2017年9月27日水曜日

色彩計画において、複数案を提示する理由

長く色彩計画に携わってきた中で、よく尋ねられたり要望されたりすることの多いこととして、「デザインなのになぜ幾つもの案を出すのか」「今回時間も予算も少ないから、1案だけでやって欲しい」等のことがあります。

私自身は、学生時代から今の会社でアルバイトをしていたので、実はさほどそのことを疑問に思ったことはありませんでした。確かに常にベストだと考える計画案を提示していますが、それはあくまで考え方(或いは方向性)であり、色彩は「絶対に」この色でなければならないということは考えにくいためです。

建築や土木の設計と大きく異なる部分はそこだと考えていて、例えば建築でどういう構造で・どういう設計にするかによっては、人の生命に係わる場合もあります。その判断を専門家以外に委ねるということはあり得ず、高度な技術や知識を必要とする専門的な業務だからこそ、資格を持った建築士や設計者が検証と選択・決定を重ねていくのだ、ということが言えるでしょう。

私はその点、むしろ色彩の「大らかさ」を利点と考えている部分があります。例えば同じ仕様(条件)の場合、塗装色を変えても機能やコストには(建築の構造や意匠ほどには)殆ど影響がありません。色彩の「バリエーションがつくりやすい」、という特性を生かし、検討や成果の検証に地域の方々を巻き込むことで、その後の「まちや人の育成」に係わっていくことができないだろうか、ということは私達が長く取り組んできたテーマのひとつです。

先日、CLIMATが改修計画に携わっている東京都下の団地でのイベントで、色彩計画案の人気投票をやってくれないかという依頼を受けました。今まで自治会や組合単位での説明会などの経験はありましたが、広く地域の方々にというのは初めての経験でしたので、パネルの構成や解説など色々な工夫を凝らし、先週末、実施に至りました。

2日目の日曜日には多くのご家族が投票に参加して下さいました。
“投票所”はランドスケープ事務所、stgk の熊谷玄さんが作成したワゴンをお借りして。
屋根のイエローに合わせ、投票シールもイエローでコーディネートしました。
今回初めて挑戦した、チョークボード。
スタッフ小林が眠っていた?才能を発揮してくれました。
お祭りではダンスやパフォーマンス等、盛りだくさんのプログラムが。
ケヤキの精とヒツジと子供たちが、大きなケヤキの下で輪になって踊る一幕も。
依頼主である分譲団地の自治会としては、投票で最終案を決めるわけではないけれど、実施が迫り、住民同士の意見も多様にある中で、ここはひとつ団地の住民以外の方にも意見を聞いてみよう、という趣旨でした。

提案を作成した私達としては、最終的にどの案が選ばれても「環境として成り立つ」考え方を提示していますので、どの案がというよりも「この案だと団地のこういう特性が強化される」とか、「この案だと長く見慣れてきた環境に近いので、違和感は最も少ない(でもちょっと物足りないかも知れない…)。」等の差違を見極めています。

案毎に異なるのは「最も強調(継承、育成)したい点のベクトル」であり、優劣の差ではありません。その観点を意識しながら解説をしていくと、多くの方が「どの案が良いか・好きか」という直感的な視点から「こういう見え方は今より変化があって良いかも」や「今までよりだいぶ落ち着いていて、緑が映えそう」等の意見に変化して行きました(もちろん、印象だけで判断される方や、お一方だけ「今のままが良い」という方もいらっしゃいました)。

今回の計画は分譲団地ですから、最終的には「専門家が決めた・良いと言ったから」ではなく「自分たちが長く暮らし、これからは若い人たちにも入居して欲しい、だからこういう刷新性を(或いは継続性を)選択した」と言えることが望ましいのではないか、と考えています。

本件は施工業者が決まり、間もなく改修に向けての準備が始まるそうです。来年の新緑の頃には、新しい団地が誕生するそうですよ、という一言に、地域の多くの方々が期待を持ち、どのような景色が「よりふさわしいか」と評価をして下さった結果が、実施計画案の決定に繋がるのか…。楽しみに待ちたいと思います。
(もちろん、決定案の現場監理はしっかり行います。)

自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂