしまいました。

それはFacebookに投稿された一枚の写真と、それについてのコメントだったのですが、面白かったのは他の方が舗装以外のことにも言及し始め、『茶色のガードレールは良くない』 『擬木のガードレールやインターロッキングは撲滅すべし』等といった意見が噴出し始め、建築家が日々色々と苦労されている様子を伺い知ることができたことです。

アースカラーや茶系を嫌う建築家は私の身の回りにも本当に多くて、それこそ思考停止なのではないかと思ってしまうのですが。そこに長くあるものに合せることが、そんなに創造性のない行為なのか、長いものに巻かれることをヨシとしてはいけないのか、いつもその疑問が残ってしまいます。もちろん、悪しき習慣を断ち切る勇気や挑戦は必要なことも理解した上で、です。

先日マーケティングに関するコラムに、なるほどという一文がありました。色は名前がついていた方が親しみがわく、という分析データがあるそうです。例えば『茶色』よりは『コーヒーブラウン』の方が印象が良く、対象物のイメージと合致しなくても(例えば車にコーヒーブラウン、という色名がついていても)好感をもたれる割合が高いそうです。

景観色、景観配慮色も同様に喰わず嫌いをなくすため、『カフェラッテ』とか『エスプレッソブラウン』等と言ってみようかしら…等と思いますが、どうでしょうか?

と、話を小布施に戻して…。
目立たせる必要のないものの色を統一したり、店先が見苦しく無いように気を配ると、何が見えてくるのか、ということを考えています。
5年ぶりの小布施には、新しい色や色使いが沢山ありました。

2013年秋にオープンしたばかりの新しい店舗。彩度の高い外装色ですが、色相は周辺と同じです。

深い緑の中にヴィヴィッドなイエローと真っ赤なひざ掛け。はっとする色ですが、閉店時は隠れる色。
下の写真も新しい店舗の一画ですが、鮮やかな色がとても印象的に見え、商業施設らしい賑わいや活気が感じられました。

古い蔵を改装したえんとつカフェ。○(えん)と凸の文字をアレンジしたシンプルながら印象的なロゴデザイン。
白いテントとダークグリーンのテーブル&チェア。洋風のデザインですが、違和感なく重厚な蔵のまちに馴染んでいます。
菓子店の店先に設えられたカフェスペースはテントの色がお店ごとに異なり、それぞれの個性が演出されています。
印象的に演出したいもの、少し控えめでいて欲しいもの。そうしたヒエラルキーがとても明確で、見ていて迷いや狂いが感じられません。民度が高い、などと外部の人間が口にするのは気が引けますが、本当にこういうことがまちの美しさを支えているのだなと思います。

りんご畑の侵入防止柵。華奢な支柱に、動物除けの鉄線が張られたもの。
畑を動物に荒らされるという被害は、アドバイザーをしている山梨でも多く耳にするようになりました。丹精込めて育てたものを守りたいという気持ちは当然のことですが、そこで更に『見苦しく無いように』という気持ちも働くこと、これが客人に対するもてなしということなのだとしばしこの場に佇んでいたくなりました。

一つの側面からのみ、ものごとを判断しないこと、を心がけています。良いデザイン・良い色彩。それを単体として評価することは容易いかも知れません。畑を被害から守りつつ、美しい景色を生かす。或は、現代の生活に必要な便利さ、機能を損なわずに、まちがこれまで育んできたものに敬意を払い、そのエッセンスを継承していく。

素材や色にできることがまだまだある、という気持ちを新たにした、一泊二日の旅でした。

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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂