2014年7月15日火曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑪-鮮やかな色の使い方

普段気になった色の見え方を撮りためていますが、最近改めて環境色彩が信用している「鮮やかな色の使い方」は「動くか、動かないか」という判断基準の中に光明が読み取れると感じています。

面積、材質、仕上、形態、そして場との関係性。検証のためのフィルターは幾重にも重なり、経験を重ねるほどに複雑になっていく部分もあります。

この「建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学」では、出来るだけ小難しいことをすっ飛ばして(経験に基づくあれこれの方法論は宿ってはいますが)、読んだ方が「ふーん試してみようかなあ」という、色を知るため・興味を持つきっかけになればと思って書いています。なので今回も「鮮やかな色は動くものに」という1つの法則を掲げ、それがいかに場に彩りを与え、かつさほど違和感がないものであるかということを示してみたいと思います。

色はこうして人の目を誘うのだな、と感じます。
写真がうまく撮れませんでしたが…。思わずやきそばが食べたくなる赤。富岡にて。
自然景観の中の寒色系は定位しない面色(film color)。人工物の色の面積がこれくらいでも、十分瑞々しさがあります。
動く・動かない、という基準は以前に「誘目性のヒエラルキー」という項目でまとめています。自然界の色彩構造を手本にし、「鮮やかな色は動く小さなもの(命あるもの)が持ち、不動の大面積を占める色(土や石、樹木の幹など)がそれらの変化を支えている」という色の見え方を構造化したものです。

自然の色の美しさに限らず、色は単体の良し悪しではなく「どう見えているか」という関係性の問題です。鮮やかな花が印象的に見えるとき、背景や周囲との「対比の度合い」で見え方が決まります。もちろん、距離を置けば光の加減や湿度等も影響してきます。

この法則が当てはまるな、と思う例をいくつか挙げてみました。「全体の中で小さな・動くものが(過剰になりすぎずに)人目を誘う」ということが言えるのではないかと、これはかなり自信を持ってそう考えています。 
こういう場合は、何色でも違和感なく受け入れられそうな気がしませんか?

「命ある・動くものが鮮やかな色を持つ」という自然界の構造は、風景を眺めると良く理解できます。
建築・土木設計にこれをどう当てはめるのか?と思ったそこのあなた。さすがです。これは言い換えると「動かない・大きな面積を持つものには鮮やかな色は向かない」という法則にもなります。

もちろんその可能性(大きな面積に鮮やかな色を用いる)がない、とは言いません。ところが建築家はすぐ「海外だともっと自由で、様々な色がある」と奇抜な、あるいは文化の異なる国の例を次々と挙げてきます。「日本では景観法の規制によって自由に色が使えない」とも

それもある一面では、正しいことだと思います。
でも、建築外装における鮮やかな色の出現の可能性や質は本当にピンキリで、長年キリの部分(大型家電量販店やロードサイド沿いの飲食店等)が地域の個性や本来の景色を奪ってきた、という側面もあります。

私は地域の特性に即したある程度の制御は必要だと考えています。鮮やかな色の見え方が自然界と同様、背景や周辺との関係性で「決まる」とすると、まずは周囲が整うこと、も今後の可能性を拡げる方法になり得るかも知れません。

でもまあ、とりあえず色を使ってみたいと思ったら「小さな・動くものに」という法則。駄目だ…と思ったら動かせば良いのですから。一度は試してみる価値があると思っています。

動くもの、小さな部位。色の「使いどころ」を設計の中で探していくだけでも、とても良い訓練になると思います。私達(CLIMAT)もそうした検証を重ねて、最終的に「ないな…」ということに行きつくことが多々、あるのですから。


2014年7月1日火曜日

アーティストがつくりだす空間における視覚的な楽しみ

去る6月27日(金)、本日7月1日(火)にリニューアルオープンした港区立麻布図書館を内覧させて頂く機会を得た。以前から交流のあるアーティストの流麻二果氏がアートワークを手掛けたとのことで、案内を頂いたのだ。

最上階の作品。油彩特有の艶が作品を生き生きとさせている。
アーティストの「なま」の作品を公共施設に設置する、ということに対する関係者の多大な労力や尽力は想像に難くなく、特に幼児や児童が出入りする図書館ともなれば、管理者側の懸念や条件等、一つ一つクリアするには大変な苦労があったことと推測する。とにかくそうした高いハードルを越え、アーティストの作品が空間と共に出現したことに敬意を表すると共に、長く多くの人に愛着を持って親しまれる環境となることに大きな期待を感じている。

流氏の活動の一つに「一時画伯」という非営利団体での取り組みがある。一時画伯は第一線で活躍するアーティストが、美術に触れることの少ない人々、とりわけ子供たちにアートを届けることを目的とした団体である。

あらゆるモノの成り立ちが見えにくくなっている昨今、「なま」の画が持つ作家の筆圧、画材のきめ細かなテクスチャー、光沢の有無など、圧倒的なリアルに目が触れたとき、私たちのこころはかすかに・何かに揺さぶられる。それは決して激しい感情ではないが、最近「なま」の作品を見ていると、何よりも私達の目がそうした微細な変化を求めているのではないかと感じることがある。

緩やかなカーブを描く壁面いっぱいに展開されたエントランスホールの作品。「重なる」
図書館内の色彩空間はメインとなる一階エントランスホールの壁画の他、大きく3つの要素から成り立っている。
書庫や閲覧テーブル・椅子のある各階は本の種類ごとに分類され、下階から上階へ行くに従い大人向けの内容となっている。色調の変化もそれに連動し、春(こども)~冬(壮年期)へと移り変わっていく。この内装の一部に埋め込まれた油彩と壁面のアクセントカラーとの調和が、最も印象的に空間を支配している。

次に目に留まるのは、エレベーターホール周り。扉とその周囲の壁がフロアごとのテーマカラーで彩られ、操作ボタン周りのサイン表示とも色が連動している。壁紙やシート等の人工的な色合いが大胆に用いられ、表示と連動することにより識別性を高めている。様々な世代が利用する公共施設ならではのサインのわかり易さという点では、情報は最小限にまとめられ、色の印象が補助的な役割を担っている。

3つめは各階をつなぐ階段室周り。手摺壁の内側のパネル部分に、半透明のカッティングシートが施され、動きに合せて様々な重なりを見せている。色そのものではなく透ける・重なるという現象が設えられた空間は、例えば内覧会時は雨模様だったが、そうした天候の変化、あるいは季節の変化を写し取ったような繊細で奥深い変化がつくり出されている。

階段手摺壁の色の重なり
これら各所に展開された色の重なりは、数少ない色を組み合わせることにより様々な事象を表していたかつての日本文化、重ねの色目がテーマとなっている。人の動きに合わせ、見る位置、眺める角度によって様々な組み合わせが目に入るが、都度発見があるような奥行きのある構成が考え抜かれている。

各所の空間構成にはテーマに添ったカラーが展開され、空間毎のまとまりや部材の形状に合わせた色遣いは、色彩設計の王道とも言える手法であり、見事な色彩調和が成されている。その中でもアーティストである流氏の力量・感性が最も発揮されているのは、やや重厚さのある氏の油彩とそれを取り巻く階ごとのテーマカラーのバランスではないかと感じた。色を使っていながら、それらは環境の地としても機能している。

4階の作品。柱を取り囲む、景色のようなアート。
色を組み合わせるということの効果や妙味はここにあると思うのだが、空間を支配する・支配されるというギリギリのところが、各階のフロア構成に合せてとてもうまく取りまとめてられている。
中でも4階の色彩調和は、木製の家具の色とのなじみもあって、強い対比でありながらとても心地の良い温かみのある空間となっており、空間に色を使う際の良い手本となる環境なのではないかと感じた。

各階の油彩とクロス・カーペットの組み合わせ、エレベーターホール周りのクロスやシート、サインのアクリル等との組み合わせ、階段室のスチール手摺と半透明のシートとの組み合わせ等、マテリアル・色彩共に実に要素が多く、各所で様々な色の対比と同化が繰り返されている。
正直、個人の感想としては個々の空間(場)での色彩調和には全く違和感はないものの、この3つのバランスが完璧なものだとは言い難い。全体のコンセプトも筋が通っているが、そのコンセプトに忠実であろうとするあまり、空間(場)とのバランスが危うくなっている箇所も見られた。

一方、所々に様々な要素が展開されていることで、それぞれが競い合うように色の効果を発揮していることには大きな可能性を感じた。例えば抽象化のためにあらゆる要素を排除し、白くしていくことと比較すると、その方がはるかに容易く感じるほどである(もちろん実際にはすべてを白くすることも難儀ではあるが。)

最後に話を伺った建築設計者も「色を使うことは本当に難しい」と言っておられた。抽象化すること・色を使いこなすこと、どちらも共に難しいのであれば、こうして色を扱うプロであるアーティストの力を借りて、困難な空間構成にチャレンジすることに賭けてみる価値があるのではないだろうか。

本プロジェクトでは空間がもたらす視覚的な楽しみが、アーティストと建築家の協働によって具現化されている。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂