2013年1月31日木曜日

建築学生からの質問に答えてみました-その1


あっという間に1月も終わりとなりました。この時期になると既に新年度のスケジュール調整等が始まり、春が近いことが少しずつ感じられるようになります。
今月は非常勤をしている静岡文化芸術大学の講義と演習が週1×3週、その間に立命館大学の学生が企画してくれたレクチャーで建築と色彩をテーマに話をするという機会もあり、いつも以上に“環境色彩デザインの世界を伝える”ということと向き合った一カ月でした。

立命館大学でのレクチャーは卒計の提出時期だったにも係わらず、35名程の学生・院生と社会人の方々が集まって下さいました。レクチャーを企画してくれた博士課程の方が事前にアンケートも行ってくれており、色彩に興味があるか・設計の課題に積極的に取り入れているか等、参加して下さった方々が知りたいポイントがしっかり絞り込まれていました。おまけに以下のような質問も既に用意されており、出来るだけレクチャーの中でその点にも触れながら話をしたのですが、ひとつひとつの質問には充分答えきれませんでしたので、ここで少しずつ質問と共に紹介していきたいと思います。

質問のいくつかは実務に携わる設計者にとっては当たり前のことかも知れませんが、色彩デザインという分野を初めて知った・あるいは興味がある、という若い方にとっては至極素朴な疑問であり、日々の製作の中で困っていることなのだろうなあ、という印象を持ちました。
文章だけで細かなニュアンスを伝えることは難しいのですが、せっかく興味を持って頂いたので、これからもその興味をよりよい環境の形成のために役立てて行って欲しいなと思っています。

●質問1 系統の異なる色を使う時に、うまく統一感を出す方法は?
建築や土木デザイン等で最も統一感(調和した印象)を表現するためには、色相(色み)調和が基本だと考えています。10YR(じゅうわいあーる)という色相でいうとYR(イエローレッド)色の純色に白・黒を加えた濃淡の快調でまとめる配色です。これは単体でも群でも応用が効きます。


色彩学には配色調和論という論理があります。
まずは色相の対比を強調する2色・3色・4色調和(対照の調和)等、そして明度と彩度を合わせたトーンという概念を用いたトーン調和(同系の調和)、色相・トーンが類似した色を組み合わせた類似色調和の3つが一般的です。
上記はデザイン分野全般に展開されるため、グラフィック・ファッションをはじめとする商品計画やwebデザイン等にも応用されています。

ところが建築や土木デザイン等の分野には対象となる建築・工作物の規模、周辺の様々なものに影響を受けたり与えたりという特殊性があり、単体で対照(変化の面白さ)を表現しようとすると周囲から浮いてしまいがちです。

また、様々な対象物には“慣用色”というものがあり、建築でいうと長い歴史を持つ木造建築の自然素材の色やしっくい・土壁・灰色の瓦・自然石等、ごく低彩度の暖色系や白・灰といったニュートラル系の色(素材)がそれに該当します。現代ではこうした歴史的な建築物が群として見られるまちなみは少なくなっていますが、新しい建材(タイルや塗料・サイディング等)の素材感や色は日本の伝統的な建材に近づくようつくられたものが多く、基本は暖色系の低彩度色です。

もう一つは基調・補助・強調という面積比とのバランスです。例えば基調色と補助色(全体の8割以上)をYR(イエローレッド)系でまとめ、1階の開口部(扉)や庇等面積の小さな部分にダークグリーンやダークブルー等を配した洒落た建物を都心でも良く見かけるようになりました。基調が整っていれば系統の異なる色(ここでは色相、と捉えています)が加わっても、全体の調和感は崩れにくいと考えています。更には、その強調色の使い方が両隣の建物と揃っていたりすると、より統一感のある印象をつくることが出来るのではないでしょうか。


●質問2 合う色の条件は?
何に対して合う、というかによって答えは随分変わるような気がしますが、とりあえず配色として合う・合わない、という意味だと解釈して書いてみます。調和については上記に示した通り、“いくつかの型”があります。屋外環境の場合は
①  色相調和型
②  類似色相調和型
③  トーン調和型
の順に、調和した印象(合う)を感じやすく、周囲が多少混乱した環境であっても、単体でまとまりを強化していた方がその影響を受けにくい、と考えることが出来ます。

まずはこの調和の型(種類)の内容を理解し、まちを歩いて建築物や広告等を見る際にこの調和の型のどれに当てはまるか、を考えてみるのは手軽で良い訓練になると思います。色という切り口で見た時、何か違和感を持ったり良い印象が見当たらなかったりする時は、色彩的な調和が形成されていない、ということになります。

●質問3 誘目性の高い色とは?
誘目性とは単に目立つ・目立たないという観点だけではなく、人の目を引き付ける度合いを意味します。例えば広告で派手な配色を使った看板にも目を惹かれますが、見る人がその時興味を持っているもの、例えば車の写真や美味しそうなステーキの写真につい目が行ってしまう…。これが誘目性です。

色においては一般に赤・黄赤・黄といった暖色系は誘目性が高く、青・紫といった寒色系は低いという特性があります。交通標識などでは視認性・誘目性共に高い配色が展開されており、伝えたい情報の優先順位の高い(危険・注意)ものほど、赤や黄等の暖色系高彩度色が多く用いられています。

こうした色自体が持つ特性を理解しておくと、例えば奥行き感を出したい時に誘目性の高い色を後方に用いても効果的でない、という仮説を立てることが出来ます。もちろん、これも基調となる色の色相や空間的なスケールとの関係性によりますので、仮説を立てた上で、証明していくという検証が不可欠です。

●絶対NGな色の組み合わせを知りたい
これも対象により、という前提条件が付きますが、建築の学生からの質問ですので建築外装において、と解釈して書いてみます(このあたりが文章で対応することの難しさ、ですね)。
自身はNGな組み合わせだと感じるのは、具体的に赤と青、などのことではなく、『対象となる建築物の地域性・用途・規模・形態・周辺との関係性、更には見る人に与える心理的な影響…等々の要件にそぐわない配色』と定義しています。上記の配色調和論で考えると、例えば対比の強い補色(例えば赤と緑)も“対照の調和”の範疇です。

そうした“見慣れない配色”“奇抜さ”等も、場所や規模、更にその建築物が持つ目的、素材感等によっては、素晴らしい建築として存在する可能性はゼロではない、と考えています。
要は単に配色の善し悪しの問題ではなく、対象(の持つ特性や要件)にふさわしいか否か、という判断をすることだと思うのです。

とはいえ、通常の業務の中では上記の建築物における慣用色や地域が持っている色を基本としていますし、建築物や工作物が持つ公共性を考えるとそうそう斬新な配色や(良い意味で)誰もがハッとするような配色というのは相応の理由(そうすることの必要性)が不可欠です。
繰り返しになりますが、それでもどのような配色も可能性はゼロではない、と考えていた方が、創造の幅は豊かに育つのではないでしょうか。

ちなみに建築ではありませんが、最近自身がハッとした配色は、この3月にデビューするスーパーこまちのJAPAN REDです。
評価は様々だと思いますが、コンセプトがしっかりしているので今までにない配色も新鮮な驚きと好感を持って受け入れられるのではないか、と感じました。

…と、4つの質問だけで相当長くなってきました。以降、答えに窮するものもありますが、自身の経験の範囲で、出来る限りわかりやすく答えて行きたいと思います。



【事前アンケートに記載されていた質問】 ※言い回し等、そのまま転載しています。
◎色の決定・選び方
・プロジェクト等で色を決定する時、何を大切にして色を決めたり、デザインを行っていますか?
・系統の異なる色を使う時に、うまく統一感を出す方法は?
・合う色の条件は?
・誘目性の高い色とは?(コントラストに頼らない)
・絶対NGな色の組み合わせを知りたい

◎色と時間・白い壁
・白い建築はまめに塗り直したりして白を維持しているんですか?ホワイトボックスが2030年経った時にどんな表情になるのか気になります。
・建築の色の時間変化について
・時間経過が想像できない。派手な色にチャレンジできない。

◎色と心理
・カラーセラピーみたいな色で人間の気持、感情ってコントロールできるんですか?
・感情に与える影響(赤→怒、青→悲など)

◎プレゼンに使う色
・鉛筆画のスケッチはうまく描けるが、色を塗ると台無しになることが多々ある
・CG空間で色別に反射率を求める方法を知りたい
・カラーカードで判別した色をRGB値に変換する方法を知りたい
・プレゼンに効果的な色の組み合わせ方

◎その他
・国によって建築の色の映え方が違うのはなぜですか?
・色を含めた様々なものに対するセンスが無いのが悩み

2013年1月6日日曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学②-失敗がない色の選び方(単色編)


失敗がないというか、失敗したと思ってもそのことに気付かれにくい色選び、と言ったほうがいいかも知れません。
2013年最初の色彩学は、“一発勝負の時の心構え”について、昨年末の経験からまとめてみました。

塗装の場合、色選びは時間にゆとりがありさえすれば、見本をつくって実際の見え方を確認することが出来ますから、実際に使用する塗料を用いて濃淡や艶の度合い等、異なる見本を数種用意し、比較検証の上、決定色を選定することが最も望ましい方法です。

ところが長く仕事をしていると、稀に一発勝負をしなければならない事態に遭遇します(他の部位の素材や色が決まっていて、それと同色にする等の場合は別として)。そのような時に適切な判断が出来ないと、多くの方に迷惑がかかりますし、現場の工程やコストに大きく影響を与えてしまいます。

そういう時には失敗したくないなあ、と思うものです。長く仕事をしていても、ぎりぎりまで『どこまで攻めていいか』と思うことはよくあります。無難と品よく馴染んでいることの境界。あるいは、際立っていることと浮いてしまっていることの境界。

空間を構成する要素の中の一つ要素だけで判断できる事ではないので、どちらに転ぶか、実際にその環境が具現化するまではわかりませんが、そうした条件を踏まえた上での一つの考え方です。

塗装で一番難しいのは、色の印象に最も影響の大きい彩度(鮮やかさ)のコントロールです。
いわゆる発色の善し悪し、です。ちょっとの色気で、雰囲気が変わってしまいますので、ビビッドな色や微妙なニュアンスのある中彩度色などは、やはり見本確認が欠かせません。

つまりそういう時間的・予算的余裕が無い時の逃げ道は、『彩度をギリギリまで控える』ことになります。
鮮やかさで失敗すると手当のしようがありませんが、地味での失敗は『馴染ませていますが、何か?』と言うことが出来ます(当社比)。

二番目は色相(色あい)で、ちょっと赤みを抜くとか、黄味に寄せるとか。
色あいの判定は比較対象が無いとわかりづらいので、建築を長くやっている人でも『この塗装とタイルは色相がずれていますよ』と言っても通じないことが多くあります。
塗装の職人さんには伝わりますが、塗料メーカーの営業の人には理解できない人が多かったりします。

例えば黄赤系のオフホワイトは、塗装色の中では最も一般的ですから、色調合に慣れた人(=メーカーの工場の方や職人)であれば色相を見誤る心配が少ない色です。再現しやすい色を把握しておく、ということも重要な要素です。

指定した色を再現してもらう際、再現する人の目・手による誤差を、どれだけ小さく出来るか。これは以前グラフィックデザイナーの原研哉さんからもお話を伺ったことがありますが、どの分野にもある程度共通する考え方だと思います。

具体の方法としては、ズバリを想定した場合、そのズバリ色に対して
『色相(色あい)は赤の方向、黄の方向(あるいは緑の方向、紫の方向等)、どちら寄りが好ましいか』
『明度(明るさ)の上限・下限は』
『彩度(鮮やかさ)の上限・下限は』

を指示することで、『ここまでだったらズレは許容出来る=ストライクゾーン』を設定してあげる、というやり方です。

例えば“明るいベージュ”を選定する際、選ぶ側にも見る側にも、ものすごく幅があるはずです。
その状況下で、自身が理想とする色は確かにあるのですが、それは何というか、物体の色そのもののことだけではなくて、その物体があることでつくりだされる状態を、どうすれば構築出来るか、が重要です。

形や質感との合性とか、その場の陰影の具合とか。色の見え方はその場の状況に左右されますから、(色の)『転び方』さえ把握していれば、ある程度の幅の中で決めて全然問題ないと思っています。
むしろ選定の際『絶対にこの色でなければならない』ことなど、ほぼ存在しないと考えることも出来ます(生産・商品管理の色再現は別として)。

許容範囲を決めるところまでは相当気を使いますが、実際の色合わせは(ズレが大きすぎなければ)許容してしまった方が良い、くらいに思っています。

…とはいえ、一発勝負の色合わせはひとえに職人さんの手と目にかかっているので、毎回緊張します。そうした経験も含めて、自分の中にデータを客観的に数値化して蓄積していくことがとても大切だと考えています。他での成功が、ここで通用するかはもちろんわかりませんが、経験の良いところは上限・加減の“見当”がつくようになることではないでしょうか。

一発勝負ならば賭けに出る、という方法ももちろんあるでしょう。あるいは、常にニュートラルな白にしておけば間違いない、という考え方もあるかも知れません。ですが、塗装の良い点はかなり微細な色調整が可能だという所にありますから、その利点を生かして徐々に段階を踏んでいくという訓練も悪くないのでは、と思っています。

ちなみに、今回は1色を選ぶ際のポイントについて書いていますが、複数色を選ぶ際はそれぞれの差異の設定の仕方にまた別の注意が必要です。それについては、また次回。

2012年12月21日金曜日

測色016-木材会館の経年変化

2012年も残り僅かとなってきました。
今年は例年にない慌しさで、事務所の大掃除・年賀状作成の目処が未だ立っておりません…。

測色シリーズ、今年も随分とマイペースに続けて来ました。
改めてじっくりと素材・色彩を見る、ということの面白さ、毎回様々な気付きがあります。

夏から秋にかけて、新木場にあるとあるアーティストのアトリエに何回か脚を運ぶ機会がありました。初めのうちは打合せで精一杯だったのですが、話がようやく起動に乗った頃、帰りに新木場駅周辺を見て回る余裕が出てきました。

駅前にある木材会館は2009年6月に竣工した東京木材問屋協同組合の事務所兼貸オフィスビルです。

竣工から約9ヶ月後、外観を拝見したことがありましたが、3年を経過した現在は木材の色が随分と落ち着いた印象になっていました。
早速、いつもの見本帳を取り出して実測。

ファサード正面、3.0Y 6.0/1.5程度。
同じ角材の側面、10YR 6.0/3.0程度。
陽に晒されていない奥の方の柱は、7.5YR 5.0/4.0程度。
木材の経年変化の様子、色相は赤みが抜け、明度が上がり、彩度は下がっていく様子が見て取れました。

コンクリート本実型枠部分、5.0Y 6.5/1.0程度。
自然素材の色むらは、自然の現象がつくり出したものです。変化の様子を見ると、どこに陽が当たって、雨風が吹き込んで来るのか…を想像することも出来ます。

測色結果をマンセルプロット図に落としたもの。周囲にある色の帯は、自然景観色の推移を示しています。
製材した木材はそこからまた新しい時間の変化を刻み、表情が変わって行きますが、樹木の幹の色は自然景観の中では“動かない色”にあたります。大地の土や砂、石などのように、一年を通して草花の色等に比べるとずっと変化が少なく、また地上において大きな面積を占める、自然界の基調色である、と言えるでしょう。

自然界にはまた、命あるものが色を持っている、という法則があります。鮮やかな色を持つ花も一時的なものであり、徐々に枯れ色に変化して行きます。
人間も同様、血が通っていることで、顔色が生き生きとしたり、外気温の変化によって顔が赤らんだり。年齢を重ねると代謝が下がりますから、顔色がくすんで見えやすくなりますし、更に命を全うし、火葬された後には全ての色を失い白い骨となります。

いつまでも変わらない色を有する、ということは自然に抗う行為です。変化し続け、それがいつかは失われる、ということに貴重な時間の流れを感じることが出来るのではないでしょうか。だからこそ命ある時間を大切に慈しむ、という精神を保てるのではないか、と考えることがあります。

自然界にあるもの・見た景色から、私達は様々な刺激を受け、インスピレーションを得ています。豊かな表情を持つ素材の、あるがままを受け入れること。または丁寧な加工を施し、長く美観を保てるような工夫を重ね、新しい命を吹き込むこと。

自然素材をふんだんに使用した木材会館の3年後を拝見し、素材の選定は慎重かつ大胆に、という思考・検証の行き来が繰り返された結果なのではないか、と感じました。

2012年12月7日金曜日

【お知らせ】エッセンシャルライトイベント Vol.02 に参加します

2012年12月12日(水) 19:00より開催されますエッセンシャルライトジャパン主催の『エッセンシャルライトイベントVol.02』にて、光と色に関するプレゼンテーションをさせて頂くこととなりました。

師走の慌しい時期ではございますが、他多数の照明メーカーのプレゼンテーションがあり、特に過渡期ともいえるLED照明について、多様な見識に触れられるとても良い機会だと思いますので、ご興味のあります方、是非ご参加下さい。


【L-1プレゼンテーション Vol 2】

L-1プレゼンテーションは様々なジャンルの方が「一押しの光」を短い時間で一気にPRするイベントです。

ギュッと凝縮し た素敵なプレゼンを行っていただきます。2回目となる今回は、前回に引き続き光の専門家である「照明メーカー」を中心にした方々にプレゼンテーションしていただきます。

LED全盛の現在、メーカー各社はどう光を向き合っているのか
これからの照明業界はどうなるのか
貴重でマニア ックな話を聞くことができるチャンスです。

主催:エッセンシャルライト ジャパン プロジェクト
共催:公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会・東日本ブロックライティングデザイン研究会
日時:20121212() 19:00 START18:00開場)
場所アクシスギャラリー・六本木アクシスビル4F

参加企業:
SD.hess Lighting株式会社
エルコライティング株式会社
カネカ株式会社
カラープランニングコーポレーション クリマ
コイズミ照明株式会社
山友工業株式会社
大光電機株式会社
有限会社タマ・テック・ラボ
株式会社フィリップス エレクトロニクス ジャパン
ルートロン アスカ株式会社


お申し込みはこちら


他の方々は皆照明に関するプロ中のプロばかりですので、私は自身の分野から、光によって浮かび上がる色彩とその変化のことなどについて、お話しようと思います。
どうぞ宜しくお願い致します。

2012年11月24日土曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学①-色見本帳の選び方

表題、ちょっと大げさですが…。
建築や土木の設計においてはその専門性に即した色彩学、が必要ですしあるべきだと考えています。自身が曲がりなりにも20年と少し、そのような対象と向き合ってきた経験から、何か役に立つことをコンパクトにまとめることが出来れば良いなと思い、本Blogを書き始めました。

今後は『特に重要!』という内容には、このタイトルを使って行きたいと思います。


色の数は(物理的な意味で)無限にあります。
種類が豊富であるということは、選択の自由さや多様性の象徴ですが、時としてその“お腹一杯”な具合に辟易してしまう場面も増えつつあるように感じています。

今海外のとあるプロジェクトで、2000色の塗料から建築設計に使いやすい200色を抽出し、カラーシステムを構築するという作業に携わっています。
2000色という色数、例えば日本で最も汎用性のある日本塗料工業会の色見本帳は632色(2011年度版)と比べるとその充実ぶりが伺えますが、中には区別のしずらい、誤差の範囲とも取れるような差異のものも見られます。色数の豊富さをむやみに競うより、使いやすくこなれた色群をまとめる編集力が高められ、“適切な”数量を賢く使いこなす方向へシフトして行くとよいな、と考えています。

色見本帳を使用する目的には大きく2つの段階があり、一つは『色を選ぶ』ためのツールとして、もう一つは『選んだ色を指定・指示する』ための共通ルールとして、ということが言えると思います。

ごく簡単ではありますが、入手しやすい市販の色見本帳の特徴と利点、扱う際の留意事項をまとめてみました。
他にも多々ありますが、価格があまりに高価で、学生や若い方が気軽に入手できるものではありませんし、自身も持っていませんのでここでの紹介は省きます。(ご興味のあります方はこちら。)

想像力を膨らませたり、既にある素材(天然石や木材等)の近似色を選定する際には出来るだけ色数が多い方が良いかも知れませんが、その際使用する色見本に汎用性が無いと、指定や指示の際には問題が生じます。

設計の実務においてはこの『指定・指示にかかる時間』を考慮しなくてはなりません。製品の色見本を製作するのにメーカーに依頼した場合、塗料等は大体一週間、タイルは2週間前後、金属の焼付塗装等は2週間~1ヶ月…と製造のプロセスによって見本の仕上がりには時差があります。

目的に合ったツールを使う。環境色彩デザインにおいても、道具選びは重要です。

日本塗料工業会 標準色見本帳(通称日塗工・全632色)
2年毎に改訂され、持ち歩きしやすいポケット版とミシン目があり切り取りが可能なワイド晩の2種があります。
建築・土木などによく使われる暖色系の低彩度色が充実しており、ポケット板が一冊あれば簡易な調査から計画・指定まで、『とりあえず』は事足ります。

使い慣れてくると『この色の彩度をもう少し下げたい』など、欲求が出てきますが、例えば『19-60B(10YR 6.0/1.0)とN60の中間』と指示をすれば、彩度を0.5程度下げた色、10YR 6.0/0.5程度を指定することも可能です。
(全ての建材で同様の指示が通るとか限らず、現場やメーカーの営業や工場の方とのコミュニケーションが必要になります。)

ポケット板は現在、Amazonでも購入可能になり、その手軽さと利便性、普及率が最も高いツールと言えるでしょう。

日本ペイント エクステリアカラー(全340色)
塗料工業会の標準色見本帳に比べると高価ですが、何より『エクステリア』用と謳われているだけあって、マンセル表色系の分類法に従い系統的に分類され、色相・トーンが揃っている点が大変優れていると思います。
販売元のHPにはカット式の色見本帳の掲載しか見当たりませんが、CLIMATには全体のシステムがわかる蛇腹式のチャートがあり、色相・明度・彩度が整い、いわゆる『コーディネートのしやすさ』という点でとても使いやすい製品です。

常々、“色は構造”であるということを意識していますが、その構造をひと目で・一覧に表記している建築・土木等設計用の色見本帳というのはあまり見かけることがありません。

日塗工の632色がこのようなチャートになっていると大変便利だと思うのですが。…ちょっと作ってみようかとも目論んでいます。

かれこれ10年くらい使っているのでボロボロですが…。背面に領布価格は2000円と記載がありました。
マンセル値と共に記載されている色番号は日本ペイントのオリジナルの品番ですから、他製品の場合、指定等には通用しませんが、チップを切り取って渡せば他の色票と同様の『現物』ですから、そういう使い方は可能です(…メーカーの方には怒られそうですが)。

ちなみにサンプルなどで指定の色をつくってもらうには番号やマンセル値の指示よりも、色見本(色票やタイルであればタイル現品)を渡し、その見本に色を合わせてもらうのが最も確実だと思います。依頼と指示・指定、それぞれにふさわしい方法がいくつかありそうです。

クロマリズム(全1280色)
主に内装用として開発された色見本帳。マンセル値が記載されており、色相配列になっているので大変見やすい見本帳の一つです。クロマリズムはこの本体(…ポケット、と呼ぶにはいささかサイズが大きく重いので、持ち歩きはしづらいです)のみで、カット出来るチップがありません。
しかし、色相配列の色見本帳は検討用には便利で、例えば日塗工の見本に無い色をこちらで探して、その色を元に色票を作成し現場へ手渡しする、といった使い方が可能です。


その他、PANTONEやDICの色見本帳は色数が豊富で文具・画材店等でも扱いがあり、デザイン科の学生はこちらの方が親しみがあると思います。しかしこれらの色見本は多色の使用を必要とするグラフィックやプロダクト製品等のデザインのために開発されたものであり、その豊富な色の中からグラフィックデザイン等とは目的の異なる建築や土木、ランドスケープデザイン等において『使えない色』が多すぎるように感じます。

『使いたい色』を抽出するために、検討の対象や目的毎に、色見本帳を使い分けることが望ましい、と思っています。

余談ですが、日本ペイントの色彩ツールの中に、日建設計基準色2010(47色)というものがありました。竹中工務店の色見本帳というものもあり、これは以前設計の方に譲って頂いたことがありますが、こちらも47色でした。
自身の経験からすると『う~んここまで絞るのか』と唸ってしまうほど、ニュートラル系の低彩度色を中心とした構成でした。(もちろん、業務によって色々な使い分けがなされていることと思います。)

色彩検討のために必要な色の幅、選定のために必要なツール、指定・管理のために求められる汎用性。これらの段階をしっかり意識しつつ、適切な使い分けをしていけば、色に対する苦手意識はきっと払拭できると思っています。

2012年11月7日水曜日

測色016-南洋堂書店


2008年より、KANDAルネッサンスというタウン誌に神田の色というテーマでリレーコラムを書かせて頂いています。自身の番が来るたび神田のまちを散策し、興味ある素材や色彩を探すのはとても楽しく、この測色シリーズを始めたきっかけの一つでもあります。

まもなく発行される96号の題材として取り上げたのは南洋堂。建築関係の専門書を扱う書店です。1980年に建築家・土岐新氏により設計されたコンクリート造の外観は、深い溝に落ちる濃い影と端正なグリッドパターンが独特の表情をつくり出しています。およそ32年を経過したコンクリートの色は5.0Y 5.3/1.0程度でした。

2007年の改修時に誕生したドローイングギャラリー。

建築の基調色の測色は日本塗料工業会の標準色見本帳で大体間に合います。
壁面に近づいてみると型枠の跡や骨材の粒が認識でき、天然石のような気泡も見られ、そうした“シミやシワ”の刻まれた外観は長い時間の蓄積を感じさせます。時間の経過は通常は意識されない、自然の変化以上に微細で僅かな差異を刻んでいくものなのだと思います。

真新しいコンクリート打ち放しの色は5.0Y 7.5/0.3程度。南洋堂の外壁と比べると二段階くらい明るい印象があります。また以前測色した早川邦彦氏設計の住宅は5.0Y 7.0/0.3程度でした。これまで多々測ってきた経験から、明度は6.5~7.5程度のものが一般的にはコンクリートの色として馴染みがある範囲だと考えています。

よく『素材色は一律でないから数値は役に立たない』と言われることがあります。確かに経年変化する素材の色を測る、という行為は、あくまでその瞬間を切り取ることでしかありません。ですが、上記のように変化の度合いを把握すればよいわけですし、客観的なものさしによって数値に置き換えられた色が、様々な判断を正しい方向に導くために大きな効果を発揮することが数多くあります。

例えば比較対象のサンプル(基準)として。この明度に対し、この素材がどれくらい対比的なのか、融和的なのか。基準(軸)があることにより、差異の強度がコントロールしやすくなります(自在に、とまでは言いづらいのがまた難しいところではありますが)。

コンクリートの例でいけば、『時間の経過と共に明度は下がり、彩度は僅かに上昇する』という特性を持つ素材として、位置づけることが出来ます。さらにその変化の速度と自然の草木が持つ変化の幅や速度との相関性などにも何がしかの繋がりがある、と考えており、紅葉する葉の色の変化や湿った土が乾いていく階調など、環境の色に置き換えてみることもよく試みています。

先日、内藤廣建築設計事務所に勤務されていた方にお話を伺ったところ、事務所には環境を取り巻く要素を数値化する機材、あらゆるものが揃っていたそうです。温度計、湿度計の他、風速計や照度計等。客観的に数値化できるものは徹底的にデータ化して、身体と頭で覚えていく。そんな訓練の一つとして、色彩の数値化ももっと一般的になって行くとよいなと考えています。

素材の肌合いや艶感、微細なゆらぎ等を数値化することは出来ませんが、一度マテリアルを『色』という単位に置き換えて評価し、実際の見え方との比較や適切な強度を設定していくことに大いに役立ちます。

それはその素材と相性の良い素材(・色彩)を探り出す際、とても役に立つ基礎データです。

ところが、今日も『(明度)90超えのアーキテクトホワイト』なるキーワードを目にしてしまいました。常に最高の白でなければならない、という強迫観念?にも似た思い。これは様々な設計者から聞いてきた言葉の一つです。そのように頂点で際立つことを善しとする場合には、対象との比較により周囲との関係性を築いていくためのものさしは必要無く、それはそれでわかりやすいというか、経験に基づく信念であることには変わりは無いのかも知れません。

どちらが正しいとか間違っている、ということを言いたいのでは無く。上限・下限、あるいはその中間など、全ての際(キワ)にこそ、丁寧な検証が必要である、と思うのです。

2012年10月12日金曜日

MATECO第二回勉強会のお知らせ


素材色彩研究会MATECOの第二回勉強会のお知らせです。詳細、MATECOのblogをご覧下さい。


今年6月に実施しましたタイル工場見学会の内容を元に、タイル施工店・不二窯業株式会社の方や建築家の蘆田暢人氏をお迎えし、生産・設計・施工、それぞれの側面からタイルという素材について探求する会にしたいと考えています。 

蘆田氏は昨年まで内藤廣建築設計事務所に在籍されていた方です。前職では虎屋京都店や島根芸術文化センター等をご担当されていました。
ある偶然から私が以前書いた虎屋のタイルについての文章をお読み下さり、何度かメッセージをやり取りさせて頂くうち、是非もっと詳しくお話を伺ってみたいと思い今回のレクチャーをお願いしました。

建築家の方が素材を選定するプロセスや決定の論理について、どのようなお考えで素材と向き合っていらっしゃるのか…。素材・色彩という切り口から作品を語って頂くという、とても贅沢な(そして滅多にない)機会だと思います。

今回の勉強会は見学会に参加した方が面白かった・ためになった、で終わりにしてしまうのはあまりに惜しい内容でしたので、参加できなかった方々とも情報を共有するためにどうすれば良いか、というところからスタートしました。

タイルという建材が設計・施工のプロセスの中でどのような役割を果たすのか、またなぜタイルなのか、ということをそれぞれの立場からトータルに追求してみよう、という試みです。

工場内にあった様々なタイルのデータ。細かなデータがびっしりと記載されていました。勉強会では工場見学のレポートもご紹介します。
勉強会というとカタイ印象かもしれませんが、目指しているのはMATECOラボ&ゼミ、というイメージです。
どうぞお気軽にご参加下さい。

●テーマ 『素材が立ち上がるまで-日本のタイル 生産・設計・施工の現場から』
●プログラム
・タイルとは?-タイル工場見学報告(見学会参加者有志より) 15
・タイルの施工技術について-明治から現在まで
        (仮題・田村柚香里氏+清水真人氏+田中信之氏) 45
・設計の現場から-タイルという素材(仮題・蘆田暢人氏)     45
・質疑応答(全体でディスカッション)                                    45
・ゲストプロフィール
 不二窯業株式会社 http://www.fujiyogyo.co.jp/
 蘆田暢人氏(蘆田暢人建築設計事務所代表, ENERGY MEET共同主宰)
 
●日時:2012112日(金) 18302100 
●参加費:500円(会場費・お茶代)
●定員:30
●場所:幸伸ビル GROUNDSCAPE KNOT 【文京区本郷6-16-3 地下1階】
●連絡先(事前):加藤幸枝/ykatoykato(アットマーク)gmail.com
●連絡先(当日):お申込みの際、ご連絡します。
●申し込み:100mateco(アットマーク)gmail.com 宛に、
 氏名・年齢・連絡先・所属(学生の方は学部・学科も)をご記入の上、メールにてお申し込み下さい。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂