2013年4月1日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑤-動く色・動かない色

前回は周辺との関係性に配慮した基調色の選定、というテーマで、図と地の見え方の変化についてまとめてみました。

色は常に周辺や背景にあるものに影響され、また影響を与えるという相互の関係性にあり、これは2次元の世界から学べることが数多くあります。学生時代から今の会社でアルバイトをしていたこともあり、この『色彩の相互作用』については常に検証、を繰り返した記憶があります。

背景がこの色であるとき、明度○程度の色がどのように見えるか。この対比(関係)が天候や時間の変化により、見え方にどのような変化を与えるか…。仕事を始めた頃はこうした見え方の変化を数値と共に体で覚えるということがとても新鮮で、どこに行っても外壁や工作物の色を測っていました(…今でもあまり変わりませんが)。

さて今回は動く色・動かない色、がテーマです。
例えば建築物単体の外装色を検討する際、規模が小さなものや形態がシンプルなものであれば、単色を選定することはさほど困難な課題では無いと思います。
(参考:建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学②-失敗がない色の選び方(単色編)

ところが対象物の規模が大きかったり、複数の建築物(用途や規模が異なる)が集積したりする場合、あるいは商業施設などにおいてある程度の賑わいの演出が求められる場合において、穏やかな基調色だけでは物足りない場合も考えらえます。

この強調色、というのが中々厄介です。強調色(アクセント)というとどうしてもビビッドな色を思い浮かべがちですし、鮮やかな色は大抵自然の素材色にはない、人工的につくり出した色が殆どですから、後から付け加えようとするとどうしても唐突な印象になりがちです。

環境色彩におけるヒエラルキー
私たちは常日頃、このような図を用いて対象物の持つ色・持つべき色が『環境の中でどのような役割を担うか』ということを意識します。その際に頼りにしているのが、自然界の色にある動く色と動かない色、という色彩の関係性です。

自然界において一年を通じて動かない(=変化の少ない)色は、大地の土や砂、石や樹木の幹などが持っています。雨に濡れ明度が下がる場合等もありますが、色鮮やかな草花に比べるとずっと変化の幅は小さく、また自然界の中で大きな面積を占めているということが特徴です。

一方、昆虫や鳥・色鮮やかな花、紅葉等は、変化が少なく動かない基調色に比べ面積が小さく、季節や時間の中で見え隠れする動く(=変化の大きい)色です。これらは地表近くに存在する、ということも動く色の特徴です(鮮やかな鳥は空高く飛んでいるときには目線から距離があり強い色としては意識されませんし、高木でも高層建築物等に比べると大地に根付いている色、と言えると思います)。

動かず大きな面積を占める色(基調色)が、季節や時間の中で動く色(強調色)の印象的な見え方を支えているのが自然界の色の法則である、と考えています。

秋の紅葉も刻々と変化するからこそ、季節の移り変わりが印象的に感じられるのであって、鮮やかな色が人工物に置き換えられ、大面積で・高い位置に・恒常的にあり続けることに対し“見慣れていない”という側面があると考えています。

上の図に配置した写真は、左側を自然物の例、右側に人工物の例を挙げています。この図では建築物の基調色に対し強調色は必ずしも建築物が担う必要はなく、周囲にあるものや事象で彩りを演出すべし、ということの概念を示しています。

鮮やかな色を定着させた素晴らしい建築・工作物ももちろん存在しますが、それは形態や素材との関係性はもちろん、強調色があることによって対象物そのものだけではなく、周辺環境にも良い影響を与えている、という評価がなされるものなのではないか、と思います。こうした(鮮やかな色を積極的に使った)事例も少しずつ紹介して行きたいと思います。

ですが自然界の動く色・動かない色の関係性に着目してみると、鮮やかな色は移り変わるからこそ、四季や時間の繰り返しを飽きずに、時に心待ちにすることが出来るのではないか、と感じることがあります。

現代の暮らしでは環境を取り巻く要素として、自動車やファッションといったいわゆる流行色をまとうものがあります。動く人工物は、自然の変化のリズムとはまた異なる時間を刻み、私たちの日常の大切な彩りの一つです。

色彩選定において、慣用色(見慣れている・慣れ親しんできた)という観点はそう簡単に払拭できるものではないと感じます。強調色を・普段使わない色にチャレンジしようと気負うと、大抵納得が行かない結果に終わるのは(そうでない方は素晴らしいので本項、お気になさらずに…)、基調色と強調色の良好な関係性が整えられていないためではないか、と考えています。

強調色を検討するにあたり、留意すべき点をまとめてみると

①対象となる建築・工作物単体(あるいは部位)での検討・判断ではなく、環境全体の中での位置(意味)づけを明確する
②強調色が必要な際、動く色を用いることで解決できないか、考えてみる
③基調色と強調色の間、を考えてみる

となります。但し(色彩デザインは常に但し、がついているような気がしますが…)、強調色=有彩色、とは限りませんし、両者の間に存在する“補助色”なるものも存在します。
次回はこの基調・補助・強調という全体のバランスや割合について、基本となる考え方をまとめてみたいと思います。


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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂