2015年11月27日金曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑯-公共設備の色について

今年も残すところ一か月あまりとなりました。焦りますね。後半はちょっとペースダウンしてしまいましたが、引き続きこのシリーズについては広く・深く…と、強化していきたいと考えています。

今回は学生に向けて、というよりも行政の担当者向けかも知れません。
(でももちろん、学生にも是非読んで欲しい内容です。)

さて。日々、色彩に関する様々な問い合わせ・相談があります。
たいていは部分的なもので「…ここの手摺の色は何色が良いでしょう?」とか「…ここにフェンスを新設するのですが何色が良いでしょう?」などが最も多く、都度周辺の計画図面や写真などを頼りに(時間があって近場の場合は現場に行くことも)、諸々の他の要素と「調和の取れる」色(・素材)を推奨しています。

調和の取れる、というと「=同調させる」ことと思われるかも知れませんが、そのような場合以外にも素材色の4色からしか選定することができない場合などは、むしろ少し対比的な色を選んで「調和を図る=緩急のバランスを整える」場合もあります。

最近では「公共設備のガイドラインをつくる予定なのですが、例えば歩道橋の色はどう考えれば良いでしょうか?」という相談がありました。

10B 7.0/6.0程度の色がよく見かける青系です
国が管理する歩道橋は、写真のような青系が基本となっています。さらに歩道橋、で画像検索をかけると青系以外にも実に様々な色が見られることがわかります。
「歩道橋」で画像検索した結果 ©Google
多くの人にとってはすっかり見慣れた・まちの景色の一部にもなっていると思いますが、特に都心部の場合、周辺のまちなみが10年ほどの間に大きく様変わりしていることや、街路の並木が四季折々変化することなどを考慮すると、もう少し「周辺のまちなみに合う」色(色相)もあるように感じます。

公共設備の色に関しては、資料等がデジタル化される以前の決定事由が不明になっている例が多く、管理の担当部署・担当者が「なぜこの色なのか?」という問いに対し明確な根拠や理由を示すことができない場合も多くあります。

慣例的に継承されているので、変更するとなるとそれを変えるに相応な根拠・理由が必要となるでしょう。例えば「色を変えてもし何か問題が起こったら」という責任問題になる可能性を指摘されると、その点も考慮しておかなければならないという公共設備特有の側面が考えられます。(※色を容易に変えられない、こちらが思いも寄らないような理由が世の中には存在するのです。)

話を戻して。歩道橋の色に関する指針は、概ね以下のように整理できるのではないかと考えています。先の相談にもそのように回答しました。

●国内で既に展開されている公共設備の指針・ガイドラインなどを参考にする。

静岡県の公共事業における景観配慮の指針(P38・歩道橋)
宇都宮市・道路付属物等の色彩計画
板橋区ガイドライン
●上記指針やガイドラインなどに基づく先行事例を収集、確認と検証を行う。

高崎市の施工事例

横須賀市の施工事例

●理想はその都度、周辺環境などの調査を行い個別に色彩検討・選定することだが、担当者が数年ごとに変わる行政間ではそのシステムの持続性に無理がある。そのため、基本色(推奨色)は選定しておき、適正な検証・検討に基づく担当者の判断、あるいは地元要望(長く親しまれてきた地域のシンボルとなっている色など)などに基づく判断の余地を残すようにしておく。

ということを基本に、検証・検討を行うことができるのではないでしょうか。

そもそも歩道橋はなるべく撤去した方がいい・設計(デザイン)がよくない…等々の課題があることも重々理解しています。ただ現況では、横断歩道の新設が大変難しいことや撤去についても地域住民の合意など、一筋縄ではいかないという事情もあります。

公共設備は定期的に点検を行い、補修・補強工事に合わせ塗装をやり直す機会が必ず巡ってきます。そのタイミングは例えば23区内にある200を超える歩道橋(※)毎に異なるでしょうから、事前に「まちなみの変化や成熟度に合わせ、より歩行空間としてふさわしい」歩道橋(公共設備)の色の方針を決めておく、ということが求められるようになったのだと思います。

公共設備にはそもそもの目的・機能があり、その目的・機能とはそぐわない色や図柄が展開されてきた時期がありました。担当者が思う存分「創意工夫」をしてきた結果、目的・機能にそぐわないモノがまちなみや地域の遺産として様々な評価や批評の的となってきた歴史もあります。

毎回のことになりますが、様々な公共設備の色を「私が」決めよう・決めたいとは思いません。もちろん、総合的な計画や開発の一員として参画し、計画から実施・竣工までトータルに関わることができる場合は、個別の検討を行います。ただ一方では、日々「環境の地」であるべきものの色が「慣例的にこれまでの色」で塗装されているという現状があり、このような状況に対しての最適解を出す・出せることもとても重要な仕事の一部だと考えています。

…とはいえ。社内でこのような話をしていたら「そもそも歩道橋の色に対し、一般の人は青がさわやかとか好きとか、そのくらいの話で周辺のまちなみとの関係とかでは見てないんじゃないですかね?」という意見も。…ですよねえ。

まあこれも毎回のことながら、課題は「歩道橋が」とか「防護柵が」とか個別の色やあれこれについてではなく、快適な歩行空間・屋外環境の一部として歩道橋(など)の色をどう解くか、という視点が最も重要なのではないでしょうか。

※資料:東京都統計年鑑・建設局道路管理部保全課

 地域, 道路の種類別歩道橋数, 橋長及び橋面積(平成21~25年)による

2015年9月3日木曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑮-緑色は自然に馴染むのか?問題について

今回は橋梁がテーマです。
先日、行政の方と現場に向かう途中、とある橋が見えてきたところで「これ緑系ですけど随分違和感ありますねえ」と言われ、そこからなぜこの色(・配色)が違和を感じるのか、という話になりました。
その橋はアーチ橋で、アーチ部が明るいY(黄)系、手摺と照明柱がやや鮮やかなG(緑)系でした。背景が山の緑という状況だったため、一見緑色だから背景に馴染むはずなのでは、と思われたそうです。

緑は黄と青の間にあります。ですから緑の中でも中心(ド緑・マンセル表色系の標記だと5G)的な緑と、中心から黄味に寄った緑・青味に寄った緑があります。JIS標準色票ではひとつの色相が4段階に分割されていて、G系は2.5G5G7.5G10G4色相。2.5Gの手前が10GY(黄緑系)、10Gの次が2.5BG(青緑系)となっています。
4段階だと5Gがド中心ではないのでは?と思われた方。定規のメモリを想像して頂くとわかりやすいと思います。10G0BGなので、実質的には緑の幅は0.1G9.9Gであり、中心を5としているということになります。

G系の4色相を比較してみても、単体ではあまり変化は感じられないかもしれませんが、実際の環境では周辺や背景にあるものとの「対比」により色の見え方・感じ方が決定します。
雄大な、あるいは開放的な自然景観の中に存在する人工物(ここでは橋梁)に緑系の色を選定する場合、「どの色相」がふさわしいかは周辺との関係性によってある程度、明確に方向性を決定することができる、と考えています。

その根拠を示すための模式図をつくってみました(あくまで、色の見え方を比較するための簡易な図ですので、スケールの相違等についてはご了承下さい)。
図中、右上にある色調が冒頭で紹介した橋の色合いに近いものです。黄味にも青味にも寄っていない緑(5G系)です。
これまでの経験からアーチ橋には低明度色を使用している例が少ないことから、ここでは高明度~中明度で検証をしています。彩度は比較をわかりやすくするため、低彩度と高彩度を用いています。

5G系・7.5GY・5GY系の色相と、明度彩度別の見え方を比較した模式図

 中明度・高彩度の場合(右列)、最上段の5G系が背景よりも対比的に見えることがわかると思います。中段、下段と徐々に黄味近づけていくと、同じ高彩度でも背景の山並みに色相が近い方が馴染んだ印象となっていることも認識することができます(小さな図ですので、差異がわかりやすいように、黄味を感じるGY系を用いました)。

色相(色あい)は彩度が下がるほど遠景では差異が認識しにくくなります。中列の三段は、明度6.0./彩度1.5の色相違いですが、この差異を遠景の見え方のみで分析・評価するのは困難です。

ところが、左列のように高明度・低彩度になると、中明度色よりも背景との対比が明確になるため、3段の色相の違いが感じられるようになると思います。とはいえ、これもやはり微妙な差違なので、実際の選定においては遠景・中景・近景それぞれでの比較・検証が必要です。

自然の緑は落葉樹の場合、一年を通して大きく変化しますが、一般的な日本の野山の落葉樹の場合、緑色の葉が紅葉時に青味にずれて行くことはありません。気温が下がり光合成をする力が弱まると葉緑体が分解されます。結果、クロロフィル(緑色の色素)が減少しカロテノイド(黄色の色素)だけが残ったり(イチョウの例)、クロロフィルがアントシアン(赤色の色素)に変化したり(カエデの例)して行く、という仕組みから、黄味よりの緑を選択した方が通年、背景との色相差が穏やかであると定義づけることができるのではないでしょうか。

今回はあくまで「山背景の場合、どちら寄りの緑の方が、違和感は少ないか?」ということの検証例となります。もちろん、赤系の橋梁が新緑に映える、というランドマーク的な配色がなされた事例もありますし、アーチ橋でも様々な色相が見られます。

近年、橋梁の改修に関するアドバイスを求められることが多くなってきました。関わっている事例の限りでは塗装(改修)のみという事例は無く、耐震補強の一環として手摺の変更や本体の補強に併せ、塗装をし直すというケースばかりです。

そうした場合の多くはまず「現況の色に塗り替える」という案があり、次に景観配慮色のダークブラウンかグレーベージュ、といったあたりが候補となるようです。
ここで課題となることの一つ目は、時間が経過しているため前回塗装色の記録がない場合が多い、ということ。現況の色を測るということも一策ですが、何十年も経過し退色しているということを前提にすると元の色の根拠があいまいになりがちで、「施工当時に近い色」が何となく選定される傾向が少なくありません(もちろん、選定した色でしっかりとしたフォトモンタージュ等を作成し、比較・検証を行っている事例もあります)。

課題の二つ目は、「現況の色以外」の選択肢がダークブラウンかグレーベージュという2択になりやすいこと。決して間違いではありませんが、橋梁の構造や規模によっては重く暗い印象が増長されたり、周辺の工作物と不調和な印象を与えたりしてしまう場合も少なくありません。

また過去に関わった例を挙げると、橋梁のすぐ脇に水道管橋があり、この橋の色が寒色系でした。水道管橋を塗り替える予定が当分ないとのことで、様々な視点場からの見え方を検証し、ここでは隣接する橋梁も寒色系でまとめた方が違和感は少なく、周辺の環境とも調和が形成できる、という判断をしました。

こうした色選定のためのあれこれ。実際に現地で対象を見ながら、そして現況の色の測色を行って他の候補色だとどう見えるか、という確認をしながらアドバイスを行うと、多くの方(行政の担当や工事担当)から「色を選定する根拠ってこんなに明確なんですね」と言われます。

正直なところ「私が決めた方が早いしもっと細かい調整が出来るのに…ぐぬぬ。」と思うこともあり、ここは本当にジレンマでアドバイスだけではうまく行かないことも多々あるのですが。公共施設・設備の改修においては、自身が全てに関わることは不可能、という前提のもと、選定の手法や方法論を広めて行くことの必要性を強く感じています。

ちなみに、様々なガイドラインやマニュアルといった資料はweb上でも閲覧できる良い例があります。計画の際、まず全体のフロー(流れ)を把握し手順に則って…等、そんなの当たり前じゃん、と思われるかも知れませんが。こと色彩計画においては、この基本が浸透していないなと思うことが多く、常にまず全体(計画の目的や意義・効果)を俯瞰し、都度部分で適切な決定を下していくことが重要、ということの備忘の為にも記載しておきたいと思います。

補強や補修をしながら、長寿命化を図る必要のあるインフラ設備。塗装の出番が多いこうした公共設備の色彩にもう少しだけ丁寧に検証の時間を割くことで(現地にいって・担当者数名が話し合うだけでも随分効果があるように思います)より良い地域の資産になって欲しいと思いますし、そのために役立つ資料は適宜公開して行きたいと考えています。

●公共施設における色彩検討の手引き(国土交通省中部地方整備局アドバイザー会議)
9頁の「検討の流れ」はまず手に取って頂きたい内容です。


●公共施設における色彩景観(宇都宮市色彩景観ガイドライン・第4章)
これもまず初めの頁(44)の色彩検討の流れ、が参考になると思います。色を選定するために「条件立て」をすることが重要だと考えます。


2015年8月14日金曜日

今まであったものがなくなる、ということ-京都市の屋外広告物の規制から

9月に山梨県で開催される平成27年度山梨県屋外広告物講習会の講師を務める関係もあり、大阪出張から足を延ばして京都の屋外広告物を見て来ました。

京都出身の建築家の方が「無個性なグレーのビルがただ並ぶだけでは…」と、屋外広告物撤去後の景観に絶句していらした四条通りを初め、白地に墨文字の提灯が連続する先斗町等、明らかに規制の成果が表われていると感じられました。

四条通り。正面が八坂神社方面。
四条通りの建物群を見上げながら歩いてみると、看板を撤去した「跡」を確認することができます。ここにも袖看板があったのか、ここにも屋上広告が、と確認しながら見て行くと、かなりの量の広告物が撤去されたことがわかります。

突き出し・袖看板等を撤去した後の補修跡。
古い建物が並ぶ一画は、スカイラインがバラバラで、屋上の設備などが目立ってしまっています。
屋外広告物がなくなってみると、都市部の建物群の外装色がごく低彩度の色調にまとまっていることが良くわかります。こんなに揃っていたのか、という印象すら感じられました。建築物を「はだか」にしてみると、その差はせいぜい肌の色の濃淡程度、ということになるのかも知れません。それはもちろん黄色人種だけでではなく、白人も黒人も混ざり合いつつ、「様々なはだの色」という一つの秩序のように見受けられました。

京都市が発行している「京のサイン」の市長の挨拶の部分にあるように、四条通りは祇園祭の山鉾が巡行する通りです。祭りの背景となる街並みがすっきりとしたことにより、確かに鉾の美しさ・あでやかさが一層映えることと思います。

京都市ではまた、「歩くまち・京都」という総合交通戦略が推進、促進されています。四条通りでは歩道の拡幅工事が進行中で、バスやタクシーの乗り降りがしやすく、見通しの良い歩行空間が整備されつつあります。

世界中から観光客が訪れる京都市の様々な取り組みを見てみると、屋外広告物の規制・誘導は快適な歩行空間を形成するための重要な取り組みの一つであることが良くわかります。

看板がなくなって寂しい、活気がない、あるいは建築物のスカイラインや開口部等、不連続な部分が却って目立つ、という意見もあることでしょう。私もはじめは正直、特に四条通りは低彩度色にまとまりすぎていて少し沈んで見えるような印象を受けました。

ところが少し慣れてくると自然に色(動き)のあるところに目が行くようになります。四条通りはアーケードになっていて、一階部分には様々な店舗が並んでいます。その店先のディスプレイや、浴衣姿で歩く人々など、こうした「足元の色」が大変華やかに感じられました。

下鴨神社境内で行われていた古本市。足元に、ハレの色。
何にせよ物事を単独で判断するというのは難しく、大変悩ましいものです。でも少し引いてみてみることで、歴史ある祇園祭の華やかさだったり、遠くに見える山並みの季節の移ろいが感じられることで、部分の「地としての地味さ」をよしとする、という判断基準もあって良いのではないかと考えています。
屋外広告物が抱える問題から、近代の都市が季節や時間の変化ともう少しうまく付き合っていくヒントが見えたような気がしました。

まちなかの広告物の他、いくつか好きな庭園も見て回りました。鮮やかな・濃い緑と、石の質感、量感の変化。グレイの濃淡が、自然界ではとても雄弁に感じられます。

詩仙堂の庭園。日本の素材色は淡い階調の変化、濃淡のコントラスト。
霊雲院、臥雲(がうん)の庭。
あらゆるものに逆らわないたゆたう雲、水の流れが表現されているそう。
これまで当たり前にあったものがない状態、は街並みに・私達の暮らしに何をもたらすのでしょうか?溢れる情報(=色彩)の制御は、時間の変化の速度、に影響を与えるように感じます。人の歩く速度に合わせたスケール、スピード、ボリューム。そのような丁寧なコントロールを、場所の特性ごとに行うことが重要なのではないか、と考えています。

4月に式年遷宮を終えた下鴨神社。ここの色彩環境は別世界、でした。

2015年7月7日火曜日

今いちど「茶色問題」について

自分は割としつこい性格なのかもしれない、と思い始めておりますが(スタッフに呆れられております)、今いちど「茶色問題※」について。

※勝手に命名したものです。自身の周囲には広告物や工作物を茶色にすること・したことに反対の意見をお持ちの方が多く、効果や成果の検証以前に「もうやめるべき」「思考停止だ」等と異を唱えられる事象の総称です。若干、被害妄想気味であるとは自覚しております。

先日知人が那須のコンビニの写真(看板が濃茶と白)をSNSにアップし、「(急いでいるときなど)わかりにくい!」と憤慨している様子を目にしました。

確かに濃茶に白抜きの看板は通常のそれとは異なり、派手さで人目を誘導するような刺激は全くありません。企業はこれまでCI(コーポレート・アイデンティティ)・VI(ビジュアル・アイデンティティ)を活用して企業や商品・サービスのイメージを「統一的に」展開することで認知度の向上を目指して来ました。

そしてそのための工夫を重ねている立場の方々(マーケティングチーム・デザイナー・フランチャイズのオーナー等々)にとっては、「地域の景観特性に応じて配慮せよ」と指導(あるいは助言)され、変更を余儀なくされることは恐らく苦渋の選択であるのだろう、と推測します。

下の画像は「那須 看板 茶色」 で画像検索した結果です。
看板だけをこうして取り上げてみると、確かに企業や店舗のイメージは薄れていて「赤とオレンジと緑」を目指して探そうとするとやはり見つけにくい、ということになるとは思います。

「那須 看板 茶色」で検索した結果 ©Google

もう少しあらゆる要素をフラットに整理し、「茶色だからダメ」あるいは「何でも茶色にするのはもう反対!」という議論からは抜け出したいなあ、と考えています。

そこで以下のようなダイアグラムを描いてみました。

対象の特性の分類と共に、決定の主体に合わせ「~でよい」「~でもよい」等、段階を整理してみました。

ごく簡単に分類すると

①色を選定する・決める人に経験値があり、周辺との関係性を考慮・熟考して色を選定・決定することが出来るか・否か

という点と、

②他の環境構成要素との取り合いや整合性を調整する余裕(時間・労力)があるか・ないか

という2点が「茶色(※)でよい」とするか、「しっかり検討・協議をしてその環境にふさわしい色を選定するか」の分かれ道になるのではないか、と考えます。

その他の条件として共通解・一般解としての「茶色」があり、個別解・特殊解としての「その他の色(素材)」があり、その間はグラデ―ショナルであって良いと思っています。

※茶色、というと随分幅を狭めてしまう印象です。平成26年に国土交通省が策定した「景観に配慮した防護柵等の整備ガイドライン」では10YR 6/1(グレーベージュ)、10YR 3/0.5(ダークグレー)、10YR 2/1(ダークブラウン)の3色を「推奨」しているに過ぎません。

近年、ブルーシートのブラウン版や果樹栽培等で使用するブルーの防風ネットのブラウン版の開発・普及が進められています。濃淡様々な「茶色」を総称して山梨県では「自然色(しぜんいろ)」と呼ぶことにしたそうです。

その自然色シート・ネット普及委員会の活動の様子はこちら
自然色(10YR)を地の色とする根拠の一例はこちら

下の写真は2015年3月に実施された甲州市主催のペンキ塗り、市民ボランティアによるガードレールの塗装風景です。
年度末の休日にも関わらず、100名近くの方が参加し、あっという間に予定箇所が塗り終わりました(…子供たちが飽きる前に終わって、本当にほっとしました)。

明度2や3だと暗く重い印象もあるため、甲州市では10YR 4/1を採用しました。
甲州市では車道を走行するドライバーの視点にも考慮し、車道側は白のままとすることにしました。これは市の担当の方のアイデアです。塗装した面はJR勝沼ぶどう郷駅前に拡がる、ブドウの丘沿いで良く目立つ側です。
そもそも白でなければならない理由はありませんから、このように実際の状況に応じて色を使い分けるというのはとても賢い方法だと感じています。

この部分も外側だけを10YR 4/1で塗装しました。
ということで、茶色改め、

A 自然色 が よいもの
B 自然色 でも よいもの
C 自然色 でなくても よいもの
D 積極的に新しい可能性を探求すべきもの

という、大きく4段階で状況を整理し、適宜使い分けを行うことが重要なのではないか、と考えています。
自身はこれまでの経験から自信を持って「自然色 が よいもの」と「自然色 でも よいもの」が相当数ある、と宣言することもできます。甲州市のペンキ塗りの際、多くの方が「色でこんなに印象が違うのだ」ということに気づき、これまでの白一辺倒が「緑豊かな景観の中ではいささか主張し過ぎていた」ということの発見に至りました。

外側をあっという間に塗り終わり、参加者全員で記念撮影。左上の未塗装部分との比較、いかがでしょうか?
一方、冒頭のコンビニの看板等は「自然色 でも よいもの」とされたけれど、実際には看板の大きさや設置位置を十分に考慮すれば「自然色 でなくても よいもの」に該当するのかも知れません。そこは景観法が施行されて10年、様々な事例や評価を踏まえ、加減を調整しても良い時期に来ているようにも感じています。

自身は専門家(一応)としては、そういう風当りにも耐えつつ、効果が証明されつつある活動に力を注いでいる方々を支援する立場でありたいですし、個性や賑わいがなくなる、と嘆く方々の意見にももちろん耳を傾け、折り合う地点を探し続けて行きたいと考えています。

また、個人的には「○○撲滅」というような極論ではものごとは容易には動かせないし、解決に繋げるのは難しい、と感じています。
都度状況を整理し、公平性の担保に努め、相互の利益を図り、あらゆる調整に時間をかけながら「継続」していくこと。結局のところ色の問題ひとつとっても、そうたやすい近道はないのかも知れません。

2015年6月29日月曜日

お知らせ-平成27年度 山梨県景観セミナーの講師を務めます

2015年7月30日(木)14:00より、山梨県県立文学館にて開催される「平成27年度 山梨県景観セミナー」で講師を務めます。テーマは「人がつくるまちの彩り・地域で育むまちの個性」です。

平成23年度からアドバイザーとして関わり、地域の方々が取り組んできた様々な色彩による修景等の紹介の他、色彩もまちの特徴を表す重要な要素の一つであること等も他の国や地域を例に、お話する予定です。

平日午後の開催ですが、どなたでも・無料で参加できますので、お近くの方、ぜひご参加下さい。

申し込み等詳細はこちら

チラシの写真は先日訪問したスリランカの世界遺産、ゴール旧市街です。


2015年6月23日火曜日

単色でないことの魅力-Heritance Kandalama にて

もうだいぶ時間が経ってしまいましたが。スリランカネタを少々。

4泊、ジェフェリー・バワ設計のホテルに宿泊しました。夜遅くにホテルに到着し、翌朝は8時・9時に出発というスケジュールでしたので、早起きしてホテル内外の写真を撮り…の繰り返し。そんな訳で、ホテルの写真はいずれも朝の光のもと、撮影したものです。


スタッフ一同、最も評価が高く「次回はここでのんびり滞在したい」と意見が一致したのはへリンタス・カンダラマホテルでした。バワが設計した数々のホテルの中でも唯一、内陸に造られたホテルで、元の地形を限りなく生かして建設された「森と一体化したホテル」として有名です。

背後は急峻な崖地。
最下階のEVホール。目の前まで巨大な岩が迫っています。
朝食の前に駆け足で各階を行ったり来たり。居室を出た廊下は全て開放廊下で、低めの手摺にはサルが腰かけていました。濃灰を基調としながら、黄み寄りのグリーン・白・サンドベージュ…。明暗のコントラストを生かしつつ、とても細かな色分けがなされています。

柱のラインと呼応している水平ライン。やや鮮やかな色ですが、高い位置にあるため派手さは感じませんでした。
手摺の内側のラインで切り替えられている外と内の色。
柱、壁、天井、手摺、床は全て異なる色。床だけが光沢を持っています。
カンダラマに限らず、この単色でない、という状況がいかに平穏な状態かということにとてもホッとしましたし、面でのいささか強引な塗り分けもおおらかな印象すら感じられました。とはいえ無秩序に色が施されている訳ではなく、柱には統一的に濃灰が用いられていて、そこにあるけれど意識させないように、という意図が見受けられました。

外部の明るさ・開放感が圧倒的ですから、外部と接する場所は全てがピクチャー・フレームとしての役割を担っているように感じました。眼前に広がる湖、彼方に見える山々やシーギリア・ロック等、どこを取っても風景が絵になります。

都度、立ち止まりたくなる場所が沢山ありました。
自然に馴染む緑(色)を塗装色で選択するのは難しい、ということは多くの方がご経験済みかも知れません。特に色相の見極め、彩度の見極め。色相が青みにずれると人工的な印象が強調され、彩度が高すぎてもやはり人工的な印象が強くなってしまいます。

例えばカンダラマの一部で使用されていたのは、5GY 4.0/1.5程度の色でした。彩度1.01.5程度の色は色見本帳で見ると濁りのあるグレイッシュな色調なので、単独で見ると地味すぎて濃灰と見分けがつかない、あるいは濁りのある色はどうしても「汚く」見えてしまうことから、日本では緑系・青系の彩度1.01.5程度の色を選ばれることが少ないように感じます。

黄み寄りのグリーンは一年を通して変化の少ない常緑樹の持つ色相に近似しています。木々の緑は少し距離を置くと葉と葉の重なりや影により明度・彩度ともに下がります。更に距離を置くと、空気中の水蒸気やチリ等により明度が少し高くなる、という色の見え方の特性があります。小さな単位の集積としての緑(色)に馴染ませるためには、葉の色そのものを正確に表現するよりも(例えば新緑の緑等は45程度あります)、明度・彩度をギリギリまで低めに設定した方が違和感の少ない(自然な)見え方となります。

インテリアの床はほとんど黒でした。光沢のあるコンクリートに柱や木々の陰が映り込んだり、木の葉が舞っていたり。朝方、鳥やサルの鳴き声と共に廊下を箒で掃く音も大変心地よく感じられました。雨風をしのぐということに対し、開口部の気密性を高めることで室内の快適性を向上させてきた日本。一方スリランカは、基本どこかが解放されていて、風も様々な生き物も建物内を行き来しています。

室内の暗さはいかにも強い日差しを遮るため、という印象でした。
風が心地よいことはもちろん、外部に接した環境は視覚以外の感覚がムクムクと呼び覚まされます。目覚めは木々の葉擦れと動物の鳴き声、ドアを開けると土の匂い。しばらく深呼吸を繰り替えていると、花の香りを感じ取ることもできます。年度末のあれこれを前倒ししての旅でしたので正直暑さに参ってしまったのですが、もう一週間滞在することができたら、完全にスリランカの気候に身体が順応できたのではと思っています。

早朝、まだ落ち葉が掃かれてない廊下。
翌日はシーギリア・ロックに登る、というミッションが控えていたため出発は朝8時。このプールを見て我慢しきれなくなったスタッフはわずか15分程の時間を使って、ひと泳ぎしていました。

インフィニティエッジ・プールはバワが考案したものなのだそう。
ホテルを出てシーギリアに向か途中、ガイドの方が「この対岸が先ほどのホテルですよ」と車の中から指さしてくれるのですが、位置がよくわかりません。車を停めてもらい、目を凝らすとうっすらガラスの反射が確認できました。

山並みにすっかり溶け込んでいる外観。
写真を撮影したホテルの対岸。鮮やかな赤土、緑、空の青。
細かな色分けをしている様子はもちろん遠景からは捉えられません。アイレベルにおける個々のスケール・シーンに合せた変化(分節化)と、距離を置いた時に背景の景色と一体となるかたまりとしての見せ方。建築物(単体の)のコントロールというよりは、湖や木々・山並みまでも含めたランドスケープ・デザインなのだ、という印象を強く持ちました。

個性が際立つ、ということが果たして風景の中でどういう意味を持つのか。日本のとある湖畔の景色と比較しながら、群にはやはり何等かの秩序が見出されることで、「人工物があることで自然が引き立つ」景色になるのではないか、と考えています。

個々の主張が悪い、という訳ではなく。湖畔の性格をどう考えるか、という問題。

2015年6月15日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑭-複数あるものの配色について

色彩計画を依頼される場合、個人住宅単体に対し、ということは殆どなく、戸建の場合でも建売の分譲住宅や複数棟からなる集合住宅・団地等の計画が圧倒的に多くあります。

個と群。単体の配色は考えられても、それが集合した場合となると、多くの設計者が頭を抱える様子をこれまで目の当たりにしてきました。

最も難しい点は「統一感と多様性」のバランスをどう考えるか、ということなのだと思います。

規模や形状・素材・地域の雰囲気…等々、その問いを解くためのフィルターの「目の粗さ」はプロジェクト毎に異なりますが、今回はごく簡単な・入口としての方法論を2つ紹介したいと思います。

1つめはゲシュタルト心理学の類同の要因を応用するものです。写真の2段目にあるように、例えば団地の配棟には様々なタイプがあります。大規模な団地になると、敷地内を幹線道路が貫通していたり、計画的にプレイロットや散策路が配置されているタイプも少なくありません。

こうした配棟の特性(街区ごとのまとまりや住棟の規模等)から「類似の要因」を読み取り、それを手がかりに配色を行うという方法が考えられます。

ゲシュタルト心理学・類同の要因

上の図、A~Cは類同の要因の解説です。AとBは同じ形状・間隔で帯を並べていますが、Bは一部の配色に変化を付け、2本ずつ黒を配しました。
この場合「いくつかの刺激がある時、同類のものがまとまりやすい」というゲシュタルトの特性から、黒色の帯2本が1つのまとまりとして認識されやすくなります。

Cはその傾向に添って、色同士のまとまりに従い、それぞれ距離を近づけることによりグルーピングを強化してみたものです。配置と色が合致することにより、まとまった印象がより強化されることがわかると思います。

Google(C)  「団地 配置図」で検索した結果

Dはそのまとまった印象が形成されやすいという特性を用いて、グルーピングしたまとまりの中で更に色を使い分けてみた例です。Googleで検索した団地の配置図を見てわかるように、住棟数が多い団地を全て1色ないし2色で分ける、ということはまとまった印象をつくることは可能ですが、アイレベル(近景)での変化に乏しく、単調な印象になる恐れがあります。

『住棟の形態や配置に何らかのまとまりが見い出すことができれば、類似の範囲内で異なる配色を展開してもそのまとまりは崩れない。』これが1つ目の考え方です。ちなみにこの図の場合は暖色系のYR(イエローレッド)系とY(イエロー)系の濃淡4色を用いています。

実際、高齢化の進む団地等からは「どの棟も同じ色だと自分が住む住棟がわかりにくい」といった声も聞こえてきます。全体の統一感を担保しつつ、中景・近景レベルで認識される変化をつくっていく。形態が近似している団地の改修では、こうした要望が多く出されます。

2つ目は配置が均質で変化が少ない(グルーピングがしにくい)場合。郊外の建売分譲住宅等、近年は様々な工夫がなされ、単調な印象が和らいだように見受けられるものの、災害公営住宅等、緊急を要しかつ「公平性のために均等であること」が前提となる計画では、単調な配置になってしまうことが否めません。

その点に関してもいくつか相談を受けたり、整備のためのガイドライン等に協力したりということはあるのですが、やはり最終的に「決める」あるいは「選ぶ」際に、有効な手法が展開されることが望ましい、と考えています。

数学の4色問題(定理)に習うと、いかなる地図も隣接する領域が異なる色になるようにするには、4色(パターン)あれば十分である、ということになります。

最低4色で隣同士・正対面同士を同色にせず、多様性をつくることが可能

この考え方(配棟配色)は私達もこれまで数多くのプロジェクトで実践して来ました。4色を同一色相にし濃淡だけで変化をつくる、あるいは4つの色相でトーン(色の調子)を揃え、色味の違いで変化を出す。いずれも4色(パターン)を設定する時に色彩調和(何がしかの要素を揃える)を意識しておけば、全体の統一感を保ちながら、適度な変化をつくることが可能です。

特に単調な配置の場合、濃淡に変化をつけると奥行き感(濃色が後退し、淡色が進出しやすい、という特性から)が生まれ、単調な印象の緩和に役立つ、という効果が期待できます。

こういうアースカラーは嫌だとか、はさておき。
例えば全てを白で統一し全体をフラットに扱う、あるいは統一することで1つのまちのような印象をつくる、といった手法もあることでしょう。しかしながら、先に述べたように特に古い団地の場合は住棟の形状に変化が少ない場合が多く、全てが同色だと空間の特性が把握しづらい(=全てが地になりすぎてしまう)という懸念があります。

4色(パターン)の組み合わせすら、無限です。対象の規模や形態、周辺の環境、周辺からの見え方…。実際には様々な検証を行い、使用色を絞り込んで行きますが、まずは2つの方法論を理解して頂ければ、と思う次第です。

2015年5月11日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑬-色の抽出・選定は何に因るか

近年(この3年くらい)、仕事の依頼や提案の仕方について、頭を悩ませている事案が2つあります。
1つ目は「他の設計事務所が色彩計画案を出してきたが、良くなかったので改めてCLIMATに頼みたい」という依頼が増えていること。これは結果的に仕事が来ているのだから良い、という側面ももちろんありますが、工期との関係で色彩以外の要素を検討する時間が大幅に削られ、総合的な調整が十分にできないという課題が生じています。

2つ目はその良くない案を(参考までに)見せてもらうと、検討のプロセスのほとんどが私達の使っている方法論であること、時にはプレゼン資料のフォーマットまでそっくり真似されている場合が少なくないことです。

私達(CLIMAT)は常々、環境色彩という「周辺環境や地域性、対象物同士の関係性の構築」をテーマとした色彩設計を行っています。それは「より良い環境の形成」を目指すことが基本なので、そのための方法論はどんどん広がって欲しいと考えていますし、応用しやすいようブラッシュアップを重ねながら、広く公開もしています。

例えば昨年まとめた「自然界の色彩構造10の原理(仮)」などは、建築・土木設計のみならず、一般の商店主や個人の住宅の改修等にも応用できるように構成したものです。

悩ましいのは、方法論を真似ているにも関わらず、そこから抽出されている色があまりに唐突であったり、あるいは立地や規模を無視してただひたすら真っ白であったり、複数の建物が全て同一色であったり…。あらゆる検証が「証明の結果」になっていないことです。ゆえにクライアントからの評価が「良くない」とされているという現状があります。

方法論はあくまで抽出・選定までの段階的な検証のプロセスであり、方法論をなぞるだけで明確・正確な答え(この色にすべし)を導けるわけではありません。

ところが一般には色が持つ様々な特性が先に立ち、わかりやすい方法論が好まれる傾向にあり、実際にそれを応用した色彩計画も未だに多く見られることも事実です。

「わかりやすい」とされる色選定の方法論
●色の持つイメージを対象物との関係性を無視して多用すること
 例:海辺のまちだから、爽やかなブルー/やさしい印象にしたいから、ピンク…等
●色見本として、建材とは関係の無いものを抽出のモチーフとすること
 例:伝統的な藍染の藍/フランスパンのようなおいしそうな色…等
●地域のシンボルカラーを転用すること
 例:地元サッカーチームのテーマカラーだから赤、サクラやフジ等、草花の色…等

特に建築よりも土木工作物(橋梁やストリートファニチャー等)でこうしたわかりやすい(とされる)色使いが多く見られた時期があります。近年ではそうした安易な決め方は長持ちしない(飽きられやすい)ことへの理解や景観の観点から問題視される機会も増え、あまりに突飛な事例は少なくなりつつありますが、特に建築の場合はその反動というべきか(或は失敗したくないという懸念から?)、やや極端に白へと向かう傾向にあるように感じています。

実際「単体ならまだしも、複数の住棟を全て真っ白という計画は如何なものか」という相談は多く、地域の特性や周辺環境との関係性のみならず、1520年周期とされる塗装の経年変化等も考慮すると複数の住棟すべてが白では「持たない」という懸念が生じるのは無理のないことだと感じます。
(※ここでは公営住宅等の塗装仕上げを前提として話をしているので、金属やコンクリート等の素材色で外装が構成される場合はまた考え方は異なります。念のため。)

一方、とはいえわかりやすく間違いがないという方法論も広まるためには最低限のラインとして必要性があることも理解しています。そのために「とりあえず10YR」や「鮮やかな色の使い方」などにも言及しています。

私達は周辺の環境の調査(=地域が持つ色の客観的な数値化)等により、行けるところまでは理詰めで行く、ということを意識しています。例えば大規模団地の改修において、数学の証明問題のように「板状住宅の密集における北側の暗さを解消する効果持つ配色を示せ」という課題がありました。この命題に対し私達は「濃淡の対比を強め、濃色と淡色の組み合わせにより淡色をより明るい印象に見せる」という解を導きだしました。

これは色彩の同時対比という現象で「証明」することができます。明るさは周辺環境や光の加減を含め相対的に決定づけられるものであり、対象物の明度を一律に上げても決して継続的に明るい「印象」をつくりだすことはできないということの「科学的な根拠」を示しています。

方法論は応用してもらって構わないと豪語(?)しておりますので、参考までにこの事例の使用色を記載しておきます。

北側
南側
●基調色1(南・北面) N8.0(淡・全棟共通) 10YR 3.0/2.0(濃色・2色相を一つの街区で使い分け)
●基調色2(妻面)10YR 5.5/1.0(濃色と色相を合わせている)
●階段・バルコニー軒裏 N9.3(全棟共通)

特に注目して頂きたいのは淡色の明度。明度8.0程度なので、さほど純度の高い白ではありません。ちなみに建築家が好むのは明度9.5、紙のような白なのだとか。日差しや周辺の木々、刻々と変化する空の色等との対比・調和を考慮しつ、フラットな壁面の汚れを多少なりとも吸収できるのはどちらの白でしょうか。

また、住棟の間に階段室が配されています。箱型の住棟の妻壁面が狭い間隔で向き合う部分には、明度5.5程度の中明度色を南・北面の濃淡に関わらず、共通に配しました。この部分は単色で構成される空間なので、少ない光(昼間は外光、夜間は照明)の状況に応じ、極端に明るかったり暗かったりすることのないよう、時間の変化(光の変化)による印象の違いが生じにくいようにコントロールしています。

ただ単に色が持つ印象や雰囲気(住宅だから温かみのある色で…等々)、あるいは「とにかくより白く、存在を消すように」等という選定の仕方は、私達からすると非科学的な選定方法だという印象を持ちます(もちろんそれが絶対にあり得ない、という訳ではありません)。

この色・組み合わせが規模や形態との呼応により「どのような効果を生み出すか」。それを検証するのは意外に容易いことだと考えています。色彩の対比・同化・調和(と、それに与える色彩の心理的(視覚)効果)を整理して把握することができさえすれば良いのです。

ご興味の在ります方、セミナー・レクチャー等の依頼歓迎致します。
ぜひお声かけ下さい。(これぞ #スムーズな宣伝) 

2015年4月13日月曜日

スリランカの白について

年度末のあれこれをぶっちぎり(関係者の皆様、色々とご迷惑をお掛けいたしまして本当に申し訳ありませんでした)、スリランカに行ってきました。
忘れないうちに、と思いつつ早くも一週間が経過してしまいました。

まずは日頃から気になっている、白についてのあれこれ。

学校の制服は白。
カラフルな街並みの中で、白い制服を着た生徒さんを沢山見かけました。赤い大地や強い日差しと褐色の肌色に映え、白が一層軽やかに見えました。スリランカにおける白は仏教徒の儀礼の中で伝統的に、象徴色として扱われてきた側面があるようです。
冠婚葬祭に使えるように、ということで制服に白が用いられているのだとか。

世界遺産、ゴール旧市街で見かけた白い壁。
海外に出かけると日差しが色の見え方の質を決めている、と感じます。白い外装は日本で見ると儚げでどこか頼りないような印象を受けることが多いのですが、日差しの強い地域では強烈な光を受け止める強靭さ、塗膜のテクスチャー等よりも分厚い壁そのものが前面に出てきているように感じます。

旧ゴール市街で見かけたレストラン。…左も十分白いと思いますが、右の色に改装中でした。
4泊目に宿泊したJetwing Lighthouse。回廊の柱の色が、対面する白い柱に映り込んでいました。
回廊の全景。
4泊、全てジェフェリー・バワ氏設計のホテルに宿泊しましたが、鮮やかな彩色とおおらかな空間構成が大変印象的で、どのホテルもとても個性的でした。各所の色彩が印象的な分、白い壁の効果(単なる余白ではなく)や周辺の環境や色との対峙がよく(しっかりと)見える点が大変興味深く、奥行きがあって飽きの来ない白だと感じました。
(…決して日本の白が単調で奥行きが無い、と言いたいわけではありません。)

Jetwing Lighthouseは比較的初期の作品とのことで、今回宿泊した4つのホテルや他施設の中では最もカラフルでカジュアルな雰囲気でした。同じ水辺のホテルでも初日に宿泊したJetwing Lagoonはかなりシックな雰囲気でしたし、外観・共用部のみならずスイートルームまで見学することができたAVANI BENTOTAは赤と紫がテーマカラーとなっていて、明確な基調色の存在とそれを引き立てる素材やアクセントカラーの使い方は日本でも様々に応用することができると考えています。

同ホテルのプライベートビーチ。
波に洗われた白。
一口に白、といっても様々な状態・現象があります。あらゆる喧噪や情報、環境からさえも逃れるための白ではなく、他の色やマテリアルを生かす・引き立てる、更に対峙して色味をまとう白…。
果たしてスリランカの白に力強さを感じるのは日差しのせいだけなのか。引き続き、様々な検証を続けて行きたいと思います。

市内を走るトゥクトゥクは総じてカラフルでしたが、旧ゴール市街では白バージョンも見かけました。
犬は皆痩せていて、暑さでバテバテのご様子でした。





自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂