2012年6月13日水曜日

敢えて色をつけない、という未来への猶予

色彩が担う賑わいについては、ここ数年、特に慎重に向き合っています。色の持つ華やかさ、楽しさ。商業施設などの場合、“演出”という要素が加わりますので、自ずと住宅やオフィスなどとは異なる色使いの可能性を考えることになりますが、一方ではどこまで色が『頑張らずに済むか』、ということも意識しています。

藤沢市・辻堂駅前にあるテラスモール湘南は、 藤沢市の特別景観形成地区である湘南C-X(シークロス)の一角にあります。平成14年に撤退した工場跡地の都市再生計画エリアです。
景観形成においては湘南C-Xまちづくりガイドラインが平成18年3月に策定され、「地区計画による地区整備計画」「景観地区における景観形成基準」「まちづくりガイドライン」の3つの手法を用い、湘南C-Xまちづくり調整委員会等との協議等を踏まえて、包括的な規制・誘導が行われてきました。
(参考:湘南C-Xの都市デザイン

所長が長くその委員会に係わっており、調整の様子に興味を持っていましたが、先日「商業が出来たから一度見ておくといいよ」と言われ、視察に行ってきました。

辻堂駅からの眺め。ここからは殆ど広告物類は見えません
湘南の地域性、更には新しい都市拠点としての役割などから、明るく伸びやかなまちなみの形成、が方針として挙げられています。ガイドラインでは基調色は白系を基本とすること、また屋外広告物についても街区ごとに規定が設けられ、全街区で屋上広告を禁止するなど、様々な項目について“街区ごとの個性を活かしつつ相互に連携を図り、新しい都市拠点にふさわしいまちづくりを推進するためのルール”が記載されています。

壁面1面につき壁面積の1/10以下、かつ表示面積30㎡以下、というルールに基づいた表記

こうした基準・規定は「禁止する」という言葉から、規定があること自体に拒絶反応を示される方もいらっしゃいますが、よく読んでいけば地域の目指す将来像を描き(他の多くの関係者と)共有することが出来ますし、何よりデザイン調整委員会という「手法を運用するための協議」が行われてきたため、時代の変化等にも柔軟に対応がなされてきたのではないか、と考えています。

全周、徹底的に緑化がなされています
本当に広告物が少なく、すっきりとしていました
大型の商業施設もこの10年の間に随分様変わりしている、と感じます。何より、地域らしさということが当たり前に前提にされるようになり、設備まわりの修景や緑化など、環境や景観への配慮が徐々に洗練されたものになりつつあるのではないでしょうか。

こちらも目立った看板はありませんが、奥のカフェスペースはとても賑わっていました
来訪者にとって商業施設はただ消費をするための場ではなくなっています。また訪れたくなる、あるいは買い物以外の時も立ち寄りたくなる、居心地の良さ。そこに確かに色はありますが、主役は植物の緑と海辺のまちらしい明るい陽射し、そしてそこに訪れる人々なのだ、と素直に思うことが出来る環境でした。

大型商業施設の孕む様々な問題や地域に与える影響、将来への課題ももちろん無視することは出来ませんが、おおらかに考えると『側(がわ)はプレーンにつくっておいて、中身は調整できる』というあり方は、竣工時にどことなく未完成な印象を感じさせる新しいまちに、猶予を残すことができる方法なのかも知れない、と思う部分もあります。

敢えて(相当意識して)色をつけない、という選択。そこには後に自然や人の手が加わる可能性や余地を残す、という意思も見ることが出来ます。それは決して中途半端な曖昧さや人任せ加減ではなく、そうした変化を見越して(想像に限界はあるものの)なお享受できる懐の深さ、のようなもの。

普遍性、というと堅牢な構造や空間構成を想像しがちですが、時代の影響を受けやすい商業施設においても、こうしたこれからの時代の普遍性、というものが出来つつあるのかも知れません。



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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂