去る6月27日(金)、本日7月1日(火)にリニューアルオープンした港区立麻布図書館を内覧させて頂く機会を得た。以前から交流のあるアーティストの流麻二果氏がアートワークを手掛けたとのことで、案内を頂いたのだ。
最上階の作品。油彩特有の艶が作品を生き生きとさせている。 |
アーティストの「なま」の作品を公共施設に設置する、ということに対する関係者の多大な労力や尽力は想像に難くなく、特に幼児や児童が出入りする図書館ともなれば、管理者側の懸念や条件等、一つ一つクリアするには大変な苦労があったことと推測する。とにかくそうした高いハードルを越え、アーティストの作品が空間と共に出現したことに敬意を表すると共に、長く多くの人に愛着を持って親しまれる環境となることに大きな期待を感じている。
流氏の活動の一つに「一時画伯」という非営利団体での取り組みがある。一時画伯は第一線で活躍するアーティストが、美術に触れることの少ない人々、とりわけ子供たちにアートを届けることを目的とした団体である。
あらゆるモノの成り立ちが見えにくくなっている昨今、「なま」の画が持つ作家の筆圧、画材のきめ細かなテクスチャー、光沢の有無など、圧倒的なリアルに目が触れたとき、私たちのこころはかすかに・何かに揺さぶられる。それは決して激しい感情ではないが、最近「なま」の作品を見ていると、何よりも私達の目がそうした微細な変化を求めているのではないかと感じることがある。
緩やかなカーブを描く壁面いっぱいに展開されたエントランスホールの作品。「重なる」 |
図書館内の色彩空間はメインとなる一階エントランスホールの壁画の他、大きく3つの要素から成り立っている。
書庫や閲覧テーブル・椅子のある各階は本の種類ごとに分類され、下階から上階へ行くに従い大人向けの内容となっている。色調の変化もそれに連動し、春(こども)~冬(壮年期)へと移り変わっていく。この内装の一部に埋め込まれた油彩と壁面のアクセントカラーとの調和が、最も印象的に空間を支配している。
次に目に留まるのは、エレベーターホール周り。扉とその周囲の壁がフロアごとのテーマカラーで彩られ、操作ボタン周りのサイン表示とも色が連動している。壁紙やシート等の人工的な色合いが大胆に用いられ、表示と連動することにより識別性を高めている。様々な世代が利用する公共施設ならではのサインのわかり易さという点では、情報は最小限にまとめられ、色の印象が補助的な役割を担っている。
3つめは各階をつなぐ階段室周り。手摺壁の内側のパネル部分に、半透明のカッティングシートが施され、動きに合せて様々な重なりを見せている。色そのものではなく透ける・重なるという現象が設えられた空間は、例えば内覧会時は雨模様だったが、そうした天候の変化、あるいは季節の変化を写し取ったような繊細で奥深い変化がつくり出されている。
階段手摺壁の色の重なり |
これら各所に展開された色の重なりは、数少ない色を組み合わせることにより様々な事象を表していたかつての日本文化、重ねの色目がテーマとなっている。人の動きに合わせ、見る位置、眺める角度によって様々な組み合わせが目に入るが、都度発見があるような奥行きのある構成が考え抜かれている。
各所の空間構成にはテーマに添ったカラーが展開され、空間毎のまとまりや部材の形状に合わせた色遣いは、色彩設計の王道とも言える手法であり、見事な色彩調和が成されている。その中でもアーティストである流氏の力量・感性が最も発揮されているのは、やや重厚さのある氏の油彩とそれを取り巻く階ごとのテーマカラーのバランスではないかと感じた。色を使っていながら、それらは環境の地としても機能している。
4階の作品。柱を取り囲む、景色のようなアート。 |
色を組み合わせるということの効果や妙味はここにあると思うのだが、空間を支配する・支配されるというギリギリのところが、各階のフロア構成に合せてとてもうまく取りまとめてられている。
中でも4階の色彩調和は、木製の家具の色とのなじみもあって、強い対比でありながらとても心地の良い温かみのある空間となっており、空間に色を使う際の良い手本となる環境なのではないかと感じた。
各階の油彩とクロス・カーペットの組み合わせ、エレベーターホール周りのクロスやシート、サインのアクリル等との組み合わせ、階段室のスチール手摺と半透明のシートとの組み合わせ等、マテリアル・色彩共に実に要素が多く、各所で様々な色の対比と同化が繰り返されている。
正直、個人の感想としては個々の空間(場)での色彩調和には全く違和感はないものの、この3つのバランスが完璧なものだとは言い難い。全体のコンセプトも筋が通っているが、そのコンセプトに忠実であろうとするあまり、空間(場)とのバランスが危うくなっている箇所も見られた。
一方、所々に様々な要素が展開されていることで、それぞれが競い合うように色の効果を発揮していることには大きな可能性を感じた。例えば抽象化のためにあらゆる要素を排除し、白くしていくことと比較すると、その方がはるかに容易く感じるほどである(もちろん実際にはすべてを白くすることも難儀ではあるが。)
最後に話を伺った建築設計者も「色を使うことは本当に難しい」と言っておられた。抽象化すること・色を使いこなすこと、どちらも共に難しいのであれば、こうして色を扱うプロであるアーティストの力を借りて、困難な空間構成にチャレンジすることに賭けてみる価値があるのではないだろうか。
本プロジェクトでは空間がもたらす視覚的な楽しみが、アーティストと建築家の協働によって具現化されている。
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