2015年1月30日金曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑫-色彩学って何?

例年今時期、静岡文化芸術大学のデザイン学部で非常勤の授業があります。担当科目は空間演出計画Ⅰと空間演出デザイン演習Ⅰの2単位で、色彩の他音響・照明(もちろん講師はそれぞれ)がセットになったオムニバス形式の授業科目です。

空間造形学科の専門科目で、例年一年生が全員受講します。都市・ランドスケープから建築空間・インテリア空間まで、幅広い領域を網羅するカリキュラムが特徴で、一年時からかなり専門的な科目が盛り込まれていると感じます。

同じく非常勤をしている武蔵野美術大学の基礎デザイン学科では、色彩論Ⅱ(二年生)を担当しています。基礎デザイン学科では一年の前期に色彩論Ⅰという科目があり、いずれも必修です。全国的にも珍しいと思いますが、実にほぼ一年をかけて色彩学の基礎・色彩論への展開を学ぶという、じっくり時間をかけてデザインと色彩の関係を体験し考察するという、文芸大とはまた違った特徴があります。

文芸大の授業は2つの科目を1日で実施します。3限で計画、4・5限で演習という組み合わせで、3コマ×5週間の集中型の授業です。
講義(座学)と演習(実技)を連続して実施することができ、演習の時間をたっぷり取ることができますが、5週間というのはかなりの短期決戦でもあります。

その中で色彩学・色彩論の基礎から応用(実践)までを網羅するのは中々難しく、例年課題の設定や全体のプログラムは7年目を迎えた今も、少しずつ手を入れてバージョンアップを繰り返しています。

今年の新しい試みとして、デザイン活動のベースとなる色彩学・色彩論の基礎的な事項と自身の専門である環境色彩デザインの位置づけを下図のように図式化する、ということ考えてみました。
もとは演習の最中、ホワイトボードに思いつくまま殴り書きしたものなのですが、以下は再度全体の構成を考え、清書したものです。

上段は大学の講義や演習で展開する基礎項目
色彩検定やカラーコーディネーター検定等、色彩の基礎知識を問う試験も一般的になり、色彩が持つ様々な効果や心理的な影響はデザインや建築設計を学ぶ方でなくても耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。

現象・技法・効果・調和論…。様々な要素はそれぞれとても興味深く(…自身にとっては)、相互の関わり合いは応用が効いたり、影響しあったり。自身の頭の中では相関図のように位置づけが見えていたものの、こうして可視化したのは初めてのことでした。

分類する、というのは複雑なものごとを整理して考える時の基本ですが、さらに線を引くという行為は相互の関わりや繋がりを明確にし、何と何が影響し合い行き来が可能な行為なのか、又は一方通行なのか。そういったことがとても整理しやすくなります。

他の分野の方に「色はパラメータが多すぎる」と言われたことがあります。最初は意味がよくわからなかったのですが、この現象と技法と効果を挙げてみるとなるほどとうなずける部分があります。結局「見え」に影響しているのは何なのか、ということになる訳です。

ちょっと説明的になりますが、建築・構造物の色彩計画を考える際は現象的分類の内の表面色を扱うことが殆どです。ものの色の見え方に影響を与えるのが心理(視覚効果)です。視覚効果には様々な種類があり、中でも対比と同化現象はより細かく分類され、各々の現象性は芸術・デザインの分野に広く展開されています。

視覚効果や現象性は配色の技法に多様なバリエーションをもたらし、色彩調和を生み出します。調和論だけ、あるいは視覚効果だけが独立して扱われる(解説される)ことも多いのですが、これらは全て図のように関わり合いを持っているということがおわかり頂けるでしょうか?

建築物の色彩調和だけでは成り立たないのが環境色彩デザイン
図の下段は自身の専門である環境色彩デザインにおける色彩調和の方法論を明示したものです。色彩学・色彩論をベースにしつつ「環境」という二次元世界にはなかった(考慮する必要がなかった)要素が強く対象に影響し、その見え方をつくっているという認識です。

日本に限らず、今まで様々な国で色彩調査をした経験から、環境色彩においては調和の「型」は表記の3種に絞られます。学問としての色彩と、地の環境がつくってきた自然や文化、建築・構造物の成り立ち。この両方を融合させるのが、環境色彩デザインという分野です。

…とはいえ。この図にはゲーテの色彩論や表色系のことが盛り込まれていません。これをうまくまとめることができたら、現代色彩学の新しい方向性を導きだせるかも知れない…等と、やや妄想が膨らみ始めたところです。

線を引いては消し、を繰り返しながら。今後も益々、建築・土木設計を学ぶ学生が色彩に興味を持ってもらえるような取り組みを続けて行きたいと考えています。

2015年1月5日月曜日

日本のスタンダードカラー

新年あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。

早速ですが、年始に鎌倉市で見かけた仮囲いを見て、改めて日本にも「YR系というスタンダードカラー」が浸透しつつあることを感じましたので、写真と共に。

八幡宮へ続く若宮大路、段葛整備中です。石積みの補強や老朽化した桜の植え替え等が進められるとのこと。
15時過ぎでしたし、iPhoneしか持っていなかったので、写真が暗めですが…。これは恐らく10YR(イエローレッド)系でしょう。防護柵等に推奨されている景観配慮色よりもやや彩度がありますが(恐らく3程度)、歩行者空間に圧迫感を与えないよう、また周辺の街並みから突出し過ぎないよう配慮がなされていると感じました。

通常の仮囲い用パネルは白色で、近年は光触媒によるセルフクリーニング機能を持ったものが多く使用されています。明るくフラットで汚れにくいパネルは清潔感があり、工事中の雑多な雰囲気を払拭する効果や、様々な広告媒体の下地としての役割も担っています。

しかしながら、やはり鎌倉のような歴史を生かした観光地や自然景観との関係性が強い環境の中では人工的な高明度は対比が強く、過剰に目立ちすぎてしまうでしょう。
「目立たせる必要があるか・ないか」、あるいは「出来るだけ控えめに」という配慮や工夫がこうして一般的になってきたことを、新年早々に嬉しく感じました。

このblogでは何度も書いていますが、景観配慮色に対する拒絶反応(何でも茶系だと暗い、つまらない、創造性に欠ける、思考停止になる…)が多々あることを承知の上で、それでも尚、公共空間にはスタンダードカラーがあるべきですし、もっと浸透していくと良いなと考えています。

例えばイギリスのブリティッシュ・グリーン。やや暗めの緑、という幅の中で、様々なアイテムに展開されていますが、このスタンダートカラー(イギリスの場合はナショナルカラーと呼ばれていますが)があるからこそ、ロンドン市内を走る真っ赤な二階建てバスの色が印象的に見える、という関係性が保たれているのではないでしょうか。

21世紀初頭のスローガン。ダグラス・クープランド(小説家)の作品。21_21で開催中の「活動のデザイン」展より。
「混沌と自由を混同するなんてみっともない」。21_21 DESIGN SIGHTで開催中の活動のデザイン展で最も印象的だった作品です。「人間と消費とテクノロジーの関係性は常に、希望と混迷に満ちている」ゆえ、こうした至極シンプルな言葉が世代や領域を問わず、私たちのこころに突き刺さるのだ、という解説がありました。

自由さ、豊かな創造性、時にハッとさせられる色。こうした生き生きとした変化が感じられるために、スタンダードカラーは無くてはならないものだと思います。

万能な色を使いこなすこと、個性のある色を生かすこと。

どちらか一方、極論ではなく。どちらも大切にしながら、今年も環境色彩のあれこれについて綴って参りますので、どうぞ宜しくお付き合い下さいますよう、お願い致します。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂