2013年2月21日木曜日

白基調のまち並み、CLIMATレポートより

前回、多色を使って調和を形成するための基本的な考え方についてまとめましたが、その中で

規模が大きくなればなるほど、全て白で、というわけには行かなくなるでしょう(…絶対にあり得ない、とは言い切れませんが)。

と書いたところで、白で揃っているまちがあったなあ、ということに気がつきました。
横浜のみなとみらい21地区です。実際に測色をした結果も併せて『CLIMATレポート』にまとめてあります
ご参考まで。

全体として白さを感じるまちですが、様々な素材やテクスチャーにより、アイレベルでは適度な変化が感じられます。特徴ある形態を持つ建築物が建ち並んでいることも、ともすると単調になりがちな白の印象を緩和している要因のひとつであると思います。

規模や形態、高さの統一、素材や色の統一。現代のまちなみ形成においては、何かを一定の範囲や幅の中に納めることで連続性や一体感を形成する、ということが必要だと思っています。まるで同じにする、ということではもちろんなく、ある幅のなか、で充分です。

それを実証するために、様々なまちや地域で色を測る、というサーベイを行っています。この手法を広く知って頂き、どのようなまちにも必ず色彩の構造がある、ということを様々な計画に役立てて頂きたいと考えています。

2013年2月18日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学③-失敗がない色の選び方(多色編)


失敗がない色の選び方(単色編)に続いては、多色を用いる場合の基本について、解説します。

色を使うという一文については、実に様々な意味や解釈があるものだと感じます。中でも、色を使う=カラフルになる、色をたくさん使う=ごちゃごちゃになる、という二点に対する懸念が最も大きいようです。
そもそも、『色を使わなければならない状況なのか』という検証が先にあるべきで、使う必要がある際にも『どのような使い方が適切か』という段階的な検討が不可欠であると考えています。

ところが、なぜか色は“つける”という表現に表れているように、まるで後から塗り絵のように鮮やかな色を着彩することである、と捉えられている節があります。この色を色彩、に置き換えてみると、違和感の大きさが伝わるのではないでしょうか。色彩はつける、よりも施すや展開する、の方がしっくりくるような気がします。更にいうと、『対象物と何らかの調和が形成できるよう検討された数色を組み合わせ、配置する』ことが、色彩を展開することの意味や意義なのではないか、と思っているのですが、如何でしょう?

それでは複数色を用いることが、イコールカラフルさではないこと、また沢山の色を使って一体感や連続性を表現する方法を紹介します。その名を、『色相調和型(しきそうちょうわがた)』の配色といいます。

環境色彩デザインにおいては、いくつかの基本的な調和の型(タイプ)があります。どのような配色でも(対比の強い補色同士等)調和を見出す二次元のグラフィックや絵画等とは異なり、三次元空間では対象物が持つ規模や用途、また建築物が持っている慣例色(素材)等との関係から、特殊な配色は調和を感じにくく、調和感よりも違和感を増大させる要因となりがちです。

この色相調和というのは配色の中でも最も『調和した印象』を感じやすい配色です。その大きな要因は、どのような色相であれ、純色(原色)と白・黒の3色を混合するカラーバリエーションであり、明度・彩度の変化が既に調和した状態である、という点にあります。濃淡が生み出す色彩のグラデーション=階調は音楽でも同様、なめらかさや連続的な変化を表しますから、色相が統一されているという条件が階調の変化を支える軸となり全体のまとまりを保持している、ということが言えると思います。

また濃淡の変化というのは、私達が長年見慣れてきた『身の回りの状態の変化』に酷似しています。夕暮れ時、橙色が闇夜に変わる様子、切り出した木材が風化し色味を失っていく様子、落葉樹が緑から黄、赤へ変化していく様子…。私達の暮らしは徐々に色彩が移り変わること、そしてその変化の幅が大変微細であるという状態の変化と共にあります。

色相調和型の配色を2例、提示します。

色相調和型の配色・その1
上段は低~高明度、低・中彩度色を使って構成したものです。
この段階では、こうした配色をカラフル、と感じる方も多いかも知れません。

色相調和型の配色・その2
次に、全体の彩度を下げ、低~高明度、低彩度色のみで構成したものです。いずれも全て色相は10YR(イエローレッド)系であり、使っている色数は同じです。それぞれトーン(明度と彩度を併せた概念・色の強さ)に変化を付けることによって、複数色を使ってもまとまりを保持したり穏やかで落ち着きのある印象をつくったりすることが可能である、と考えています。

 私はいくつかの自治体で景観アドバイザーという職務に携わっており、月に12度程度の割合で様々な相談を受けます。景観に関する協議のため、建築設計者が図面に素材や色彩(日塗工の色番号やマンセル値)を記載した図面が提出されますが、複数色を使う計画案の場合、この色相調和が図られている例には殆ど出会ったことがありません。

基調色がYR(イエローレッド)系なのに、低層部がR(レッド)系だったり、Y(イエロー)系だったり。近似の色相も類似色相調和、という型の一つですが、使用する部位や面積が様々な場合、色相の類似のまとまりは読みとりにくくなります。差異による変化を恐れるあまり、色相・明度・彩度に殆ど差異のない色群を無意味に使い分ける例も数多く見てきました。使い分けたいけれど、どのくらいの差異が適切かわからない、差をつけ過ぎてまとまりが無くなることを恐れているように見受けられます。

特に外装の場合は形態に合わせて適度な変化をつける=分節化が必要な場合があります。また、上記の例のように複数の建物が混在する際、規模が大きくなればなるほど、全て白で、というわけには行かなくなるでしょう(…絶対にあり得ない、とは言い切れませんが)。

そこで是非検討して頂きたいのが、『色相調和型』の配色です。軸となる色相を決め(暖色でも寒色でも)、その純色に黒と白を加えた濃淡のバリエーションによる配色は、最低限の調和を形成するために最も有効な配色手法だと言えると思います。

最後に、色相調和型の配色に関するまとめです。

●色群の段階で既に調和感が形成されているため、多色を展開してもまとまりが保持されやすい。
●対象物の規模や用途・目的に合わせて、色のトーン(明度・彩度)を変えながら、全体の『雰囲気』をつくることが可能。
●よって、建築・工作物単体の他、それらが複数集積した群に対しても展開がしやすい。

今後他の色相ではどのようなイメージなるか、も紹介していきたいと思います。

2013年2月14日木曜日

お知らせ-平成24年度第3回静岡県景観講習会

お知らせです。
2013年2月25日(月)午後1時30分から、三島市民文化会館小ホールにて開催される静岡県景観講習会に講師として登壇することとなりました。
平日日中ですが、お近くの方・ご興味のあります方、是非ご参加下さい。

テーマは富士山。自身が一昨年から山梨県の景観アドバイザーを務め、いくつかの地域で修計事業に係わっているご縁から、その取り組み事例を紹介させて頂くこととなりました。

当日は三部構成、日本大学理工学部教授の天野光一氏(富士山周辺地域における景観形成のあり方)、NPO法人地域づくりサポートネットの山内秀彦氏(ぐるり・富士山風景街道における景観ワークショップの事例紹介)が参加されます。

まち並みに色彩が与える影響や効果について、多くの事例を交えながら、現況の課題とすぐに・誰もが取り組むことの出来る手法等をなるべくわかりやすく紹介したいと思います。
どうぞ宜しくお願い致します。

2013年2月8日金曜日

建築学生からの質問に答えてみました-その2


一昨年浜松で登壇した『建築家と白について』という対談の際、はじめてじっくりと建築の白について色々と考える機会を得ました。その時は建築家の方と対談という形式で話をさせて頂きましたが、それまで漠然としか理解できていなかった形態の抽象化のこと、また空間がかたちづくられるプロセスにおいて素材(と色彩)の選定が建築家にとってどのような意味を持っているのか等のことを深く知ることができました。
以来、何かとこのテーマについて尋ねられる機会が増え、自身も様々な資料を調べたり色々な建築家の考え方を学んだりする日々が続いています。

先日の立命館大でのレクチャーの際、ぜひこのテーマについて触れて欲しいという要望を頂き、更に出来れば批評をと言われました。専門家としての評価を求められること、特に学生の前ではお茶を濁すようなことは出来ないなあと思いつつ、公の場では自身が評価の軸をどこに置いているかをきちんと明示しなければならない、と感じました。

私は現在、都市やまち、そして様々な建築・工作物に係わる仕事をしていますが、建築の専門的な教育を受けてはいませんので、建築設計という専門的な見地からの批評は出来るはずがありません。ただ、自身が学んできた『色彩学』という学問を切り口とした際、建築の白に対して建築のそれとは異なるアプローチが出来るのではと考えるようになりました。

自身の理解では建築とは文化をつくることであり、時間軸や空間軸におけるあらゆる事象を解いた上で成り立つもの・こと、であると考えています。ゆえに建築の専門的な知識や技術だけでは解けないことも多いはずだと思いますし、私達の眼前にある姿を持って表れる以上、視覚に訴えかける情報・メッセージが発せられるものです。

物体が持つ何らかのテクスチャー(手触り)がかたちを把握するための手掛かりとなり、その質感や色合い、双方があいまってもたらす陰影等は見る人の心理や心情に様々な影響を与えるものです。その素材や色彩が与える影響を、色彩学の観点から解くと何が見えてくるのか…。
この一年半あまり、特にそのような立ち位置を意識して、まちや建築のことを考えています。

さて前置きが少々長くなりましたが、建築学生からの質問への解答、第二弾です。

◎色と時間・白い壁
●質問5 
白い建築はまめに塗り直したりして白を維持しているんですか?
ホワイトボックスが2030年経った時にどんな表情になるのか気になります。

2030年後、私も大変気になります。この仕事に就いてかれこれ22年になりますが、仕事を始めたころはさほど白を意識していませんでしたし、環境色彩デザインの方法論では外装の大きな面積に視認性・誘目性の高い白を用いること(=色彩学的に過剰に際立たせること)は避けるため、いわゆるホワイトボックスの経過について、自身の選定事例を挙げて解説することはできません。

一般的な例として、竣工後約2年を経過した集合住宅の一部をご紹介しておきます。激しく汚れが目立つという程ではありませんでしたが、それでも大きく平滑な壁面にはいくつかの雨筋が浮かび上がっていました。これはあくまで一つの例です。この事例については引き続き、様子を観察して行こうと思います(…決して人様のあらさがしをするわけではなく)。



外壁の塗り直しの周期について少し調べてみました。住宅金融支援機構のサイトには1520年で全面改修を検討すべし、とありました。塗装の表面だけの問題ではなく、時間が経つと躯体の劣化が進行する恐れもあり、長く放っておくと下地の補修にも多額の費用がかかるので、早めの対応が肝心である、とも記載されています。

自身がこれまでいくつか外壁修繕に係わった都市機構の団地等でも、外壁や鉄部の塗装などの部位毎の修繕周期が1015年ごとに定められています。民間の集合住宅等でも10年程度で必要に応じて補修や塗装を行うというような修繕計画が立てられています。

このように修繕の目安が15年程度を初期の修前のタイミングとして推奨されていることを考えると、2030年、ホワイトボックス(あくまで塗装を前提)が竣工当初のままの状態でいることは難しいのでは、ということが推測されます。一方、15年という周期よりもこまめに塗装をし直す、ということは現実的な費用や手間を考えると持ち主にとっての負担の大きさが気になることころです。

一方では、近年様々なメーカーによって耐久性・防汚性の高い白い製品や白を保つための技術が開発されています。そうした優れた機能を持つ建材を使用することが長く美しい白を維持するためには欠かせない視点であると言えると思いますが、光触媒の技術を用いた塗料等は光の当たらない北面や付近に建物等が近接していて雨があたりにくい場所ではその機能が発揮されないという側面もあり、環境や部位の特性に応じた仕上げ材の選定が不可欠であることには変わりはありません。自身の経験では建材や仕上げ材単体が持つ性能に頼り過ぎると、他の側面からの影響を見落とす可能性が高まり大変危険である、ということが身に染みています。

色彩学の観点から見た時、高明度の白は他のどの色よりも際立ち手前に進出して見える色、という特性を無視することができません。建築家のいう抽象化を色彩で表現するのであれば、周辺の環境に馴染まる(=時には迷彩のようにスケール感も)、ということの方がはるかに効果的です。が、これはあくまで視覚情報としての色が持つ特性です。今後は更に形態やボリュームとの関係、を解いて行こうと思います。


●質問6 建築の色の時間変化について
『化学材料には時間が染み込まない』というひとこと。以前建築家の内藤廣氏のレクチャーで聞いた言葉で、今でも強く記憶に残っています。氏はまた『時間の流れに抗う気持ちと素直に流されてみたい気持ち、双方を行き来している』ともおっしゃっていました。

自然素材の時間の経過と共に変化が味わいとなって行く様子、時間が染み込まない分、一気に老朽化したり部分的な劣化が目立ったりしやすい人工的な素材。様々な建材は技術の発達により耐久性が良くなり、長く美観を保つことも可能になりましたが、周囲にある様々な建材や自然を含めた環境の経年変化と、スピードがズレ過ぎてしまうことにも課題があるような気がしています。

壁面単体がいつまでも綺麗で輝いている分、その他の部分の老朽化が返って目立ってしまうという状況が考えられます。年月の推移のみならず一日の中でも時間の変化があり、四季折々のとても繊細な自然の変化と付き合う中で、どこまで時間に抗うべきか、どこから溶け合うべきなのか。自身が素材を選定する際は、そこが最も悩む部分です。

白に話を戻すと、高明度の白を用いるということは、時間をどう設計するかということに大きく係わってくると思っています。永く美観を保つという観点を重視するのであれば、雨を除けるために軒を深くしたり天端に勾配を設けたり、とにかく水の逃げ道をつくる。そして汚れにくい・汚れが付着しても落としやすい仕上げ材を使用する等、あらゆる工夫が必要でしょう。自身の立場からいえばそうした工夫や配慮のなされていない建築・工作物にはどんなに施主や設計者が要望しても、白を使うことは薦められません。

一方、時間の経過による変化を汚れや劣化と認識させないような材料の選定、という考え方や見せ方もあるように感じます。むしろ積極的に時間の変化を染み込こませるような塗料、見てみたいとも思います。そうした設計における工夫や配慮と生涯のメンテナンスに掛かる手間や費用をトータルに検証した上で、白を用いる意味や意義について、建築家は徹底的に考えているものだと信じています。

こうして改めて書き出してみると、まだまだ自身の中でも整理できていない部分の多いことが浮き彫りになります。学生が求めるスパッとした答えにはなっていませんが、この文面は全て自身の経験がベースであり、嘘はありません。

ところが先のレクチャーの際に内藤廣氏は至極スパッと話されていて、さすがだなあと思ってしまいました。『ウエディングドレスが綺麗なのは結婚式当日だけ。あんなもの着ていたら日常は出来ない』と。
…許可は取っていませんが、実は随分このフレーズも使わせて頂いています。

こうした自身の正直さがどこまで役に立つか、甚だ心許なくなってきましたが、引き続き建築の白がもたらす色彩学的な意味や効果、そして課題について、考え検証し続けて行きたいと思います。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂