御所の周りは緑が多く、特に御門の周辺は閑静な住宅街で、様式こそ現代風の建物も多くありますがちょっと路地を入っていくと趣のある味噌屋さんがあったり、歴史あるまちであることを認識することが出来ます。
虎屋京都店は少なくとも1628年以前から、この地に店を構えていたそうです。
陰影が美しい模様をつくり出している外装は、50角モザイクタイルの特殊面状です。中央の部分がふっくらと盛り上がっていて、磁器質のタイルでありながらとても柔和な雰囲気を持っています。
御所の目の前、烏丸通りに面する京都一条店。 |
結果は7.5YR 8.4/0.6程度。遠目では白ですが、ほのかに黄赤みがあります。またそれは均質な色面ではなく、釉薬特有の自然で繊細な色むらがあり、何ともいえない味わいが感じられます。
(この測色計では光沢のあるものの色値をより正確に表記するため、正反射光を除去する方法と正反射光込みの方法を同時に計測することが出来ます。表面状態に大きな影響を受けやすいラスタータイルなどを計ると、2つの数値には少し開きがあります。
ちなみに上記の数値はSCE(正反射光除去・実際の見え方に近い)の数値で、SCI(正反射光込み・素材そのものの色)の方は 6.8YR 8.6/0.7 程度でした。塗装の色見本を測る時とあまり変わりません。
このタイルには光沢があり、素材そのものの色は見る角度や光の当たり方によって当然変化を受けますが、実際に人が見る見え方と大きな相違は無い、ということが言えると思います。
※あくまで対象に直接光を当て測色場合の結果であり、屋外では夕刻など色温度の変化も見え方に多少の影響を与えます。)
講演会の時に確か内藤氏が『サクラの花びらのような、淡くうっすらと色味が感じられる程度』 を目指して何度も試作を繰り返した、と仰っていました。
例えば明度8.5という明るさを印刷などの色見本で見ると、多くの方は『これはあまり白くない』と言います。色の面積効果によるもの(同じ色でも大きな面積で見ると明るく見える=小さいと暗く見える)と、色見本の周囲にある地の白との対比で、誤った判断(先入観)を持たれている方は、設計者にも多くいます。
少し前のことになりますが、ある若い建築家の方が『N9.5の白以外怖くて使えない』と仰っていたことが強く印象に残っています。明度8.4程度のタイルが夏の日差しを受け、白く輝くように見えることを考えると、明度9.5程度という数字がいかに不必要な白さを放つか…。自身はまた別の意味で、明度9.5の白を建築の外装基調色に使うことの怖さを知っています。
少し話は飛びますが、昨日、東京都国立近代美術館でスタジオ・ムンバイのビジョイ・ジェイン氏のお話を聞く機会がありました。後半、会場からの質問で『スタジオ・ムンバイの作風はヴァナキュラーだと思いますが…』という発言に対し、『我々はヴァナキュラーではない。でも、その精神は内包している。私達はそういう議論の時、ヴァナキュラーという言葉の定義から考えていかなければならない。』という一言がありました。
また、『素材が何か、というよりも、完成した時のセンセーションが大切であり、完成した建築物を見た時の感想やそれがつくり出す雰囲気こそを感じ取って欲しい』とも仰られていました。
測色シリーズは至極勝手に、多くの人が知っている建築・工作物等に使用されている素材や色彩の構造を読み解くことで、単純な白・黒という話ではない検討や選定の過程、そしてそれがどういう見え方をするのかということを自身が確認する作業です。
仕事柄、素材や色彩に注視していることは間違いありませんが、やはり建築家の仕事というものはビジョイ氏の言うように『完成した時、それがその場にあり続けるとき、どのような雰囲気をつくり、どのような影響をもたらすか』ということが考え抜かれているのだ、と思いました。
『今回はたまたま、タイルだった。』のかなあ、等ということを考えています。当たり前のことかもしれませんが、素材ありきではなく、思い描く雰囲気を表現するためにタイルが選択された、のかと…。そうやって考えていくと、先の『N9.5以外怖くて…』という建築家は、白ありき、で考えているということになるのでしょうか。もちろん、そこにも何がしかの方法論があるはずだと思っています。
菓寮の入り口にあるギャラリー。壁面は緩やかな傾斜を持っています。 |
傾斜を付けて悩ましかったがタイルの割付だそうです。縦長のタイルを組み合わせることで、割付ける壁面の幅の変化に対応されています。 |
建具の前には水盤があり、その水面のきらめきが軒に映し出されていました。 |
風情、情感、趣…。カタチや言葉に表しにくいものの数々が、深く心に残っています。
宇治金時(小)に白玉を追加、の贅沢なメニューで一服してきました。 |
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