2015年5月11日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑬-色の抽出・選定は何に因るか

近年(この3年くらい)、仕事の依頼や提案の仕方について、頭を悩ませている事案が2つあります。
1つ目は「他の設計事務所が色彩計画案を出してきたが、良くなかったので改めてCLIMATに頼みたい」という依頼が増えていること。これは結果的に仕事が来ているのだから良い、という側面ももちろんありますが、工期との関係で色彩以外の要素を検討する時間が大幅に削られ、総合的な調整が十分にできないという課題が生じています。

2つ目はその良くない案を(参考までに)見せてもらうと、検討のプロセスのほとんどが私達の使っている方法論であること、時にはプレゼン資料のフォーマットまでそっくり真似されている場合が少なくないことです。

私達(CLIMAT)は常々、環境色彩という「周辺環境や地域性、対象物同士の関係性の構築」をテーマとした色彩設計を行っています。それは「より良い環境の形成」を目指すことが基本なので、そのための方法論はどんどん広がって欲しいと考えていますし、応用しやすいようブラッシュアップを重ねながら、広く公開もしています。

例えば昨年まとめた「自然界の色彩構造10の原理(仮)」などは、建築・土木設計のみならず、一般の商店主や個人の住宅の改修等にも応用できるように構成したものです。

悩ましいのは、方法論を真似ているにも関わらず、そこから抽出されている色があまりに唐突であったり、あるいは立地や規模を無視してただひたすら真っ白であったり、複数の建物が全て同一色であったり…。あらゆる検証が「証明の結果」になっていないことです。ゆえにクライアントからの評価が「良くない」とされているという現状があります。

方法論はあくまで抽出・選定までの段階的な検証のプロセスであり、方法論をなぞるだけで明確・正確な答え(この色にすべし)を導けるわけではありません。

ところが一般には色が持つ様々な特性が先に立ち、わかりやすい方法論が好まれる傾向にあり、実際にそれを応用した色彩計画も未だに多く見られることも事実です。

「わかりやすい」とされる色選定の方法論
●色の持つイメージを対象物との関係性を無視して多用すること
 例:海辺のまちだから、爽やかなブルー/やさしい印象にしたいから、ピンク…等
●色見本として、建材とは関係の無いものを抽出のモチーフとすること
 例:伝統的な藍染の藍/フランスパンのようなおいしそうな色…等
●地域のシンボルカラーを転用すること
 例:地元サッカーチームのテーマカラーだから赤、サクラやフジ等、草花の色…等

特に建築よりも土木工作物(橋梁やストリートファニチャー等)でこうしたわかりやすい(とされる)色使いが多く見られた時期があります。近年ではそうした安易な決め方は長持ちしない(飽きられやすい)ことへの理解や景観の観点から問題視される機会も増え、あまりに突飛な事例は少なくなりつつありますが、特に建築の場合はその反動というべきか(或は失敗したくないという懸念から?)、やや極端に白へと向かう傾向にあるように感じています。

実際「単体ならまだしも、複数の住棟を全て真っ白という計画は如何なものか」という相談は多く、地域の特性や周辺環境との関係性のみならず、1520年周期とされる塗装の経年変化等も考慮すると複数の住棟すべてが白では「持たない」という懸念が生じるのは無理のないことだと感じます。
(※ここでは公営住宅等の塗装仕上げを前提として話をしているので、金属やコンクリート等の素材色で外装が構成される場合はまた考え方は異なります。念のため。)

一方、とはいえわかりやすく間違いがないという方法論も広まるためには最低限のラインとして必要性があることも理解しています。そのために「とりあえず10YR」や「鮮やかな色の使い方」などにも言及しています。

私達は周辺の環境の調査(=地域が持つ色の客観的な数値化)等により、行けるところまでは理詰めで行く、ということを意識しています。例えば大規模団地の改修において、数学の証明問題のように「板状住宅の密集における北側の暗さを解消する効果持つ配色を示せ」という課題がありました。この命題に対し私達は「濃淡の対比を強め、濃色と淡色の組み合わせにより淡色をより明るい印象に見せる」という解を導きだしました。

これは色彩の同時対比という現象で「証明」することができます。明るさは周辺環境や光の加減を含め相対的に決定づけられるものであり、対象物の明度を一律に上げても決して継続的に明るい「印象」をつくりだすことはできないということの「科学的な根拠」を示しています。

方法論は応用してもらって構わないと豪語(?)しておりますので、参考までにこの事例の使用色を記載しておきます。

北側
南側
●基調色1(南・北面) N8.0(淡・全棟共通) 10YR 3.0/2.0(濃色・2色相を一つの街区で使い分け)
●基調色2(妻面)10YR 5.5/1.0(濃色と色相を合わせている)
●階段・バルコニー軒裏 N9.3(全棟共通)

特に注目して頂きたいのは淡色の明度。明度8.0程度なので、さほど純度の高い白ではありません。ちなみに建築家が好むのは明度9.5、紙のような白なのだとか。日差しや周辺の木々、刻々と変化する空の色等との対比・調和を考慮しつ、フラットな壁面の汚れを多少なりとも吸収できるのはどちらの白でしょうか。

また、住棟の間に階段室が配されています。箱型の住棟の妻壁面が狭い間隔で向き合う部分には、明度5.5程度の中明度色を南・北面の濃淡に関わらず、共通に配しました。この部分は単色で構成される空間なので、少ない光(昼間は外光、夜間は照明)の状況に応じ、極端に明るかったり暗かったりすることのないよう、時間の変化(光の変化)による印象の違いが生じにくいようにコントロールしています。

ただ単に色が持つ印象や雰囲気(住宅だから温かみのある色で…等々)、あるいは「とにかくより白く、存在を消すように」等という選定の仕方は、私達からすると非科学的な選定方法だという印象を持ちます(もちろんそれが絶対にあり得ない、という訳ではありません)。

この色・組み合わせが規模や形態との呼応により「どのような効果を生み出すか」。それを検証するのは意外に容易いことだと考えています。色彩の対比・同化・調和(と、それに与える色彩の心理的(視覚)効果)を整理して把握することができさえすれば良いのです。

ご興味の在ります方、セミナー・レクチャー等の依頼歓迎致します。
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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂