2012年11月7日水曜日

測色016-南洋堂書店


2008年より、KANDAルネッサンスというタウン誌に神田の色というテーマでリレーコラムを書かせて頂いています。自身の番が来るたび神田のまちを散策し、興味ある素材や色彩を探すのはとても楽しく、この測色シリーズを始めたきっかけの一つでもあります。

まもなく発行される96号の題材として取り上げたのは南洋堂。建築関係の専門書を扱う書店です。1980年に建築家・土岐新氏により設計されたコンクリート造の外観は、深い溝に落ちる濃い影と端正なグリッドパターンが独特の表情をつくり出しています。およそ32年を経過したコンクリートの色は5.0Y 5.3/1.0程度でした。

2007年の改修時に誕生したドローイングギャラリー。

建築の基調色の測色は日本塗料工業会の標準色見本帳で大体間に合います。
壁面に近づいてみると型枠の跡や骨材の粒が認識でき、天然石のような気泡も見られ、そうした“シミやシワ”の刻まれた外観は長い時間の蓄積を感じさせます。時間の経過は通常は意識されない、自然の変化以上に微細で僅かな差異を刻んでいくものなのだと思います。

真新しいコンクリート打ち放しの色は5.0Y 7.5/0.3程度。南洋堂の外壁と比べると二段階くらい明るい印象があります。また以前測色した早川邦彦氏設計の住宅は5.0Y 7.0/0.3程度でした。これまで多々測ってきた経験から、明度は6.5~7.5程度のものが一般的にはコンクリートの色として馴染みがある範囲だと考えています。

よく『素材色は一律でないから数値は役に立たない』と言われることがあります。確かに経年変化する素材の色を測る、という行為は、あくまでその瞬間を切り取ることでしかありません。ですが、上記のように変化の度合いを把握すればよいわけですし、客観的なものさしによって数値に置き換えられた色が、様々な判断を正しい方向に導くために大きな効果を発揮することが数多くあります。

例えば比較対象のサンプル(基準)として。この明度に対し、この素材がどれくらい対比的なのか、融和的なのか。基準(軸)があることにより、差異の強度がコントロールしやすくなります(自在に、とまでは言いづらいのがまた難しいところではありますが)。

コンクリートの例でいけば、『時間の経過と共に明度は下がり、彩度は僅かに上昇する』という特性を持つ素材として、位置づけることが出来ます。さらにその変化の速度と自然の草木が持つ変化の幅や速度との相関性などにも何がしかの繋がりがある、と考えており、紅葉する葉の色の変化や湿った土が乾いていく階調など、環境の色に置き換えてみることもよく試みています。

先日、内藤廣建築設計事務所に勤務されていた方にお話を伺ったところ、事務所には環境を取り巻く要素を数値化する機材、あらゆるものが揃っていたそうです。温度計、湿度計の他、風速計や照度計等。客観的に数値化できるものは徹底的にデータ化して、身体と頭で覚えていく。そんな訓練の一つとして、色彩の数値化ももっと一般的になって行くとよいなと考えています。

素材の肌合いや艶感、微細なゆらぎ等を数値化することは出来ませんが、一度マテリアルを『色』という単位に置き換えて評価し、実際の見え方との比較や適切な強度を設定していくことに大いに役立ちます。

それはその素材と相性の良い素材(・色彩)を探り出す際、とても役に立つ基礎データです。

ところが、今日も『(明度)90超えのアーキテクトホワイト』なるキーワードを目にしてしまいました。常に最高の白でなければならない、という強迫観念?にも似た思い。これは様々な設計者から聞いてきた言葉の一つです。そのように頂点で際立つことを善しとする場合には、対象との比較により周囲との関係性を築いていくためのものさしは必要無く、それはそれでわかりやすいというか、経験に基づく信念であることには変わりは無いのかも知れません。

どちらが正しいとか間違っている、ということを言いたいのでは無く。上限・下限、あるいはその中間など、全ての際(キワ)にこそ、丁寧な検証が必要である、と思うのです。

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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂