2015年11月27日金曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学⑯-公共設備の色について

今年も残すところ一か月あまりとなりました。焦りますね。後半はちょっとペースダウンしてしまいましたが、引き続きこのシリーズについては広く・深く…と、強化していきたいと考えています。

今回は学生に向けて、というよりも行政の担当者向けかも知れません。
(でももちろん、学生にも是非読んで欲しい内容です。)

さて。日々、色彩に関する様々な問い合わせ・相談があります。
たいていは部分的なもので「…ここの手摺の色は何色が良いでしょう?」とか「…ここにフェンスを新設するのですが何色が良いでしょう?」などが最も多く、都度周辺の計画図面や写真などを頼りに(時間があって近場の場合は現場に行くことも)、諸々の他の要素と「調和の取れる」色(・素材)を推奨しています。

調和の取れる、というと「=同調させる」ことと思われるかも知れませんが、そのような場合以外にも素材色の4色からしか選定することができない場合などは、むしろ少し対比的な色を選んで「調和を図る=緩急のバランスを整える」場合もあります。

最近では「公共設備のガイドラインをつくる予定なのですが、例えば歩道橋の色はどう考えれば良いでしょうか?」という相談がありました。

10B 7.0/6.0程度の色がよく見かける青系です
国が管理する歩道橋は、写真のような青系が基本となっています。さらに歩道橋、で画像検索をかけると青系以外にも実に様々な色が見られることがわかります。
「歩道橋」で画像検索した結果 ©Google
多くの人にとってはすっかり見慣れた・まちの景色の一部にもなっていると思いますが、特に都心部の場合、周辺のまちなみが10年ほどの間に大きく様変わりしていることや、街路の並木が四季折々変化することなどを考慮すると、もう少し「周辺のまちなみに合う」色(色相)もあるように感じます。

公共設備の色に関しては、資料等がデジタル化される以前の決定事由が不明になっている例が多く、管理の担当部署・担当者が「なぜこの色なのか?」という問いに対し明確な根拠や理由を示すことができない場合も多くあります。

慣例的に継承されているので、変更するとなるとそれを変えるに相応な根拠・理由が必要となるでしょう。例えば「色を変えてもし何か問題が起こったら」という責任問題になる可能性を指摘されると、その点も考慮しておかなければならないという公共設備特有の側面が考えられます。(※色を容易に変えられない、こちらが思いも寄らないような理由が世の中には存在するのです。)

話を戻して。歩道橋の色に関する指針は、概ね以下のように整理できるのではないかと考えています。先の相談にもそのように回答しました。

●国内で既に展開されている公共設備の指針・ガイドラインなどを参考にする。

静岡県の公共事業における景観配慮の指針(P38・歩道橋)
宇都宮市・道路付属物等の色彩計画
板橋区ガイドライン
●上記指針やガイドラインなどに基づく先行事例を収集、確認と検証を行う。

高崎市の施工事例

横須賀市の施工事例

●理想はその都度、周辺環境などの調査を行い個別に色彩検討・選定することだが、担当者が数年ごとに変わる行政間ではそのシステムの持続性に無理がある。そのため、基本色(推奨色)は選定しておき、適正な検証・検討に基づく担当者の判断、あるいは地元要望(長く親しまれてきた地域のシンボルとなっている色など)などに基づく判断の余地を残すようにしておく。

ということを基本に、検証・検討を行うことができるのではないでしょうか。

そもそも歩道橋はなるべく撤去した方がいい・設計(デザイン)がよくない…等々の課題があることも重々理解しています。ただ現況では、横断歩道の新設が大変難しいことや撤去についても地域住民の合意など、一筋縄ではいかないという事情もあります。

公共設備は定期的に点検を行い、補修・補強工事に合わせ塗装をやり直す機会が必ず巡ってきます。そのタイミングは例えば23区内にある200を超える歩道橋(※)毎に異なるでしょうから、事前に「まちなみの変化や成熟度に合わせ、より歩行空間としてふさわしい」歩道橋(公共設備)の色の方針を決めておく、ということが求められるようになったのだと思います。

公共設備にはそもそもの目的・機能があり、その目的・機能とはそぐわない色や図柄が展開されてきた時期がありました。担当者が思う存分「創意工夫」をしてきた結果、目的・機能にそぐわないモノがまちなみや地域の遺産として様々な評価や批評の的となってきた歴史もあります。

毎回のことになりますが、様々な公共設備の色を「私が」決めよう・決めたいとは思いません。もちろん、総合的な計画や開発の一員として参画し、計画から実施・竣工までトータルに関わることができる場合は、個別の検討を行います。ただ一方では、日々「環境の地」であるべきものの色が「慣例的にこれまでの色」で塗装されているという現状があり、このような状況に対しての最適解を出す・出せることもとても重要な仕事の一部だと考えています。

…とはいえ。社内でこのような話をしていたら「そもそも歩道橋の色に対し、一般の人は青がさわやかとか好きとか、そのくらいの話で周辺のまちなみとの関係とかでは見てないんじゃないですかね?」という意見も。…ですよねえ。

まあこれも毎回のことながら、課題は「歩道橋が」とか「防護柵が」とか個別の色やあれこれについてではなく、快適な歩行空間・屋外環境の一部として歩道橋(など)の色をどう解くか、という視点が最も重要なのではないでしょうか。

※資料:東京都統計年鑑・建設局道路管理部保全課

 地域, 道路の種類別歩道橋数, 橋長及び橋面積(平成21~25年)による

自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂