2012年4月12日木曜日

富塚の天井-自然と化学の融合

かれこれ7年前、静岡文芸大学の非常勤として浜松に通い始めた頃は大学との往復で精一杯でしたが、そうこうする内に色々なご縁が出来、来訪する機会が増えてきました。とはいえ、建築家の内覧会のためだけに行くのは中々厳しいのですが、過日は同じく浜松で開催されたまちあるきにツアーコンダクターとして招かれていたとこもあり、上手く午前の時間を使って訪問することが出来ました。

…こう書くといかにもついでだったように感じられるかも知れませんが、前回記載した渡辺隆さんのカットハットガレージの時のように、良いタイミングに巡り合えることも、まあ何というかご縁なのかなあと勝手に思っています。

富塚の天井とは、403architecture[dajiba]が手掛けた戸建住宅のリノベーションです。閑静な住宅街の一角に位置し、周辺も戸建住宅が建ち並ぶとても穏やかな印象のまちなみでした。玄関周りとダイニング・リビング+テラスのリノベーションだったのですが、その名の通り天井に大変特徴がありました。

躯体以外の部分を解体した際、天井裏に隠れていた梁が表れたそうです。一般的な改修の際は、その空間の拡がりを生かすためにあえてむき出しで見せたり、梁を墨色に塗装したりして存在感を強調する例などが見られますが(ビフォー○○とか…)、そうした一般的な解釈に納まらないところが403architecture[dajiba]の最大の特徴なのだな、と改めて感じました。

天井(というよりは屋根裏との間にある膜のようなもの)に用いられているのは農業用のメッシュシートだそうです。一見固さのよくわからない細かな目のシートは、不均一ながらもリズミカルなたわみをつくり出し、それはたゆたう雲のようでもあります。メッシュの素材自体が持つ厚みや張り感といったものが布とは少し異なる強度を持ち、天井裏や梁が持つ量感と上手くバランスを取っているのだと思いました。

一つ一つ丁寧に解説して頂きましたが、やはり私が興味を持つのは、“なぜこの場面でそういう選択をしたのか”ということです。
今回も根掘り葉掘り、素材や色の選定について聞いてしまいました。当然、選定の段階では他の様々な可能性があり、決定の際には論理がある、と私は考えているのでどうしてもその点が気になります。

例えば二つの部屋の間にある壁には、一本柱があるのですが、ここは仕上げをしていない無垢の姿です。この柱を見ると、確実にこの空間がリノベーションであるということが認識されると同時に、この空間が重ねてきた時間というものの存在を感じずには居られません。


時間の痕跡の残し方について、403architecture[dajiba]の仕事を目にするようになってからより深く考えるようになりました。空間の雰囲気に大きく影響を与える、素材の成り立ち。富塚の天井では自然素材(木)と人工素材(メッシュシート)の関係性がとても緩やかな繋がりを持ち、単に関係をあいまいにする融和ではなく、程良い対比を保ちながら互いの存在を引き立て合っているように感じられました。

天井に展開したシートは、農業用資材として屋外で使用する時ほど劣化のスピードは速くないと推測することが出来ます。通常の用途で使うとこうなる、でも違う使い方をすればまた別の可能性があるかもしれない…。彼らの素材の選定はもちろんコストによるところが大きな比重を占めていることと思いますが、そうした事情はさほど気にならず、完成した空間を訪れてみると必然としてそこにあるような印象を持ちました。

とかく新しい・丈夫・メンテナンスがしやすい、等の理由で価値が決められがちな素材・建材ですが、403architecture[dajiba]を始め、建築家の仕事を見ているとそうした原理を越える何か、は確実に存在するのだなと感じます。素材そのものは何の変哲もない(屋外で見る際は目に止めない程の)メッシュシートですが、彼らの手に掛かるとそれは雲にもなり、照明の光を受け美しいスクリーンにも変容するのです。

自然素材と人工素材の組み合わせ方とそのバランス、なぜそれを自身が素直に受け入れることが出来たのか…。そしてそれを自身の問題と捉えたとき、屋外環境に展開する可能性について、ずっと考え続けています。

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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂