2012年11月7日水曜日

測色016-南洋堂書店


2008年より、KANDAルネッサンスというタウン誌に神田の色というテーマでリレーコラムを書かせて頂いています。自身の番が来るたび神田のまちを散策し、興味ある素材や色彩を探すのはとても楽しく、この測色シリーズを始めたきっかけの一つでもあります。

まもなく発行される96号の題材として取り上げたのは南洋堂。建築関係の専門書を扱う書店です。1980年に建築家・土岐新氏により設計されたコンクリート造の外観は、深い溝に落ちる濃い影と端正なグリッドパターンが独特の表情をつくり出しています。およそ32年を経過したコンクリートの色は5.0Y 5.3/1.0程度でした。

2007年の改修時に誕生したドローイングギャラリー。

建築の基調色の測色は日本塗料工業会の標準色見本帳で大体間に合います。
壁面に近づいてみると型枠の跡や骨材の粒が認識でき、天然石のような気泡も見られ、そうした“シミやシワ”の刻まれた外観は長い時間の蓄積を感じさせます。時間の経過は通常は意識されない、自然の変化以上に微細で僅かな差異を刻んでいくものなのだと思います。

真新しいコンクリート打ち放しの色は5.0Y 7.5/0.3程度。南洋堂の外壁と比べると二段階くらい明るい印象があります。また以前測色した早川邦彦氏設計の住宅は5.0Y 7.0/0.3程度でした。これまで多々測ってきた経験から、明度は6.5~7.5程度のものが一般的にはコンクリートの色として馴染みがある範囲だと考えています。

よく『素材色は一律でないから数値は役に立たない』と言われることがあります。確かに経年変化する素材の色を測る、という行為は、あくまでその瞬間を切り取ることでしかありません。ですが、上記のように変化の度合いを把握すればよいわけですし、客観的なものさしによって数値に置き換えられた色が、様々な判断を正しい方向に導くために大きな効果を発揮することが数多くあります。

例えば比較対象のサンプル(基準)として。この明度に対し、この素材がどれくらい対比的なのか、融和的なのか。基準(軸)があることにより、差異の強度がコントロールしやすくなります(自在に、とまでは言いづらいのがまた難しいところではありますが)。

コンクリートの例でいけば、『時間の経過と共に明度は下がり、彩度は僅かに上昇する』という特性を持つ素材として、位置づけることが出来ます。さらにその変化の速度と自然の草木が持つ変化の幅や速度との相関性などにも何がしかの繋がりがある、と考えており、紅葉する葉の色の変化や湿った土が乾いていく階調など、環境の色に置き換えてみることもよく試みています。

先日、内藤廣建築設計事務所に勤務されていた方にお話を伺ったところ、事務所には環境を取り巻く要素を数値化する機材、あらゆるものが揃っていたそうです。温度計、湿度計の他、風速計や照度計等。客観的に数値化できるものは徹底的にデータ化して、身体と頭で覚えていく。そんな訓練の一つとして、色彩の数値化ももっと一般的になって行くとよいなと考えています。

素材の肌合いや艶感、微細なゆらぎ等を数値化することは出来ませんが、一度マテリアルを『色』という単位に置き換えて評価し、実際の見え方との比較や適切な強度を設定していくことに大いに役立ちます。

それはその素材と相性の良い素材(・色彩)を探り出す際、とても役に立つ基礎データです。

ところが、今日も『(明度)90超えのアーキテクトホワイト』なるキーワードを目にしてしまいました。常に最高の白でなければならない、という強迫観念?にも似た思い。これは様々な設計者から聞いてきた言葉の一つです。そのように頂点で際立つことを善しとする場合には、対象との比較により周囲との関係性を築いていくためのものさしは必要無く、それはそれでわかりやすいというか、経験に基づく信念であることには変わりは無いのかも知れません。

どちらが正しいとか間違っている、ということを言いたいのでは無く。上限・下限、あるいはその中間など、全ての際(キワ)にこそ、丁寧な検証が必要である、と思うのです。

2012年10月12日金曜日

MATECO第二回勉強会のお知らせ


素材色彩研究会MATECOの第二回勉強会のお知らせです。詳細、MATECOのblogをご覧下さい。


今年6月に実施しましたタイル工場見学会の内容を元に、タイル施工店・不二窯業株式会社の方や建築家の蘆田暢人氏をお迎えし、生産・設計・施工、それぞれの側面からタイルという素材について探求する会にしたいと考えています。 

蘆田氏は昨年まで内藤廣建築設計事務所に在籍されていた方です。前職では虎屋京都店や島根芸術文化センター等をご担当されていました。
ある偶然から私が以前書いた虎屋のタイルについての文章をお読み下さり、何度かメッセージをやり取りさせて頂くうち、是非もっと詳しくお話を伺ってみたいと思い今回のレクチャーをお願いしました。

建築家の方が素材を選定するプロセスや決定の論理について、どのようなお考えで素材と向き合っていらっしゃるのか…。素材・色彩という切り口から作品を語って頂くという、とても贅沢な(そして滅多にない)機会だと思います。

今回の勉強会は見学会に参加した方が面白かった・ためになった、で終わりにしてしまうのはあまりに惜しい内容でしたので、参加できなかった方々とも情報を共有するためにどうすれば良いか、というところからスタートしました。

タイルという建材が設計・施工のプロセスの中でどのような役割を果たすのか、またなぜタイルなのか、ということをそれぞれの立場からトータルに追求してみよう、という試みです。

工場内にあった様々なタイルのデータ。細かなデータがびっしりと記載されていました。勉強会では工場見学のレポートもご紹介します。
勉強会というとカタイ印象かもしれませんが、目指しているのはMATECOラボ&ゼミ、というイメージです。
どうぞお気軽にご参加下さい。

●テーマ 『素材が立ち上がるまで-日本のタイル 生産・設計・施工の現場から』
●プログラム
・タイルとは?-タイル工場見学報告(見学会参加者有志より) 15
・タイルの施工技術について-明治から現在まで
        (仮題・田村柚香里氏+清水真人氏+田中信之氏) 45
・設計の現場から-タイルという素材(仮題・蘆田暢人氏)     45
・質疑応答(全体でディスカッション)                                    45
・ゲストプロフィール
 不二窯業株式会社 http://www.fujiyogyo.co.jp/
 蘆田暢人氏(蘆田暢人建築設計事務所代表, ENERGY MEET共同主宰)
 
●日時:2012112日(金) 18302100 
●参加費:500円(会場費・お茶代)
●定員:30
●場所:幸伸ビル GROUNDSCAPE KNOT 【文京区本郷6-16-3 地下1階】
●連絡先(事前):加藤幸枝/ykatoykato(アットマーク)gmail.com
●連絡先(当日):お申込みの際、ご連絡します。
●申し込み:100mateco(アットマーク)gmail.com 宛に、
 氏名・年齢・連絡先・所属(学生の方は学部・学科も)をご記入の上、メールにてお申し込み下さい。

2012年10月1日月曜日

環境色彩デザインのイノベーションとは?

仕事をしていて日々感じることですが、何事にもイノベーション(革新)、が求められています。
まちなみ形成に関していえば欧州や欧米の成功事例はもうたくさん、事情が違う、歴史が違う、まちの成り立ちが違う=日本の(アジアの)参考にはならない…。

私自身もこれまで様々なシンポジウムや講演会等でそのように感じたことは数多くあり、ある時期からは『もう充分かな、もっともっと具体的な解決策を提示していかないと』と考えるようになりました。
(最近はその反動もあり、また色々なシンポジウム等にも参加する機会が増えつつありますが…。)

近年は国内の調査や中国へ行く機会が増え、改めて独自の方法論やシステムを確立しなければならない、と試行錯誤を繰り返していますが、そもそも環境色彩デザインの革新ってどういうことだろう?と立ち止まることがしばしばあります。

先月、山梨の甲州市へ調査に行った際のこと。ワインツーリズム等で脚光を浴びている地ですが、ほぼ下戸な私はあまりワイン事情に詳しくなく、日本のワイナリーがどのようなものなのかきちんとした知識を持っていませんでした。


facebookに『トスカーナに来ました』というメッセージと共にupした画像。…信じてくれた知人がいました。
快晴だったこともあり、収穫を迎えたブドウ畑とそれを眺めながら味わうワイン、というシチュエーションがまさにバカンスのようだなあ、と感じました。仕事中ですからもちろん試飲は出来ませんでしたが(同行した我がボスは本当に残念そうでした…)、こういう景色をゆっくり味わってみたい、と思いました。


上の写真3点、勝沼ワイン醸造所にて。
後で調べてみたところ、ワイン好きな方の間ではとても有名な醸造所だということがわかりました。閑静な住宅街の一画にあり、わざわざ尋ねて行くような場所であり、目的を持って訪れる人のために看板や店構えそのものはグッと控えめとなっています。

びっしりとツタに覆われた外観。
穏やかな色合いの看板、近付けば視認性は充分です。
蔵を移築して造られたワインショップ。手前は広い駐車場、自然素材で舗装されていました。
もう2店、こちらは街道沿いのお店です。写真上・中段のお店は中の様子が外からはわからないため、一見開店しているのかなと思いましたが、入り口付近に看板が出ている様子から、営業中であることが伺えます。
こちらも同じくfacebookにupしたところ、建築設計を専門としている友人が『これだけ植物に覆われていれば、室内の温度・湿度はきっとワインに最適な状態に監理できているだろう』というコメントをくれました。

いずれもある部分はヨーロッパの雰囲気を持ちつつも、甲州の地形・気候を始めとする“風土”に根ざした景観が形成されていると感じました。

日本におけるワインづくりは1874年に山梨県で始まったと言われています。約140年の歴史を持っており、世界と比べれば歴史は浅いものの、風土から生まれる個性を『産地を味わう』ことを愉しむことを目指し、地域の生産や食文化を育みながらワイン製造が続けられてきたそうです。

…ここで冒頭の“イノベーション(革新)”に戻ります。
140年という時間の流れの中で、ゆっくりとその地に根付いてきた日本のワイン、ということを考える時、自身が考えているその地らしさのある色彩デザインも突如夜明けが来るわけではなく、まだまだ日々コツコツと積み上げて行かなくてはならいものなのかも知れない、と考えています。

今まさに革新が求められるタイミング(というよりもかなり切実な時代の要請)であることは間違いないですし、革新なくして次の段階には進めない、ということも自覚はしています。ですが今一度、その内容とどこに向けて発信をしていくことが一番効果的なのか、CLIMATのスタッフやMATECOのメンバーと共に考え続けて行きたいと思います。

同じく甲州市にて。これをヨシとしてきたことにも、時間が大きく係っていると感じています。

2012年9月12日水曜日

配慮が感じられる、ということ-京都市内の屋外広告物 その2

京都市内の屋外広告物について、嵐山界隈で見かけた事例をご紹介します。初めて訪れた地ですが、こんなにも賑やかな観光地だとは思っていませんでした。ちょうど日曜ということもあって、大変な人出だったのですが、宿の方にそのことを告げると『紅葉時期はもっとすごいですよ』という答えが返ってきました。

桂川沿いの景色。山並みと屋根並みの連なりが穏やかで、とても自然に感じられました。
渋い色合いののぼり旗。高彩度色を使用しなくても人の目を惹きつける事は可能です。
地色を統一した看板。色数も抑えられていて、まとまりがあります。
観光地ならではのにぎわいや京都らしさ(和のイメージや季節感)を生かした看板や店先のしつらいが数多く見受けられ、生かすべき歴史のあるまちとしての誇りや商人の心意気、のようなものを感じました。

ところが、そうした例とは対照的に著しく周辺環境と対比的な表示や工作物もいくつか見られました。

過剰な際立ち方の高明度色や周辺の景色と対比の強い寒色系の色。
市街地ではさほど意識されない自販機のデザインや色も、自然景観や伝統的な建築様式を持ったまちなみの中では違和感が大きく、過剰な目立ち方をしている、と感じます。

とあるお寺でも目立っていた寒色系の自販機。
念のため、自販機は不要だ等と思っている訳ではもちろんありません。先日紹介した事例のように嵐山の中でも店舗の外観に併せ木目のシートを貼った例など、『その場の雰囲気に合わせていくこと』が必要だと考えている、ということです。
 
川沿いの茶屋?に掲げられた派手な赤色の幕。背景の緑とは補色の関係、最も強い色相対比。
…周囲の景色が整えば整うほど、過剰な主張や目立ち方に対する違和感が増大するように感じるのは『色オタク』な人たちだけなのでしょうか?上の写真、川沿いの茶屋は遠くからもよく目立ち、あああそこに何かあるのだなという目印としては有効です。

でもここで休息をとる人たちは、対岸の木々の緑や水辺の景色(桂川は鵜飼の名所です)を楽しみたいことでしょう。寺院と庭園の関係と同じように、私たちヒトもその場に立てば景色の一部となり、周辺に影響を与えたり影響を受けたりするものです。

命を持ち動く動植物やヒトが持つ色彩は、時間や季節の変化(ヒトの場合は年齢や衣服)などにより刻々と変化し、景色に彩りを添える存在です。動植物やヒトがまとう色彩は一時的・動的なものですが、建築や工作物の外装色はその場に定位し殆どの場合その場を動きません。

見る・見られる関係で環境の色彩を捉えてみると、過剰な主張により『見られる』立場として成立することと、自身がそれを『見る』立場になったとき、どう感じるか、というバランスを考えざるを得なくなります。大抵の場合は(自分がつくる・表現するものが)どう見られるか、ということに意識を置いていると思いますが、見る側に立ったときどう感じるか、というのが『配慮』の本質だと考えます。

誰かの立場に立ってみること…。言うは易し、の最たるものかも知れません。
…っんなこと言っていても何の解決にもなりませんので、さくさくとあの手この手を使って、世界を変えて行きたいものです。

2012年9月9日日曜日

京都の景色から考える、現代の建材の色

もう少し、京都の景色から考えたことをまとめておきたいと思います。

近年、集合・戸建に係らず、住宅の(アルミ)サッシの色をどうするかということを検討する際、黒や濃茶等の濃色を選ぶことに躊躇される方が多く、濃色を提案しても採用されない場合が数件ありました。

それにはいくつかの理由が考えられます。
  1. 外装・内装色が総じて高明度化しており、明るい基調色に対し線的に出現する濃色が対比的に感じられるため
  2.  白基調(特に壁)のインテリアに対し、濃色のサッシ(フレーム)が室内の開放感の妨げになる、と懸念されるため
  3.  濃色を使ったことが無い・最近はあまり濃色を使わない等、近年の傾向に抵抗することへの不安感
設計者や事業主と話をしていると、濃色のサッシや手摺が却下される要因としては上記の3点が大きな割合を締めている、と感じます。もちろん、建築物の規模や意匠により、ステンカラー・アルマイトなどの明るい色調がふさわしい場合もありますし、濃色・淡色どちらでもバッチリ決まる、という場合もあります。

詩仙堂。濃色の柱越しに明るい庭を見ると、やはり外の景色の方が印象的に移ります。
夏の陽射しに照らされる詩仙堂の庭園を見ていたら、ふと外の景色だけを見ていることに気がつきました。初めは室内のつくりや天井の高さなどに気が行っていましたが、畳に腰を下ろすとやはり外の景色に目が行き、室内の装飾や柱の存在感はどんどん薄れて行きました。

もちろん、この景色をそのまま現代に当てはめることは出来ませんが、少なくとも『濃色のサッシが室内の開放感の妨げになる』ということは払拭できるのではないか、と感じます。

外装の白と同じように、とにかく明るく・白っぽいものの方が存在感を消すことが出来る、という考え方はやや乱暴であり、明るさの見え方・感じ方は周辺の色や照明の具合など、他の要素との関係性によって決定付けられますから、一つの部材を検討する際も単に時代の傾向や慣習に頼りすぎることなく、常にその環境・空間の状態を推測・検証し選定にあたるべきだと思っています。

庭園に用いられる白系の砂利は、反射光を室内に取り込むため、という記述を以前読んだことがあります
現在、室内の明るさ(照明)環境は数十年前と比較しても大きく変貌を(明るい方向に)遂げている、と思います。京都の寺院を巡っていると、昼間でも本当に暗い場所がたくさんありました。でも長くその場にいると徐々に慣れてきて、ほの暗い中で見る木の柱の質感や障子越しの柔らかな陽射し、鈍く光る襖の金箔等、暗さがもたらす趣や時間の変化の豊かさを味わうことが出来ました。

ほの暗い室内に居ると、視覚的な情報量が減少する分、ちょっとした風で庭の木々が触れあう音、どこかで焚かれている香のかおりなど、五感が心地よく刺激される、という感覚を体験しました。

東福寺。石のテクスチャーの違いによる灰色の濃淡。
同じく東福寺。しっとりとした艶のある灰色。
東福寺、方丈南庭の際。灰色によるコンポジション。
そしてもう一つ印象的だったのが、石材の様々な表情です。普段から素材には注視しているつもりですが、日本庭園を眺めていて改めて灰色の階調の豊かさに目を奪われました。東福寺、龍安寺、詩仙堂…。いずれも観光パンフレットなどに掲載されている写真は紅葉時期のもので、主役は四季の彩りであることが明確です。

でも実際に訪れてみると、瓦の色むらや苔生す石、大判の石材と砂利のスケールの対比等、実に細やかで、自然に同調するような微細な変化が感じられ、周辺は夏の緑一色でしたが決して見飽きることはありませんでした。もちろん紅葉時期もより一層、素晴らしい景色が眺められることでしょう。

東福寺の方丈庭園。思ったよりもこじんまりしたスケール感、苔のボリューム。訪れてみないとわからないことは多くあります。
庭園は造られた自然であり、そういった意味で寺院は建築物と庭園が一体的にデザインされている(内と外の見る・見られるの関係)のだと思います。近代になり自然素材以外の建材が数多く出現し、選択の可能性が広がったことから、内部・外部のデザインがそれぞれに多様化していった、という変遷もまちなみに大きな影響を与えています。

部材の色を決める場合、様々な条件を自身で設定しますが、もっと時間を遡ってそのあり様を考えてみることも必要なのではないか、と常々考えています。単に和風・洋風といったスタイルにとらわれず、長く自然環境と付き合ってきた先人達の知恵や経験を生かすべき部分が、数多くあるはずだと思うのです。

新しい建材は機能に優れていて、多く使われるほどに求めやすいコストになって行くなど、よい面が多くあり、そうした進化を否定するつもりは全くありません。ただ、その選定においては選ぶ側にも多大な責任があり、一つの部材が景色までを変えてしまう可能性もあるのだ、ということを今まで以上に意識していきたいと思いました。

2012年9月5日水曜日

塗装の可能性-山東省の調査より

順序がすっかり逆になってしまいましたが、先月中旬調査に行ってきた山東省の2つのまちの景色もご紹介しておきたいと思います。

今回の調査地は濱州市(ビンジュウ・bīn zhōu)と沾化(ジャンホア・zhān huà)県、二つのまちは70キロ程離れています。いずれもほんの10年前までは殆どが農村だったとのこと。わずか数年で新しい道路や河川、建物群が出現したということには驚きを隠せませんでした。
以下は2つのまちのより新しい方、沾化県の写真です。

市政府建物(県内で一番高層)屋上から眺めた景色。屋根の高彩度色は現実離れしていて、何か模型のような印象を与えます。
何もかもが新しく、(善し悪しは別として)きれい、という印象は感じます。でも何となく不安になるというか、どうしてこういう景色なんだろう、ということばかりに気が行ってしまいます。

こうした地域の古い集落は土壁の平屋で、写真の一帯は1950年代につくられたものだと聞きましたが、かなり老朽化が進んでいます。

私達は調査に行くと必ず、こうした地域の古い集落に案内をしてもらいます。そこには必ず地域の素材があるためです。ところが、地元の方々はこのような自然で穏やかな雰囲気の古い集落を歩きながら『こういう景色はホッとするけど、冬は寒いし不便だし、黄砂を思わせる家に住むのは嫌。』と言っていました。 …なるほど。

…どこまでが大地で、どこからが壁か。  
目の前の道は舗装が完了しています。この周辺の集落はあと一年ほどで壊されていくそうです。
一方、新しい住宅は同じ間取りの反復による団地のような形式です。上の屋上から撮影した写真にあるように、同じ形態・ボリュームの住棟が20・30と連続している場合が多く、特に外装が塗装の場合はファサードの与えるインパクトが大きい、と感じます。

それまで地域に育まれてきた建築の様式や素材・色彩から大きくかけ離れた建築物の外装は、どこにも根拠が無いように見え、延々と続く似たような景色に圧倒されることが多くあります。
 
明度8・彩度6程度の外装色。日本ではまず見かけない明るく鮮やかな基調色。

塗装にしか出来ない配色、があると考えています。これはリズミカルですが過剰な派手さは無く、ともて興味深い事例でした

日本でも『大きな面積に使用する塗装色の選定』や『群で出現する建築物のまとまりと変化のバランス』が最も難しく、積極的に色を使ってすぐに飽きられる例や、無難に淡色・単色でまとめてしまう例などが多く、自身も常々、どこまで塗料の特性を理解し、形態に応じたデザインを展開できているだろうか、と自問しています。

今回の山東省で鮮やかな色や対比の強い色が多く使用されていた理由の一つには、黄砂の影響があります。特に春先は始終景色がかすみ、何もかもが黄ばんで見えるのだそうです。塗装を施してもわずか2年ほどでくすんでしまうので(塗料自体の性能の問題もあると思いますが)、思い切り対比を強く、そして強い色を使うのだ、という話を聞きました。

自然素材を使った住宅はその地にあるものを利用し気候風土と上手く折り合いをつけながら暮らしてきた、という歴史があると思いますが、集合住宅として規模が大きくなった時、全てを土壁で仕上げるわけにはいきませんし、建築に使用する建材の変化と共に、色彩選択の新しい論理を組み立てていく必要があると感じています。もちろん、日本でも同じことが言えると思います。

素焼き瓦の家並みは自然の緑と馴染み、穏やかな景色です。背後にはまちの中心部で建設の進む高層の建物が見えます。
素材が現代の仕様やかつて無かった新しい建材に変わっていく際。これまでそれらの色のことはあまりにぞんざいに扱われてきたのではないか、という思いがいつも頭から離れません。

塗料は色表現の自由度が高い材料の一つですが、形態や規模・用途を総合的に鑑みると、建築の基調色の範囲は意外と狭い範囲に収まっていますし、見慣れない・不似合いなという観点のみならず、建築物が公共の場に出現するものであることを考えると『余程のことが無い限り基調色には使うべきではない』範囲の方が圧倒的に広い、と考えています。

文化や気候風土の違いを考慮しつつ、この地に新しくつくられていく景色にどのような秩序を与え、許容すべき変化を示すことが出来るか…。6日間に及ぶ調査の結果から、根拠を導き出し論理を構築する作業が続いています。

2012年9月2日日曜日

測色015-虎屋京都一条店

京都御所の側にある和菓子屋、虎屋一条店・虎屋菓寮一条店内藤廣建築設計事務所の作品です。一昨年、内藤氏の“建築と素材”という講演会の中で、外装のタイルについて詳しくお話を伺ったことがあったので、是非拝見してみたいと思っていました。

御所の周りは緑が多く、特に御門の周辺は閑静な住宅街で、様式こそ現代風の建物も多くありますがちょっと路地を入っていくと趣のある味噌屋さんがあったり、歴史あるまちであることを認識することが出来ます。
虎屋京都店は少なくとも1628年以前から、この地に店を構えていたそうです。

陰影が美しい模様をつくり出している外装は、50角モザイクタイルの特殊面状です。中央の部分がふっくらと盛り上がっていて、磁器質のタイルでありながらとても柔和な雰囲気を持っています。

御所の目の前、烏丸通りに面する京都一条店。
実は今回、いつもの測色シリーズのように色票を持って行って現地で測ったわけではなく、ある方にお願いして実際に使用したタイルをお借りし、事務所で光学式の測色計を使って測ってみました。
結果は7.5YR 8.4/0.6程度。遠目では白ですが、ほのかに黄赤みがあります。またそれは均質な色面ではなく、釉薬特有の自然で繊細な色むらがあり、何ともいえない味わいが感じられます。

(この測色計では光沢のあるものの色値をより正確に表記するため、正反射光を除去する方法と正反射光込みの方法を同時に計測することが出来ます。表面状態に大きな影響を受けやすいラスタータイルなどを計ると、2つの数値には少し開きがあります。

ちなみに上記の数値はSCE(正反射光除去・実際の見え方に近い)の数値で、SCI(正反射光込み・素材そのものの色)の方は 6.8YR 8.6/0.7 程度でした。塗装の色見本を測る時とあまり変わりません。

このタイルには光沢があり、素材そのものの色は見る角度や光の当たり方によって当然変化を受けますが、実際に人が見る見え方と大きな相違は無い、ということが言えると思います。
※あくまで対象に直接光を当て測色場合の結果であり、屋外では夕刻など色温度の変化も見え方に多少の影響を与えます。)

講演会の時に確か内藤氏が『サクラの花びらのような、淡くうっすらと色味が感じられる程度』 を目指して何度も試作を繰り返した、と仰っていました。

例えば明度8.5という明るさを印刷などの色見本で見ると、多くの方は『これはあまり白くない』と言います。色の面積効果によるもの(同じ色でも大きな面積で見ると明るく見える=小さいと暗く見える)と、色見本の周囲にある地の白との対比で、誤った判断(先入観)を持たれている方は、設計者にも多くいます。

少し前のことになりますが、ある若い建築家の方が『N9.5の白以外怖くて使えない』と仰っていたことが強く印象に残っています。明度8.4程度のタイルが夏の日差しを受け、白く輝くように見えることを考えると、明度9.5程度という数字がいかに不必要な白さを放つか…。自身はまた別の意味で、明度9.5の白を建築の外装基調色に使うことの怖さを知っています。

少し話は飛びますが、昨日、東京都国立近代美術館でスタジオ・ムンバイのビジョイ・ジェイン氏のお話を聞く機会がありました。後半、会場からの質問で『スタジオ・ムンバイの作風はヴァナキュラーだと思いますが…』という発言に対し、『我々はヴァナキュラーではない。でも、その精神は内包している。私達はそういう議論の時、ヴァナキュラーという言葉の定義から考えていかなければならない。』という一言がありました。

また、『素材が何か、というよりも、完成した時のセンセーションが大切であり、完成した建築物を見た時の感想やそれがつくり出す雰囲気こそを感じ取って欲しい』とも仰られていました。

測色シリーズは至極勝手に、多くの人が知っている建築・工作物等に使用されている素材や色彩の構造を読み解くことで、単純な白・黒という話ではない検討や選定の過程、そしてそれがどういう見え方をするのかということを自身が確認する作業です。

仕事柄、素材や色彩に注視していることは間違いありませんが、やはり建築家の仕事というものはビジョイ氏の言うように『完成した時、それがその場にあり続けるとき、どのような雰囲気をつくり、どのような影響をもたらすか』ということが考え抜かれているのだ、と思いました。

『今回はたまたま、タイルだった。』のかなあ、等ということを考えています。当たり前のことかもしれませんが、素材ありきではなく、思い描く雰囲気を表現するためにタイルが選択された、のかと…。そうやって考えていくと、先の『N9.5以外怖くて…』という建築家は、白ありき、で考えているということになるのでしょうか。もちろん、そこにも何がしかの方法論があるはずだと思っています。

菓寮の入り口にあるギャラリー。壁面は緩やかな傾斜を持っています。
傾斜を付けて悩ましかったがタイルの割付だそうです。縦長のタイルを組み合わせることで、割付ける壁面の幅の変化に対応されています。
建具の前には水盤があり、その水面のきらめきが軒に映し出されていました。
修学旅行以来、本当に久しぶりに京都を歩いてみて、歴史ある建物や建築の様式などに目を惹かれたことももちろんですが、例えば各所に設置された風鈴や日よけの暖簾など、ちょっとしたことが歩く人の目を誘い、その場に佇んでみたくなったり暖簾の奥を覗いてみたくなる…そんな印象を受けました。

風情、情感、趣…。カタチや言葉に表しにくいものの数々が、深く心に残っています。

宇治金時(小)に白玉を追加、の贅沢なメニューで一服してきました。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂