2014年8月21日木曜日

まちが白い、あるいはカラフルな理由について

気になるまちなみがあると、そのまちが「そういう景色になった理由」をあれこれ調べています。

例えば南米のチリの斜面都市・バルパライソと海辺のまち、チエロ島の木造住宅群は共にとてもカラフルなまちなみです。いずれも斜面に沿って、びっしりと建物が建ち並んでいます。その並んでいる状態が、既にある秩序を形成しているようにも感じられます。

バルパライソには19世紀頃の建物も多く残されており、カラフルなまちなみとして多くの観光客が訪れるまちです。一体なぜこのように彩色が施されているのかというと、その始まりは港に積まれていたコンテナの鉄板を使っていたから、という説があるそうです。

雨の多い冬時期は北風が吹きつけ、日干し煉瓦の壁は雨水を吸い込んでしまいます。そこでコンテナの鉄板を壁に貼り付け、横殴りの雨から家を守ったらしいのです。その名残で、新しい家をつくるときもカラフルな塗装色が使われている、と推測することができそうです。
外壁を保護するために使ったコンテナの鉄板の色がもともとカラフルさを持っていたことがまちの景色をつくってきたと考えると、これも地域(に根付いた)の素材色の一つ、と言えるのではないでしょうか。

また世界遺産に登録されているブラジルのサルヴァドール。このまちも鮮やかでカラフルな色使いが印象的ですが、ここはかつて住民の識字率が低かった時代、表札や町名の文字表示の代わりに「色」が使われたという説があります。現代ではサインカラー、という表示に用いる色がありますが、建物の外観・まちなみのカラーシステムや配色がまさにサインとして使用されていたという例なのだと感じました。

http://tokidokicameraman.blog19.fc2.com/blog-entry-2133.html

色々調べてみて、歴史あるまちであれば当然のことだと思いますが「意図的にこういう色にしよう」と思ってつくられたまちではないことがわかってきます。個人的にこのことにとても興味があって、いつかそういう旅をしてみたい、と事あるごとに妄想しています。
(…またの名を現実逃避、と言いますが)

西洋の美しいまちの例として、白も多くの人が思い浮べる色なのではないでしょうか。
ホワイト・シティという呼び名があることで知られるイタリアのオストゥーニというまちがあります。まちの起源は古く、中世初期(10世紀ごろ)に遡るそうです。

このまちが白いことにも、明確な理由があるようです。「白くしよう」という意図によりつくられたものではないことが、以下の解説からわかると思います。

『●都市構造
オストゥーニは壮観丘の街です。 中世のコアでは - 最高の丘の先に - 家は全体の丘をカバーする、巨大な関節構造を形成し、壁で壁を構築されています。 構造を保持するには、通りを頻繁にアーチを建設している - このように魅力的な街並みを作る。
壮大な特徴は、構造体の全面をカバーする、白い石灰である。 これは、夏の太陽の下で見事な光景を作成し、このオストゥーニのためには、 チッタビアンカとしても知られている-ホワイト・シティ。
この白色は中世以来ここで使用したり、それ以前の、いくつかの実用的な嗜好を持ってきた。 まず - 白い色は暖かさの大部分を屈折さ - それは、建物内の施設は、冷静さを保つのに役立ちます。 第二に - ライムepydemicsの時代にeffctive消毒されています。 そして第三(とメインでもよい) - ライムは、街の周辺には容易に利用可能である。』

http://www.wondermondo.com/Countries/E/IT/Apulia/Ostuni.htm より自動翻訳を引用

ちょっと整理してみますと、
①反射率の高い白い外壁は、強い日差しを遮り、室内の温度の上昇を防いだ
②疫病がはやった時代、(水と混合するとアルカリ性になるという石灰の性質が)菌の蔓延を防いだ
③(これが第一の理由と言っても良いが)石灰はまちの周辺で容易に入手できた

ということになるでしょうか。
身近にあった汎用性・機能性の高い原料で外壁を仕上げた結果、長い時を経て「夏の太陽に映える白いまち」という評価がついた、と考えることができます。

西洋漆喰については左官屋さんのブログに詳しい記述がありました。

左官屋さんの喫煙所(左官屋ブログ)

水で硬化し、長い年月をかけて更に硬化し続けて行くという特性。
残念ながらオストゥーニを訪問したことはありませんが、様々な記述を見る限り、現在でも白いまちなみが保たれていることから、耐久性に優れた材料であることがわかるのではないでしょうか。

原料そのものの色がまちなみをつくってきた…。これはどの国・地域でも歴史を辿ると答えはそこへ行きつきます。そして様々な彩色が施されたまちなみには、そういう色使いがなされた「要因」があることも、いくつかの事例から見えてきています。

フィレンツェの街並み。まちなかにある一般の建物は(群として見た時に)とてもカラフル。
対照的にドゥオモ(大聖堂)は白基調(大理石)。特別な建物に象徴的に白色が用いられている、ということも都市構造の1ひとつと言えるのではないでしょうか。
こうしたまちなみの表層の色だけを真似ても、決して同じような美しさを持つまちにはならないのでは、というのが自身の抱えているテーマの一つです。オストゥーニの白いまちの例でいえば、気候・風土(=文化)が日本と異なる、という点も加味すると、より明確に論じることができると思います。

引き続きそうしたデータも活用しながら「では、日本のまちなみにはどのような色がふさわしいのか?」という問いについて、「白ではない」とか「とにかくアースカラーにすべし」などの断定ではなく、あくまでも環境や対象との関係性の中でグラデ―ショナルに解いていきたいと考えています。

2014年8月11日月曜日

自然界の色彩構造10の原理(仮)

先月、静岡県で実施された平成26年度第1回景観講習会の講師を務めたのですが、その際のアンケートが先日届き、参加者の層や感想などを読んでみて、改めて公共性の高い要素の色を選ぶ・考えるということの根拠が根付いていないのだなと感じました。
それは決して行政の方や設計に携われる方・各種のコンサルタント…が不勉強だ、ということではなく、やはりどう考えても納得の行くような論理、機能性や安全性を超える根拠を見出すことが出来ないという状況にあるのだと思います。

自身は長年、周辺環境が持つ色彩が(善しに付け悪しきにつけ)その拠り所となることを体験により理解していますが、これはいくら数値で示してもその環境を見ない、あるいは何らかの敬意を払おうとしない方には通じない理論で、もっとごく一般的な経験や体験の共有を言語化しなければ、と長く思考錯誤をしています。

先日の講習会では直近、このBlogに掲載した鮮やかな色の使い方を後半の大きなテーマとして挙げました。力を入れて話をしたことが伝わったらしく、アンケートにも
「動く色と動かない色のことは参考になった」
「自然の色の変化の話はとても新鮮で、興味深かった」などの意見が多数書かれていました。
…と、ちょっと伝わったからと言って、それに気をよくしている訳ではありませんので念のため。行政の方々には「実践して頂く」という次のステップがあり、そこに向けても具体の策を提示して行かなくてはなりません。

地表近くにある鮮やかな色
 これがその次の一歩になるかな、と考えています。
「自然界の色彩構造10の原理(仮)」です。本当は5原則くらいの方が覚えやすくて良さそうですが、今のところ10になっています。これは全て20数年の経験によるものなので、実感もありますし様々な場面で実証も行って来ました。

「色彩の原理」ではなく、「色彩構造の原理」です。自然の色は美しいからそれをそのまま真似する・写し取るということではありません。自然界において、色が美しく・その変化が印象的に見えている「仕組み」に関わる構造のことを解いています。実際、人工物に展開する時は対象の規模や用途、そして場所の特性などとのすり合わせが必要ですし、だから自然素材を使うべき、という単純な話でもありません。

経験を共有しやすい自然界の色彩構造を理解し、それをもとに現代における「色と色、あるいは素材と色」の関係性を再構築すべし、というものです。

自然界の色彩構造、あるいは自然物の持つ色の特性、と言い換えることもできます。
…と、こういう話をすると「日本には純粋な自然景観はない」とか、「どこそこの森の樹木は植林したものだ」「庭園は自然じゃない」とか言い出す専門家もいらしてややこしいのですが。
ここではごく単純に「人が制作・製造したもの以外の生物や時間がつくる自然現象」というように捉えて頂ければと思います。

それは間違っているとか、色々な指摘もあるとは思いますが、自身の分野においてはこの「色彩構造の原理」に当てはめてみると解けることが数多くあるように感じています。2014年中にもう少し練り上げ、より伝わりやすい(=使える)方法論として、確立して行きたいと考えています。

①自然界の地となる色は、動かない・大きな面積を持つ
  →土や砂、岩等。

②自然界の地となる色は、暖色系の低彩度色が中心である
  →同上。

③自然界の地となる動かない色は、天候の変化によっては明度が変化する
  →雨を含むと地の色は、明度が下がる(図の色よりもその変化の差違が顕著)。

④大きな面積を持つ地の色は、単色に見えても近づくと粒子であることがわかる場合が多い
  →土や砂、岩等は小さな単位の集積である。

⑤自然界の図となる色は、いのちある・小さなものが持つ
  →色鮮やかな草花、昆虫。

⑥自然界の図となる色は、地表近くにある
  →同上。

⑦空や海・河等の色は、定位しない変化の大きい色なので、動く色に分類される
  →面色(film color)を物体色に置き換えても、同じ色には見えない。

⑧地となる色の一つ、木(材)の色は、時間の経過と共に彩度が下がり、樹種によっては色相が赤みから黄赤みに変化していく
  →いのちと共に色は失われていく(そして大地へ還る)。

⑨自然物の集積は距離を置くほど明度・彩度が下がる。
  →例えば樹木、葉色が明るくても離れて森を見ると暗い。重なりや隙間の陰が加味されるため。

⑩自然物は時間の変化を受け入れる
  →自然物は時間に逆らわない、時間が染み込む。

小布施で見かけたザクロの木。緑と補色の関係にある朱赤、小さくとも印象的な色でした。
いかがでしょうか。
まずは箇条書きで、シンプルに表記してみました。ここから、色々発想が拡がるようであれば、しめたものです。今後、それぞれの解説を丁寧に加えて行きます。 

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂