2013年3月4日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学④-図と地の関係性について

単色を選ぶ場合・多色を選定する場合の基本的な考え方に続いては、周辺の環境を考慮する、あるいは周辺の環境に配慮するという視点から、基調となる色彩を選定する際の考え方をまとめてみたいと思います。

基調色については以前にもいくつか記載していますが、まずは周辺との明るさの対比について、改めて解いてみました。

ある単色が私たちの眼前を覆いつくすという現象は日常生活の中ではほぼありません(白一色に覆われ方向感覚を失ってしまうホワイト・アウト等がそれに当たります)。ある色を見ているとき、必ず隣り合う何かや背景と共に認識をしており、それは背景や周囲から影響を受け、また同様に影響を与えるという相互の関係性にあります。

背景(地)の違いによる対象物(図)の見え方の変化①
背景(地)の違いによる対象物(図)の見え方の変化②
模式的に少し極端な見え方を示しました。明るい白系統を基調とした街並みと、深い緑に覆われた木立の中。中央の図は白から黒へのグラデーションを5段階で示したものです。

周囲が明るい場合、高明度色は馴染んで見え低明度色は対比的に感じられます。逆に周辺が暗い場合は、高明度色は一層際立ち、低明度色が馴染んでいるように感じられます。その色自体が持っている明るい・暗いという印象は最終的には周辺との関係性によって決定付けられるということを考えると、同じ白でもその環境にふさわしい白さがある、と言えるのではないでしょうか。

色彩設計を考えるとき、常にこの環境における図と地の関係性、ということを意識しています。そこには様々なスケールの横断があり、上図のように遠景レベルでの見え方の他、隣り合う他の要素や個々の形態が認識できる中景レベルでの見え方、そして対象物に近接した時のアイレベルにおける見え方を行き来しながら『対比の程度』をコントロールして行きます。

図と地はまた、ともすると逆転して見える可能性を持っています。昼と夜など時間の変化にも影響を受けますし、類似の形態が近接すること等により、地が図としてのまとまりを持つ場合もあります(ゲシュタルト心理学の近接や類似の要因、に拠る。これはこれでまた別項目をつくりたいと思います)。

意図しない見え方をする可能性を理解しつつ、だからこそこの図と地問題は周辺との関係性の中で、丁寧に見極める必要があるのではないか、と考えています。

素材や色を選定する際、何を手掛かりにするかということについては様々な要素や切り口がありますが、まずは基調となる色が環境の中で『どのような見え方をするか』ということを分析してみると、おのずとふさわしさが見えてくるのではないか、と思うのです。

白く際立たせたい、でも周辺の環境にも配慮が求められるという時など、その見え方は周辺との関係性によって決定づけられるということを意識するだけで、微細な調整も『当たり』をつけやすくなるはずです。

まずは遠景にもっとも大きな影響を与える明度(明るさ)の見え方を例に環境における図と地の関係性という考え方を示しましたが、次回は図と地の適切な面積比や割合について、彩度(鮮やかさ)の側面から、自然界の色彩構造を例に解いてみたいと思います。

例えば落葉樹に囲まれた森の中等では、背景の色が大きく変わることにより、対象物の色彩が変化するかの如く、季節によって見え方が変化するという場合があります。よくそのことについて『だから色選びは難しい』と言われますが、周囲の変化が前提で変化のおおよその様子を把握しておけば、そんなに怖がることでもないのになあ、というのがこの仕事を続けて来ての実感です。

次回はこの動く色・動かない色の関係性、がテーマです。

2013年2月21日木曜日

白基調のまち並み、CLIMATレポートより

前回、多色を使って調和を形成するための基本的な考え方についてまとめましたが、その中で

規模が大きくなればなるほど、全て白で、というわけには行かなくなるでしょう(…絶対にあり得ない、とは言い切れませんが)。

と書いたところで、白で揃っているまちがあったなあ、ということに気がつきました。
横浜のみなとみらい21地区です。実際に測色をした結果も併せて『CLIMATレポート』にまとめてあります
ご参考まで。

全体として白さを感じるまちですが、様々な素材やテクスチャーにより、アイレベルでは適度な変化が感じられます。特徴ある形態を持つ建築物が建ち並んでいることも、ともすると単調になりがちな白の印象を緩和している要因のひとつであると思います。

規模や形態、高さの統一、素材や色の統一。現代のまちなみ形成においては、何かを一定の範囲や幅の中に納めることで連続性や一体感を形成する、ということが必要だと思っています。まるで同じにする、ということではもちろんなく、ある幅のなか、で充分です。

それを実証するために、様々なまちや地域で色を測る、というサーベイを行っています。この手法を広く知って頂き、どのようなまちにも必ず色彩の構造がある、ということを様々な計画に役立てて頂きたいと考えています。

2013年2月18日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学③-失敗がない色の選び方(多色編)


失敗がない色の選び方(単色編)に続いては、多色を用いる場合の基本について、解説します。

色を使うという一文については、実に様々な意味や解釈があるものだと感じます。中でも、色を使う=カラフルになる、色をたくさん使う=ごちゃごちゃになる、という二点に対する懸念が最も大きいようです。
そもそも、『色を使わなければならない状況なのか』という検証が先にあるべきで、使う必要がある際にも『どのような使い方が適切か』という段階的な検討が不可欠であると考えています。

ところが、なぜか色は“つける”という表現に表れているように、まるで後から塗り絵のように鮮やかな色を着彩することである、と捉えられている節があります。この色を色彩、に置き換えてみると、違和感の大きさが伝わるのではないでしょうか。色彩はつける、よりも施すや展開する、の方がしっくりくるような気がします。更にいうと、『対象物と何らかの調和が形成できるよう検討された数色を組み合わせ、配置する』ことが、色彩を展開することの意味や意義なのではないか、と思っているのですが、如何でしょう?

それでは複数色を用いることが、イコールカラフルさではないこと、また沢山の色を使って一体感や連続性を表現する方法を紹介します。その名を、『色相調和型(しきそうちょうわがた)』の配色といいます。

環境色彩デザインにおいては、いくつかの基本的な調和の型(タイプ)があります。どのような配色でも(対比の強い補色同士等)調和を見出す二次元のグラフィックや絵画等とは異なり、三次元空間では対象物が持つ規模や用途、また建築物が持っている慣例色(素材)等との関係から、特殊な配色は調和を感じにくく、調和感よりも違和感を増大させる要因となりがちです。

この色相調和というのは配色の中でも最も『調和した印象』を感じやすい配色です。その大きな要因は、どのような色相であれ、純色(原色)と白・黒の3色を混合するカラーバリエーションであり、明度・彩度の変化が既に調和した状態である、という点にあります。濃淡が生み出す色彩のグラデーション=階調は音楽でも同様、なめらかさや連続的な変化を表しますから、色相が統一されているという条件が階調の変化を支える軸となり全体のまとまりを保持している、ということが言えると思います。

また濃淡の変化というのは、私達が長年見慣れてきた『身の回りの状態の変化』に酷似しています。夕暮れ時、橙色が闇夜に変わる様子、切り出した木材が風化し色味を失っていく様子、落葉樹が緑から黄、赤へ変化していく様子…。私達の暮らしは徐々に色彩が移り変わること、そしてその変化の幅が大変微細であるという状態の変化と共にあります。

色相調和型の配色を2例、提示します。

色相調和型の配色・その1
上段は低~高明度、低・中彩度色を使って構成したものです。
この段階では、こうした配色をカラフル、と感じる方も多いかも知れません。

色相調和型の配色・その2
次に、全体の彩度を下げ、低~高明度、低彩度色のみで構成したものです。いずれも全て色相は10YR(イエローレッド)系であり、使っている色数は同じです。それぞれトーン(明度と彩度を併せた概念・色の強さ)に変化を付けることによって、複数色を使ってもまとまりを保持したり穏やかで落ち着きのある印象をつくったりすることが可能である、と考えています。

 私はいくつかの自治体で景観アドバイザーという職務に携わっており、月に12度程度の割合で様々な相談を受けます。景観に関する協議のため、建築設計者が図面に素材や色彩(日塗工の色番号やマンセル値)を記載した図面が提出されますが、複数色を使う計画案の場合、この色相調和が図られている例には殆ど出会ったことがありません。

基調色がYR(イエローレッド)系なのに、低層部がR(レッド)系だったり、Y(イエロー)系だったり。近似の色相も類似色相調和、という型の一つですが、使用する部位や面積が様々な場合、色相の類似のまとまりは読みとりにくくなります。差異による変化を恐れるあまり、色相・明度・彩度に殆ど差異のない色群を無意味に使い分ける例も数多く見てきました。使い分けたいけれど、どのくらいの差異が適切かわからない、差をつけ過ぎてまとまりが無くなることを恐れているように見受けられます。

特に外装の場合は形態に合わせて適度な変化をつける=分節化が必要な場合があります。また、上記の例のように複数の建物が混在する際、規模が大きくなればなるほど、全て白で、というわけには行かなくなるでしょう(…絶対にあり得ない、とは言い切れませんが)。

そこで是非検討して頂きたいのが、『色相調和型』の配色です。軸となる色相を決め(暖色でも寒色でも)、その純色に黒と白を加えた濃淡のバリエーションによる配色は、最低限の調和を形成するために最も有効な配色手法だと言えると思います。

最後に、色相調和型の配色に関するまとめです。

●色群の段階で既に調和感が形成されているため、多色を展開してもまとまりが保持されやすい。
●対象物の規模や用途・目的に合わせて、色のトーン(明度・彩度)を変えながら、全体の『雰囲気』をつくることが可能。
●よって、建築・工作物単体の他、それらが複数集積した群に対しても展開がしやすい。

今後他の色相ではどのようなイメージなるか、も紹介していきたいと思います。

2013年2月14日木曜日

お知らせ-平成24年度第3回静岡県景観講習会

お知らせです。
2013年2月25日(月)午後1時30分から、三島市民文化会館小ホールにて開催される静岡県景観講習会に講師として登壇することとなりました。
平日日中ですが、お近くの方・ご興味のあります方、是非ご参加下さい。

テーマは富士山。自身が一昨年から山梨県の景観アドバイザーを務め、いくつかの地域で修計事業に係わっているご縁から、その取り組み事例を紹介させて頂くこととなりました。

当日は三部構成、日本大学理工学部教授の天野光一氏(富士山周辺地域における景観形成のあり方)、NPO法人地域づくりサポートネットの山内秀彦氏(ぐるり・富士山風景街道における景観ワークショップの事例紹介)が参加されます。

まち並みに色彩が与える影響や効果について、多くの事例を交えながら、現況の課題とすぐに・誰もが取り組むことの出来る手法等をなるべくわかりやすく紹介したいと思います。
どうぞ宜しくお願い致します。

2013年2月8日金曜日

建築学生からの質問に答えてみました-その2


一昨年浜松で登壇した『建築家と白について』という対談の際、はじめてじっくりと建築の白について色々と考える機会を得ました。その時は建築家の方と対談という形式で話をさせて頂きましたが、それまで漠然としか理解できていなかった形態の抽象化のこと、また空間がかたちづくられるプロセスにおいて素材(と色彩)の選定が建築家にとってどのような意味を持っているのか等のことを深く知ることができました。
以来、何かとこのテーマについて尋ねられる機会が増え、自身も様々な資料を調べたり色々な建築家の考え方を学んだりする日々が続いています。

先日の立命館大でのレクチャーの際、ぜひこのテーマについて触れて欲しいという要望を頂き、更に出来れば批評をと言われました。専門家としての評価を求められること、特に学生の前ではお茶を濁すようなことは出来ないなあと思いつつ、公の場では自身が評価の軸をどこに置いているかをきちんと明示しなければならない、と感じました。

私は現在、都市やまち、そして様々な建築・工作物に係わる仕事をしていますが、建築の専門的な教育を受けてはいませんので、建築設計という専門的な見地からの批評は出来るはずがありません。ただ、自身が学んできた『色彩学』という学問を切り口とした際、建築の白に対して建築のそれとは異なるアプローチが出来るのではと考えるようになりました。

自身の理解では建築とは文化をつくることであり、時間軸や空間軸におけるあらゆる事象を解いた上で成り立つもの・こと、であると考えています。ゆえに建築の専門的な知識や技術だけでは解けないことも多いはずだと思いますし、私達の眼前にある姿を持って表れる以上、視覚に訴えかける情報・メッセージが発せられるものです。

物体が持つ何らかのテクスチャー(手触り)がかたちを把握するための手掛かりとなり、その質感や色合い、双方があいまってもたらす陰影等は見る人の心理や心情に様々な影響を与えるものです。その素材や色彩が与える影響を、色彩学の観点から解くと何が見えてくるのか…。
この一年半あまり、特にそのような立ち位置を意識して、まちや建築のことを考えています。

さて前置きが少々長くなりましたが、建築学生からの質問への解答、第二弾です。

◎色と時間・白い壁
●質問5 
白い建築はまめに塗り直したりして白を維持しているんですか?
ホワイトボックスが2030年経った時にどんな表情になるのか気になります。

2030年後、私も大変気になります。この仕事に就いてかれこれ22年になりますが、仕事を始めたころはさほど白を意識していませんでしたし、環境色彩デザインの方法論では外装の大きな面積に視認性・誘目性の高い白を用いること(=色彩学的に過剰に際立たせること)は避けるため、いわゆるホワイトボックスの経過について、自身の選定事例を挙げて解説することはできません。

一般的な例として、竣工後約2年を経過した集合住宅の一部をご紹介しておきます。激しく汚れが目立つという程ではありませんでしたが、それでも大きく平滑な壁面にはいくつかの雨筋が浮かび上がっていました。これはあくまで一つの例です。この事例については引き続き、様子を観察して行こうと思います(…決して人様のあらさがしをするわけではなく)。



外壁の塗り直しの周期について少し調べてみました。住宅金融支援機構のサイトには1520年で全面改修を検討すべし、とありました。塗装の表面だけの問題ではなく、時間が経つと躯体の劣化が進行する恐れもあり、長く放っておくと下地の補修にも多額の費用がかかるので、早めの対応が肝心である、とも記載されています。

自身がこれまでいくつか外壁修繕に係わった都市機構の団地等でも、外壁や鉄部の塗装などの部位毎の修繕周期が1015年ごとに定められています。民間の集合住宅等でも10年程度で必要に応じて補修や塗装を行うというような修繕計画が立てられています。

このように修繕の目安が15年程度を初期の修前のタイミングとして推奨されていることを考えると、2030年、ホワイトボックス(あくまで塗装を前提)が竣工当初のままの状態でいることは難しいのでは、ということが推測されます。一方、15年という周期よりもこまめに塗装をし直す、ということは現実的な費用や手間を考えると持ち主にとっての負担の大きさが気になることころです。

一方では、近年様々なメーカーによって耐久性・防汚性の高い白い製品や白を保つための技術が開発されています。そうした優れた機能を持つ建材を使用することが長く美しい白を維持するためには欠かせない視点であると言えると思いますが、光触媒の技術を用いた塗料等は光の当たらない北面や付近に建物等が近接していて雨があたりにくい場所ではその機能が発揮されないという側面もあり、環境や部位の特性に応じた仕上げ材の選定が不可欠であることには変わりはありません。自身の経験では建材や仕上げ材単体が持つ性能に頼り過ぎると、他の側面からの影響を見落とす可能性が高まり大変危険である、ということが身に染みています。

色彩学の観点から見た時、高明度の白は他のどの色よりも際立ち手前に進出して見える色、という特性を無視することができません。建築家のいう抽象化を色彩で表現するのであれば、周辺の環境に馴染まる(=時には迷彩のようにスケール感も)、ということの方がはるかに効果的です。が、これはあくまで視覚情報としての色が持つ特性です。今後は更に形態やボリュームとの関係、を解いて行こうと思います。


●質問6 建築の色の時間変化について
『化学材料には時間が染み込まない』というひとこと。以前建築家の内藤廣氏のレクチャーで聞いた言葉で、今でも強く記憶に残っています。氏はまた『時間の流れに抗う気持ちと素直に流されてみたい気持ち、双方を行き来している』ともおっしゃっていました。

自然素材の時間の経過と共に変化が味わいとなって行く様子、時間が染み込まない分、一気に老朽化したり部分的な劣化が目立ったりしやすい人工的な素材。様々な建材は技術の発達により耐久性が良くなり、長く美観を保つことも可能になりましたが、周囲にある様々な建材や自然を含めた環境の経年変化と、スピードがズレ過ぎてしまうことにも課題があるような気がしています。

壁面単体がいつまでも綺麗で輝いている分、その他の部分の老朽化が返って目立ってしまうという状況が考えられます。年月の推移のみならず一日の中でも時間の変化があり、四季折々のとても繊細な自然の変化と付き合う中で、どこまで時間に抗うべきか、どこから溶け合うべきなのか。自身が素材を選定する際は、そこが最も悩む部分です。

白に話を戻すと、高明度の白を用いるということは、時間をどう設計するかということに大きく係わってくると思っています。永く美観を保つという観点を重視するのであれば、雨を除けるために軒を深くしたり天端に勾配を設けたり、とにかく水の逃げ道をつくる。そして汚れにくい・汚れが付着しても落としやすい仕上げ材を使用する等、あらゆる工夫が必要でしょう。自身の立場からいえばそうした工夫や配慮のなされていない建築・工作物にはどんなに施主や設計者が要望しても、白を使うことは薦められません。

一方、時間の経過による変化を汚れや劣化と認識させないような材料の選定、という考え方や見せ方もあるように感じます。むしろ積極的に時間の変化を染み込こませるような塗料、見てみたいとも思います。そうした設計における工夫や配慮と生涯のメンテナンスに掛かる手間や費用をトータルに検証した上で、白を用いる意味や意義について、建築家は徹底的に考えているものだと信じています。

こうして改めて書き出してみると、まだまだ自身の中でも整理できていない部分の多いことが浮き彫りになります。学生が求めるスパッとした答えにはなっていませんが、この文面は全て自身の経験がベースであり、嘘はありません。

ところが先のレクチャーの際に内藤廣氏は至極スパッと話されていて、さすがだなあと思ってしまいました。『ウエディングドレスが綺麗なのは結婚式当日だけ。あんなもの着ていたら日常は出来ない』と。
…許可は取っていませんが、実は随分このフレーズも使わせて頂いています。

こうした自身の正直さがどこまで役に立つか、甚だ心許なくなってきましたが、引き続き建築の白がもたらす色彩学的な意味や効果、そして課題について、考え検証し続けて行きたいと思います。

2013年1月31日木曜日

建築学生からの質問に答えてみました-その1


あっという間に1月も終わりとなりました。この時期になると既に新年度のスケジュール調整等が始まり、春が近いことが少しずつ感じられるようになります。
今月は非常勤をしている静岡文化芸術大学の講義と演習が週1×3週、その間に立命館大学の学生が企画してくれたレクチャーで建築と色彩をテーマに話をするという機会もあり、いつも以上に“環境色彩デザインの世界を伝える”ということと向き合った一カ月でした。

立命館大学でのレクチャーは卒計の提出時期だったにも係わらず、35名程の学生・院生と社会人の方々が集まって下さいました。レクチャーを企画してくれた博士課程の方が事前にアンケートも行ってくれており、色彩に興味があるか・設計の課題に積極的に取り入れているか等、参加して下さった方々が知りたいポイントがしっかり絞り込まれていました。おまけに以下のような質問も既に用意されており、出来るだけレクチャーの中でその点にも触れながら話をしたのですが、ひとつひとつの質問には充分答えきれませんでしたので、ここで少しずつ質問と共に紹介していきたいと思います。

質問のいくつかは実務に携わる設計者にとっては当たり前のことかも知れませんが、色彩デザインという分野を初めて知った・あるいは興味がある、という若い方にとっては至極素朴な疑問であり、日々の製作の中で困っていることなのだろうなあ、という印象を持ちました。
文章だけで細かなニュアンスを伝えることは難しいのですが、せっかく興味を持って頂いたので、これからもその興味をよりよい環境の形成のために役立てて行って欲しいなと思っています。

●質問1 系統の異なる色を使う時に、うまく統一感を出す方法は?
建築や土木デザイン等で最も統一感(調和した印象)を表現するためには、色相(色み)調和が基本だと考えています。10YR(じゅうわいあーる)という色相でいうとYR(イエローレッド)色の純色に白・黒を加えた濃淡の快調でまとめる配色です。これは単体でも群でも応用が効きます。


色彩学には配色調和論という論理があります。
まずは色相の対比を強調する2色・3色・4色調和(対照の調和)等、そして明度と彩度を合わせたトーンという概念を用いたトーン調和(同系の調和)、色相・トーンが類似した色を組み合わせた類似色調和の3つが一般的です。
上記はデザイン分野全般に展開されるため、グラフィック・ファッションをはじめとする商品計画やwebデザイン等にも応用されています。

ところが建築や土木デザイン等の分野には対象となる建築・工作物の規模、周辺の様々なものに影響を受けたり与えたりという特殊性があり、単体で対照(変化の面白さ)を表現しようとすると周囲から浮いてしまいがちです。

また、様々な対象物には“慣用色”というものがあり、建築でいうと長い歴史を持つ木造建築の自然素材の色やしっくい・土壁・灰色の瓦・自然石等、ごく低彩度の暖色系や白・灰といったニュートラル系の色(素材)がそれに該当します。現代ではこうした歴史的な建築物が群として見られるまちなみは少なくなっていますが、新しい建材(タイルや塗料・サイディング等)の素材感や色は日本の伝統的な建材に近づくようつくられたものが多く、基本は暖色系の低彩度色です。

もう一つは基調・補助・強調という面積比とのバランスです。例えば基調色と補助色(全体の8割以上)をYR(イエローレッド)系でまとめ、1階の開口部(扉)や庇等面積の小さな部分にダークグリーンやダークブルー等を配した洒落た建物を都心でも良く見かけるようになりました。基調が整っていれば系統の異なる色(ここでは色相、と捉えています)が加わっても、全体の調和感は崩れにくいと考えています。更には、その強調色の使い方が両隣の建物と揃っていたりすると、より統一感のある印象をつくることが出来るのではないでしょうか。


●質問2 合う色の条件は?
何に対して合う、というかによって答えは随分変わるような気がしますが、とりあえず配色として合う・合わない、という意味だと解釈して書いてみます。調和については上記に示した通り、“いくつかの型”があります。屋外環境の場合は
①  色相調和型
②  類似色相調和型
③  トーン調和型
の順に、調和した印象(合う)を感じやすく、周囲が多少混乱した環境であっても、単体でまとまりを強化していた方がその影響を受けにくい、と考えることが出来ます。

まずはこの調和の型(種類)の内容を理解し、まちを歩いて建築物や広告等を見る際にこの調和の型のどれに当てはまるか、を考えてみるのは手軽で良い訓練になると思います。色という切り口で見た時、何か違和感を持ったり良い印象が見当たらなかったりする時は、色彩的な調和が形成されていない、ということになります。

●質問3 誘目性の高い色とは?
誘目性とは単に目立つ・目立たないという観点だけではなく、人の目を引き付ける度合いを意味します。例えば広告で派手な配色を使った看板にも目を惹かれますが、見る人がその時興味を持っているもの、例えば車の写真や美味しそうなステーキの写真につい目が行ってしまう…。これが誘目性です。

色においては一般に赤・黄赤・黄といった暖色系は誘目性が高く、青・紫といった寒色系は低いという特性があります。交通標識などでは視認性・誘目性共に高い配色が展開されており、伝えたい情報の優先順位の高い(危険・注意)ものほど、赤や黄等の暖色系高彩度色が多く用いられています。

こうした色自体が持つ特性を理解しておくと、例えば奥行き感を出したい時に誘目性の高い色を後方に用いても効果的でない、という仮説を立てることが出来ます。もちろん、これも基調となる色の色相や空間的なスケールとの関係性によりますので、仮説を立てた上で、証明していくという検証が不可欠です。

●絶対NGな色の組み合わせを知りたい
これも対象により、という前提条件が付きますが、建築の学生からの質問ですので建築外装において、と解釈して書いてみます(このあたりが文章で対応することの難しさ、ですね)。
自身はNGな組み合わせだと感じるのは、具体的に赤と青、などのことではなく、『対象となる建築物の地域性・用途・規模・形態・周辺との関係性、更には見る人に与える心理的な影響…等々の要件にそぐわない配色』と定義しています。上記の配色調和論で考えると、例えば対比の強い補色(例えば赤と緑)も“対照の調和”の範疇です。

そうした“見慣れない配色”“奇抜さ”等も、場所や規模、更にその建築物が持つ目的、素材感等によっては、素晴らしい建築として存在する可能性はゼロではない、と考えています。
要は単に配色の善し悪しの問題ではなく、対象(の持つ特性や要件)にふさわしいか否か、という判断をすることだと思うのです。

とはいえ、通常の業務の中では上記の建築物における慣用色や地域が持っている色を基本としていますし、建築物や工作物が持つ公共性を考えるとそうそう斬新な配色や(良い意味で)誰もがハッとするような配色というのは相応の理由(そうすることの必要性)が不可欠です。
繰り返しになりますが、それでもどのような配色も可能性はゼロではない、と考えていた方が、創造の幅は豊かに育つのではないでしょうか。

ちなみに建築ではありませんが、最近自身がハッとした配色は、この3月にデビューするスーパーこまちのJAPAN REDです。
評価は様々だと思いますが、コンセプトがしっかりしているので今までにない配色も新鮮な驚きと好感を持って受け入れられるのではないか、と感じました。

…と、4つの質問だけで相当長くなってきました。以降、答えに窮するものもありますが、自身の経験の範囲で、出来る限りわかりやすく答えて行きたいと思います。



【事前アンケートに記載されていた質問】 ※言い回し等、そのまま転載しています。
◎色の決定・選び方
・プロジェクト等で色を決定する時、何を大切にして色を決めたり、デザインを行っていますか?
・系統の異なる色を使う時に、うまく統一感を出す方法は?
・合う色の条件は?
・誘目性の高い色とは?(コントラストに頼らない)
・絶対NGな色の組み合わせを知りたい

◎色と時間・白い壁
・白い建築はまめに塗り直したりして白を維持しているんですか?ホワイトボックスが2030年経った時にどんな表情になるのか気になります。
・建築の色の時間変化について
・時間経過が想像できない。派手な色にチャレンジできない。

◎色と心理
・カラーセラピーみたいな色で人間の気持、感情ってコントロールできるんですか?
・感情に与える影響(赤→怒、青→悲など)

◎プレゼンに使う色
・鉛筆画のスケッチはうまく描けるが、色を塗ると台無しになることが多々ある
・CG空間で色別に反射率を求める方法を知りたい
・カラーカードで判別した色をRGB値に変換する方法を知りたい
・プレゼンに効果的な色の組み合わせ方

◎その他
・国によって建築の色の映え方が違うのはなぜですか?
・色を含めた様々なものに対するセンスが無いのが悩み

2013年1月6日日曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学②-失敗がない色の選び方(単色編)


失敗がないというか、失敗したと思ってもそのことに気付かれにくい色選び、と言ったほうがいいかも知れません。
2013年最初の色彩学は、“一発勝負の時の心構え”について、昨年末の経験からまとめてみました。

塗装の場合、色選びは時間にゆとりがありさえすれば、見本をつくって実際の見え方を確認することが出来ますから、実際に使用する塗料を用いて濃淡や艶の度合い等、異なる見本を数種用意し、比較検証の上、決定色を選定することが最も望ましい方法です。

ところが長く仕事をしていると、稀に一発勝負をしなければならない事態に遭遇します(他の部位の素材や色が決まっていて、それと同色にする等の場合は別として)。そのような時に適切な判断が出来ないと、多くの方に迷惑がかかりますし、現場の工程やコストに大きく影響を与えてしまいます。

そういう時には失敗したくないなあ、と思うものです。長く仕事をしていても、ぎりぎりまで『どこまで攻めていいか』と思うことはよくあります。無難と品よく馴染んでいることの境界。あるいは、際立っていることと浮いてしまっていることの境界。

空間を構成する要素の中の一つ要素だけで判断できる事ではないので、どちらに転ぶか、実際にその環境が具現化するまではわかりませんが、そうした条件を踏まえた上での一つの考え方です。

塗装で一番難しいのは、色の印象に最も影響の大きい彩度(鮮やかさ)のコントロールです。
いわゆる発色の善し悪し、です。ちょっとの色気で、雰囲気が変わってしまいますので、ビビッドな色や微妙なニュアンスのある中彩度色などは、やはり見本確認が欠かせません。

つまりそういう時間的・予算的余裕が無い時の逃げ道は、『彩度をギリギリまで控える』ことになります。
鮮やかさで失敗すると手当のしようがありませんが、地味での失敗は『馴染ませていますが、何か?』と言うことが出来ます(当社比)。

二番目は色相(色あい)で、ちょっと赤みを抜くとか、黄味に寄せるとか。
色あいの判定は比較対象が無いとわかりづらいので、建築を長くやっている人でも『この塗装とタイルは色相がずれていますよ』と言っても通じないことが多くあります。
塗装の職人さんには伝わりますが、塗料メーカーの営業の人には理解できない人が多かったりします。

例えば黄赤系のオフホワイトは、塗装色の中では最も一般的ですから、色調合に慣れた人(=メーカーの工場の方や職人)であれば色相を見誤る心配が少ない色です。再現しやすい色を把握しておく、ということも重要な要素です。

指定した色を再現してもらう際、再現する人の目・手による誤差を、どれだけ小さく出来るか。これは以前グラフィックデザイナーの原研哉さんからもお話を伺ったことがありますが、どの分野にもある程度共通する考え方だと思います。

具体の方法としては、ズバリを想定した場合、そのズバリ色に対して
『色相(色あい)は赤の方向、黄の方向(あるいは緑の方向、紫の方向等)、どちら寄りが好ましいか』
『明度(明るさ)の上限・下限は』
『彩度(鮮やかさ)の上限・下限は』

を指示することで、『ここまでだったらズレは許容出来る=ストライクゾーン』を設定してあげる、というやり方です。

例えば“明るいベージュ”を選定する際、選ぶ側にも見る側にも、ものすごく幅があるはずです。
その状況下で、自身が理想とする色は確かにあるのですが、それは何というか、物体の色そのもののことだけではなくて、その物体があることでつくりだされる状態を、どうすれば構築出来るか、が重要です。

形や質感との合性とか、その場の陰影の具合とか。色の見え方はその場の状況に左右されますから、(色の)『転び方』さえ把握していれば、ある程度の幅の中で決めて全然問題ないと思っています。
むしろ選定の際『絶対にこの色でなければならない』ことなど、ほぼ存在しないと考えることも出来ます(生産・商品管理の色再現は別として)。

許容範囲を決めるところまでは相当気を使いますが、実際の色合わせは(ズレが大きすぎなければ)許容してしまった方が良い、くらいに思っています。

…とはいえ、一発勝負の色合わせはひとえに職人さんの手と目にかかっているので、毎回緊張します。そうした経験も含めて、自分の中にデータを客観的に数値化して蓄積していくことがとても大切だと考えています。他での成功が、ここで通用するかはもちろんわかりませんが、経験の良いところは上限・加減の“見当”がつくようになることではないでしょうか。

一発勝負ならば賭けに出る、という方法ももちろんあるでしょう。あるいは、常にニュートラルな白にしておけば間違いない、という考え方もあるかも知れません。ですが、塗装の良い点はかなり微細な色調整が可能だという所にありますから、その利点を生かして徐々に段階を踏んでいくという訓練も悪くないのでは、と思っています。

ちなみに、今回は1色を選ぶ際のポイントについて書いていますが、複数色を選ぶ際はそれぞれの差異の設定の仕方にまた別の注意が必要です。それについては、また次回。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂