2015年6月29日月曜日

お知らせ-平成27年度 山梨県景観セミナーの講師を務めます

2015年7月30日(木)14:00より、山梨県県立文学館にて開催される「平成27年度 山梨県景観セミナー」で講師を務めます。テーマは「人がつくるまちの彩り・地域で育むまちの個性」です。

平成23年度からアドバイザーとして関わり、地域の方々が取り組んできた様々な色彩による修景等の紹介の他、色彩もまちの特徴を表す重要な要素の一つであること等も他の国や地域を例に、お話する予定です。

平日午後の開催ですが、どなたでも・無料で参加できますので、お近くの方、ぜひご参加下さい。

申し込み等詳細はこちら

チラシの写真は先日訪問したスリランカの世界遺産、ゴール旧市街です。


2015年6月23日火曜日

単色でないことの魅力-Heritance Kandalama にて

もうだいぶ時間が経ってしまいましたが。スリランカネタを少々。

4泊、ジェフェリー・バワ設計のホテルに宿泊しました。夜遅くにホテルに到着し、翌朝は8時・9時に出発というスケジュールでしたので、早起きしてホテル内外の写真を撮り…の繰り返し。そんな訳で、ホテルの写真はいずれも朝の光のもと、撮影したものです。


スタッフ一同、最も評価が高く「次回はここでのんびり滞在したい」と意見が一致したのはへリンタス・カンダラマホテルでした。バワが設計した数々のホテルの中でも唯一、内陸に造られたホテルで、元の地形を限りなく生かして建設された「森と一体化したホテル」として有名です。

背後は急峻な崖地。
最下階のEVホール。目の前まで巨大な岩が迫っています。
朝食の前に駆け足で各階を行ったり来たり。居室を出た廊下は全て開放廊下で、低めの手摺にはサルが腰かけていました。濃灰を基調としながら、黄み寄りのグリーン・白・サンドベージュ…。明暗のコントラストを生かしつつ、とても細かな色分けがなされています。

柱のラインと呼応している水平ライン。やや鮮やかな色ですが、高い位置にあるため派手さは感じませんでした。
手摺の内側のラインで切り替えられている外と内の色。
柱、壁、天井、手摺、床は全て異なる色。床だけが光沢を持っています。
カンダラマに限らず、この単色でない、という状況がいかに平穏な状態かということにとてもホッとしましたし、面でのいささか強引な塗り分けもおおらかな印象すら感じられました。とはいえ無秩序に色が施されている訳ではなく、柱には統一的に濃灰が用いられていて、そこにあるけれど意識させないように、という意図が見受けられました。

外部の明るさ・開放感が圧倒的ですから、外部と接する場所は全てがピクチャー・フレームとしての役割を担っているように感じました。眼前に広がる湖、彼方に見える山々やシーギリア・ロック等、どこを取っても風景が絵になります。

都度、立ち止まりたくなる場所が沢山ありました。
自然に馴染む緑(色)を塗装色で選択するのは難しい、ということは多くの方がご経験済みかも知れません。特に色相の見極め、彩度の見極め。色相が青みにずれると人工的な印象が強調され、彩度が高すぎてもやはり人工的な印象が強くなってしまいます。

例えばカンダラマの一部で使用されていたのは、5GY 4.0/1.5程度の色でした。彩度1.01.5程度の色は色見本帳で見ると濁りのあるグレイッシュな色調なので、単独で見ると地味すぎて濃灰と見分けがつかない、あるいは濁りのある色はどうしても「汚く」見えてしまうことから、日本では緑系・青系の彩度1.01.5程度の色を選ばれることが少ないように感じます。

黄み寄りのグリーンは一年を通して変化の少ない常緑樹の持つ色相に近似しています。木々の緑は少し距離を置くと葉と葉の重なりや影により明度・彩度ともに下がります。更に距離を置くと、空気中の水蒸気やチリ等により明度が少し高くなる、という色の見え方の特性があります。小さな単位の集積としての緑(色)に馴染ませるためには、葉の色そのものを正確に表現するよりも(例えば新緑の緑等は45程度あります)、明度・彩度をギリギリまで低めに設定した方が違和感の少ない(自然な)見え方となります。

インテリアの床はほとんど黒でした。光沢のあるコンクリートに柱や木々の陰が映り込んだり、木の葉が舞っていたり。朝方、鳥やサルの鳴き声と共に廊下を箒で掃く音も大変心地よく感じられました。雨風をしのぐということに対し、開口部の気密性を高めることで室内の快適性を向上させてきた日本。一方スリランカは、基本どこかが解放されていて、風も様々な生き物も建物内を行き来しています。

室内の暗さはいかにも強い日差しを遮るため、という印象でした。
風が心地よいことはもちろん、外部に接した環境は視覚以外の感覚がムクムクと呼び覚まされます。目覚めは木々の葉擦れと動物の鳴き声、ドアを開けると土の匂い。しばらく深呼吸を繰り替えていると、花の香りを感じ取ることもできます。年度末のあれこれを前倒ししての旅でしたので正直暑さに参ってしまったのですが、もう一週間滞在することができたら、完全にスリランカの気候に身体が順応できたのではと思っています。

早朝、まだ落ち葉が掃かれてない廊下。
翌日はシーギリア・ロックに登る、というミッションが控えていたため出発は朝8時。このプールを見て我慢しきれなくなったスタッフはわずか15分程の時間を使って、ひと泳ぎしていました。

インフィニティエッジ・プールはバワが考案したものなのだそう。
ホテルを出てシーギリアに向か途中、ガイドの方が「この対岸が先ほどのホテルですよ」と車の中から指さしてくれるのですが、位置がよくわかりません。車を停めてもらい、目を凝らすとうっすらガラスの反射が確認できました。

山並みにすっかり溶け込んでいる外観。
写真を撮影したホテルの対岸。鮮やかな赤土、緑、空の青。
細かな色分けをしている様子はもちろん遠景からは捉えられません。アイレベルにおける個々のスケール・シーンに合せた変化(分節化)と、距離を置いた時に背景の景色と一体となるかたまりとしての見せ方。建築物(単体の)のコントロールというよりは、湖や木々・山並みまでも含めたランドスケープ・デザインなのだ、という印象を強く持ちました。

個性が際立つ、ということが果たして風景の中でどういう意味を持つのか。日本のとある湖畔の景色と比較しながら、群にはやはり何等かの秩序が見出されることで、「人工物があることで自然が引き立つ」景色になるのではないか、と考えています。

個々の主張が悪い、という訳ではなく。湖畔の性格をどう考えるか、という問題。

2015年6月15日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑭-複数あるものの配色について

色彩計画を依頼される場合、個人住宅単体に対し、ということは殆どなく、戸建の場合でも建売の分譲住宅や複数棟からなる集合住宅・団地等の計画が圧倒的に多くあります。

個と群。単体の配色は考えられても、それが集合した場合となると、多くの設計者が頭を抱える様子をこれまで目の当たりにしてきました。

最も難しい点は「統一感と多様性」のバランスをどう考えるか、ということなのだと思います。

規模や形状・素材・地域の雰囲気…等々、その問いを解くためのフィルターの「目の粗さ」はプロジェクト毎に異なりますが、今回はごく簡単な・入口としての方法論を2つ紹介したいと思います。

1つめはゲシュタルト心理学の類同の要因を応用するものです。写真の2段目にあるように、例えば団地の配棟には様々なタイプがあります。大規模な団地になると、敷地内を幹線道路が貫通していたり、計画的にプレイロットや散策路が配置されているタイプも少なくありません。

こうした配棟の特性(街区ごとのまとまりや住棟の規模等)から「類似の要因」を読み取り、それを手がかりに配色を行うという方法が考えられます。

ゲシュタルト心理学・類同の要因

上の図、A~Cは類同の要因の解説です。AとBは同じ形状・間隔で帯を並べていますが、Bは一部の配色に変化を付け、2本ずつ黒を配しました。
この場合「いくつかの刺激がある時、同類のものがまとまりやすい」というゲシュタルトの特性から、黒色の帯2本が1つのまとまりとして認識されやすくなります。

Cはその傾向に添って、色同士のまとまりに従い、それぞれ距離を近づけることによりグルーピングを強化してみたものです。配置と色が合致することにより、まとまった印象がより強化されることがわかると思います。

Google(C)  「団地 配置図」で検索した結果

Dはそのまとまった印象が形成されやすいという特性を用いて、グルーピングしたまとまりの中で更に色を使い分けてみた例です。Googleで検索した団地の配置図を見てわかるように、住棟数が多い団地を全て1色ないし2色で分ける、ということはまとまった印象をつくることは可能ですが、アイレベル(近景)での変化に乏しく、単調な印象になる恐れがあります。

『住棟の形態や配置に何らかのまとまりが見い出すことができれば、類似の範囲内で異なる配色を展開してもそのまとまりは崩れない。』これが1つ目の考え方です。ちなみにこの図の場合は暖色系のYR(イエローレッド)系とY(イエロー)系の濃淡4色を用いています。

実際、高齢化の進む団地等からは「どの棟も同じ色だと自分が住む住棟がわかりにくい」といった声も聞こえてきます。全体の統一感を担保しつつ、中景・近景レベルで認識される変化をつくっていく。形態が近似している団地の改修では、こうした要望が多く出されます。

2つ目は配置が均質で変化が少ない(グルーピングがしにくい)場合。郊外の建売分譲住宅等、近年は様々な工夫がなされ、単調な印象が和らいだように見受けられるものの、災害公営住宅等、緊急を要しかつ「公平性のために均等であること」が前提となる計画では、単調な配置になってしまうことが否めません。

その点に関してもいくつか相談を受けたり、整備のためのガイドライン等に協力したりということはあるのですが、やはり最終的に「決める」あるいは「選ぶ」際に、有効な手法が展開されることが望ましい、と考えています。

数学の4色問題(定理)に習うと、いかなる地図も隣接する領域が異なる色になるようにするには、4色(パターン)あれば十分である、ということになります。

最低4色で隣同士・正対面同士を同色にせず、多様性をつくることが可能

この考え方(配棟配色)は私達もこれまで数多くのプロジェクトで実践して来ました。4色を同一色相にし濃淡だけで変化をつくる、あるいは4つの色相でトーン(色の調子)を揃え、色味の違いで変化を出す。いずれも4色(パターン)を設定する時に色彩調和(何がしかの要素を揃える)を意識しておけば、全体の統一感を保ちながら、適度な変化をつくることが可能です。

特に単調な配置の場合、濃淡に変化をつけると奥行き感(濃色が後退し、淡色が進出しやすい、という特性から)が生まれ、単調な印象の緩和に役立つ、という効果が期待できます。

こういうアースカラーは嫌だとか、はさておき。
例えば全てを白で統一し全体をフラットに扱う、あるいは統一することで1つのまちのような印象をつくる、といった手法もあることでしょう。しかしながら、先に述べたように特に古い団地の場合は住棟の形状に変化が少ない場合が多く、全てが同色だと空間の特性が把握しづらい(=全てが地になりすぎてしまう)という懸念があります。

4色(パターン)の組み合わせすら、無限です。対象の規模や形態、周辺の環境、周辺からの見え方…。実際には様々な検証を行い、使用色を絞り込んで行きますが、まずは2つの方法論を理解して頂ければ、と思う次第です。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂