2014年3月10日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑧-とりあえず10YR(じゅうワイアール)で。

環境色彩のこと、あれこれ書き連ねておりますが、『結局のところ、何色にすればいいのか?』と聞かれることも多くあります。また、なぜその色なのか・その色でなければならないのか…。

計画に携わる自身は、ひとつひとつに選定の論理があります。行けるところまでは理詰めで、というのが師匠の口癖です。

周辺の基調となっている色相、慣れ親しみのある寛容色、自然の緑が映える色、形態や規模との関係性、他のマテリアルとの相性…。選ぶというよりも様々な事象をフィルターのように積み重ねて行き、抽出して残ったものを決定色として使っているという意識もあります。

自身が色を選ぶのではなく、環境や状況・対象物が色を決めるのです。

そうした経験から『で、何色にすれば良いのか?』という問いに対しては、かなり自信をもって『とりあえず(色相)10YR(じゅうワイアール)で。』と言うことができます。

※以下、『とりあえずで色決めているのか』とか『もっと色は沢山あるだろう』とか『色じゃなく素材だ』…等とお考えの方は、読まなくて良いです。どうぞ我が道をお進み下さいw

とりあえず、とここで敢えて言うのは、日本の各地で色彩調査を行ってきた経験や建材が持っている色彩の傾向、時代の変化があっても尚、建築の外装色には中心色が存在すること、山間部や郊外に限らず、私達の暮らしにとって自然の緑の存在が景色に与えている影響が大きいこと…等々を検証した結果であり、きちんとした裏付けがあります。

それを信じて頂けるのであれば、『とりあえず』10YR系でまとめてみると、『一つの建築・工作物としての調和感を形成しやすく』、『周辺環境との調和を図りやすい』ということを体験の上、ご納得いただけるのではないかと思います。アレンジはそこから、で良いのではないでしょうか。

先週実施した北新宿の住宅街での調査結果。基調色の中心は10YR。
歴史的な文脈が無いと思われる地域でも、基調色には傾向があります。
10YRというのは色相(色合い)を表しています。YRは(イエローレッド)、マンセル色相環の中でもっとも赤みの少ない、時計周りにずれると隣はY(イエロー)になり、反時計周りにずれると赤みの強いYR(イエローレッド)系になる、という色相です。

10YRという色相はまた、

自然界の土や砂、石等、動かない大面積が持っている色相
・樹木の幹や製材した木材、枯れ葉等が持っている色相
・日本の伝統的な建築物(木・土壁・漆喰…)等が持っている色相
・コンクリート、アルミサッシ、ガラス…等、近代の素材と色相が近く、馴染みやすい色相

でもあります。自然界の中で『動かない色』というのは、年間を通じて変化が少なく、移り変わる草木・花の色を支える地としての役割を持っています。

これを街並みに置き換えると、建築物や舗装等は『その地に定着し大面積を持つもの』に当たりますから、自然界の動かない色が持つ色相を手本にすることは素直で理にかなったことだと考えています。

よく白や灰、黒などニュートラル(無彩色)を用いて『周辺から突出しない』とか、『違和感や圧迫感の無い』と言う設計者・建築家も多くいらっしゃいます。白については抽象化の問題もあり、むしろ混沌とした周辺から逃れるために白、という解釈もあります。

それを否定するつもりはありませんが、『白は目立たない・気配を感じさせない』というのは(色彩学的には)誤りです。昼夜を問わず視認性の高い高明度色は、白手袋・白ヘルメット・白線等に用いられることからも、『雑踏の中でもよく目立つ』色の代表であることがわかります。

明度(明るさ)・彩度(鮮やかさ)の選定については、周辺の環境(都市部なのか、緑が多い地域なのか)や規模・用途などとの関係で吟味する必要があります(…それくらいは頑張って考えて下さい)。

街並みの連続性やまとまり、を考える時。一律に揃っていることが重要なのではなく、『何となく感じられる傾向』とか『全体をつなぐ骨格』が大切なのだと考えています。かつての日本の街並みにおいてはそのまとまりは『自然素材』が担っていました。様々な建材が混在する近代では、『基調色における10YRという色相』がその代役になる、と考えています。

もちろん、面的な開発を行う場合等はもっと積極的に多色相を推奨したり、ガラスや金属等の建材を多用することによりまとまりをつくる、等の方法もあります。

ただ、『(塗装を前提とした場合で)…何色を使えば良いのかさっぱりわからない』という場合、どうかこの『とりあえず10YRで』という呪文(?)を思い出してみて下さい。一つの色相の中にある濃淡・強弱は、既に一つの軸を持っています。一つの色相の中であれば、何色使っても調和が崩れることはありません(これ本当!)。

…騙されたと思って、お試しあれ。

おまけ:ブルーシートをYRにすると…。→こちら

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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂