もうだいぶ時間が経ってしまいましたが。スリランカネタを少々。
4泊、ジェフェリー・バワ設計のホテルに宿泊しました。夜遅くにホテルに到着し、翌朝は8時・9時に出発というスケジュールでしたので、早起きしてホテル内外の写真を撮り…の繰り返し。そんな訳で、ホテルの写真はいずれも朝の光のもと、撮影したものです。
スタッフ一同、最も評価が高く「次回はここでのんびり滞在したい」と意見が一致したのはへリンタス・カンダラマホテルでした。バワが設計した数々のホテルの中でも唯一、内陸に造られたホテルで、元の地形を限りなく生かして建設された「森と一体化したホテル」として有名です。
背後は急峻な崖地。 |
最下階のEVホール。目の前まで巨大な岩が迫っています。 |
朝食の前に駆け足で各階を行ったり来たり。居室を出た廊下は全て開放廊下で、低めの手摺にはサルが腰かけていました。濃灰を基調としながら、黄み寄りのグリーン・白・サンドベージュ…。明暗のコントラストを生かしつつ、とても細かな色分けがなされています。
柱のラインと呼応している水平ライン。やや鮮やかな色ですが、高い位置にあるため派手さは感じませんでした。 |
手摺の内側のラインで切り替えられている外と内の色。 |
柱、壁、天井、手摺、床は全て異なる色。床だけが光沢を持っています。 |
カンダラマに限らず、この単色でない、という状況がいかに平穏な状態かということにとてもホッとしましたし、面でのいささか強引な塗り分けもおおらかな印象すら感じられました。とはいえ無秩序に色が施されている訳ではなく、柱には統一的に濃灰が用いられていて、そこにあるけれど意識させないように、という意図が見受けられました。
外部の明るさ・開放感が圧倒的ですから、外部と接する場所は全てがピクチャー・フレームとしての役割を担っているように感じました。眼前に広がる湖、彼方に見える山々やシーギリア・ロック等、どこを取っても風景が絵になります。
都度、立ち止まりたくなる場所が沢山ありました。 |
自然に馴染む緑(色)を塗装色で選択するのは難しい、ということは多くの方がご経験済みかも知れません。特に色相の見極め、彩度の見極め。色相が青みにずれると人工的な印象が強調され、彩度が高すぎてもやはり人工的な印象が強くなってしまいます。
例えばカンダラマの一部で使用されていたのは、5GY 4.0/1.5程度の色でした。彩度1.0~1.5程度の色は色見本帳で見ると濁りのあるグレイッシュな色調なので、単独で見ると地味すぎて濃灰と見分けがつかない、あるいは濁りのある色はどうしても「汚く」見えてしまうことから、日本では緑系・青系の彩度1.0~1.5程度の色を選ばれることが少ないように感じます。
黄み寄りのグリーンは一年を通して変化の少ない常緑樹の持つ色相に近似しています。木々の緑は少し距離を置くと葉と葉の重なりや影により明度・彩度ともに下がります。更に距離を置くと、空気中の水蒸気やチリ等により明度が少し高くなる、という色の見え方の特性があります。小さな単位の集積としての緑(色)に馴染ませるためには、葉の色そのものを正確に表現するよりも(例えば新緑の緑等は4~5程度あります)、明度・彩度をギリギリまで低めに設定した方が違和感の少ない(自然な)見え方となります。
インテリアの床はほとんど黒でした。光沢のあるコンクリートに柱や木々の陰が映り込んだり、木の葉が舞っていたり。朝方、鳥やサルの鳴き声と共に廊下を箒で掃く音も大変心地よく感じられました。雨風をしのぐということに対し、開口部の気密性を高めることで室内の快適性を向上させてきた日本。一方スリランカは、基本どこかが解放されていて、風も様々な生き物も建物内を行き来しています。
室内の暗さはいかにも強い日差しを遮るため、という印象でした。 |
風が心地よいことはもちろん、外部に接した環境は視覚以外の感覚がムクムクと呼び覚まされます。目覚めは木々の葉擦れと動物の鳴き声、ドアを開けると土の匂い。しばらく深呼吸を繰り替えていると、花の香りを感じ取ることもできます。年度末のあれこれを前倒ししての旅でしたので正直暑さに参ってしまったのですが、もう一週間滞在することができたら、完全にスリランカの気候に身体が順応できたのではと思っています。
早朝、まだ落ち葉が掃かれてない廊下。 |
翌日はシーギリア・ロックに登る、というミッションが控えていたため出発は朝8時。このプールを見て我慢しきれなくなったスタッフはわずか15分程の時間を使って、ひと泳ぎしていました。
インフィニティエッジ・プールはバワが考案したものなのだそう。 |
ホテルを出てシーギリアに向か途中、ガイドの方が「この対岸が先ほどのホテルですよ」と車の中から指さしてくれるのですが、位置がよくわかりません。車を停めてもらい、目を凝らすとうっすらガラスの反射が確認できました。
山並みにすっかり溶け込んでいる外観。 |
写真を撮影したホテルの対岸。鮮やかな赤土、緑、空の青。 |
細かな色分けをしている様子はもちろん遠景からは捉えられません。アイレベルにおける個々のスケール・シーンに合せた変化(分節化)と、距離を置いた時に背景の景色と一体となるかたまりとしての見せ方。建築物(単体の)のコントロールというよりは、湖や木々・山並みまでも含めたランドスケープ・デザインなのだ、という印象を強く持ちました。
個性が際立つ、ということが果たして風景の中でどういう意味を持つのか。日本のとある湖畔の景色と比較しながら、群にはやはり何等かの秩序が見出されることで、「人工物があることで自然が引き立つ」景色になるのではないか、と考えています。
個々の主張が悪い、という訳ではなく。湖畔の性格をどう考えるか、という問題。 |
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